経済産業省は7月21日、エネルギー基本計画で焦点となっていた2030年度の電源構成について、再生可能エネルギーの比率を今の計画より10ポイント以上引き上げ「36〜38%」とする改定案を公表した。素案に対し、「どれひとつとして確実な達成が見通せる電源がない」とし、委員1名が反対、複数の委員が再エネの見えぬ実現性に疑義を呈した。
3年に一度の改定に向けて、次期エネルギー基本計画の議論が大詰めを迎えた。
経産省は7月21日に開催した総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第46回)において、焦点となっていた2030年の電源構成について、再エネの電源比率を「36〜38%」とする素案を公表した。2018年に策定した現行計画の「22〜24%」から10ポイント以上引き上げた。
再エネ比率に関しては、前回7月13日の分科会において再エネの上積みを検討したものの、2030年46%削減目標に対し400億kWh足りず、さらなる積み上げが求められていた。
今回の素案では、環境省など各省庁の責任をより明確化し、「洋上風力」「地域共生」「民間企業」「地熱・中小水力」で最大限導入することで200〜400億kWhの上積みが可能だと試算した。
具体的には、経産省管轄のもと、北海道を中心とした洋上風力発電の導入拡大に向け、海底ケーブルなど系統増強により4GWの導入を見込む。また、環境省、農林水産省が連携し、約1,000市町村が公有地や脱炭素促進区域などに導入することで、4.1GWの導入を目指す。さらに民間企業の自家消費拡大や、導入が遅れる地熱、中小水力を強化するというもの。
一連の積み上げによって、再エネ比率36〜38%目標を掲げた。
原子力は「20〜22%」を維持したものの、「国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく」という表記にとどめ、新設や増設、建て替えなどは盛り込まれなかった。
火力発電は現行計画の56%から40%程度に削減され、その内訳はLNG(液化天然ガス)20%、石炭19%、石油2%となった。
また、2030年46%、そして2050年脱炭素実現に向け、水素・アンモニアが1%ながら、はじめて電源構成に加わった。
一方、電力コストの上昇は不可避のようだ。現行計画では2030年度の電気料金は1kWhあたり9.4〜9.7円だったが、素案では9.9〜10.2円と試算。国民負担の増加は避けられず、今後、議論を呼びそうだ。
出席した委員からは「再エネ36〜38%の実現可能性」「原子力の新増設、建て替え」に対する賛否が集中した。
橘川武郎 国際大学副学長は「野心的な見通しが出た。この野心という意味は密かに望む大きな望みだ。だが、事務局の態度は密かではない。野心のもうひとつの意味が身分不相応の良くない望み。こちらのニュアンスに非常に近い。やはり46%という数字に帳尻合わせをした結果であり、リアリティに欠け、将来のエネルギー政策に大きな禍根を残すのではないか」と厳しく指摘。そして「このエネルギーミックス案に反対する」との意見を表明した。
さらに橘川氏は、「再エネは達成して30%、6〜8ポイントが未達になる。原子力も頑張って15%、5〜7ポイントが未達に終わるだろう。その未達分を結局、火力でおぎなうことになり、46%は達成できず、海外から排出権を買いバーチャルで達成するという、国費の大量流出がほぼ決まった。このようなミックスをつくる必要があるのか」と続けた。
原子力に関して、杉本達治 福井県知事による「2050年においても必要な規模を持続的に活用すると記述されているが、必要な規模とは具体的に何基なのか」といった意見をはじめ、複数の委員から「新増設、建て替えに関して記述すべきではないか」「原子力問題を先送りすることはもう許されない」という意見が出た。
そのほか、中国や韓国などの消費量増加により争奪戦が起こるLNGなどの資源について、「LNGの削減は日本のバーゲニングパワーの低下をもたらす。資源外交を強化すべきだ」との指摘や「脱炭素実現には、カーボンプライシング導入が欠かせない。素案に盛り込むべきだ」との意見が出た。
野心的な目標は実現可能なのか、多くの委員が疑問を呈したなか、資源エネルギー庁の保坂伸長官は「数字が未達になる可能性はもちろんある。しかし、CO2の削減ができなければ、環境貢献に対する日本のリーダーシップは失われ、100%脱炭素電源でものをつくれなければ、企業は輸出すらできず、産業競争力が低下する。この国は今、厳しい現実に直面している」と述べ、野心的な目標の必要性を語った。
経産省では8月にも原案を決定し、バブリックコメントを経たのち、10月までの閣議決定を目指している。
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(Text:藤村朋弘)
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