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脱炭素の鍵握る洋上風力発電 日本の下剋上が始まる

2021年11月29日

日本の洋上風力発電の現状とは

2020年度12月末時点の数字になるが、日本の洋上風力は、累積で58.6MW、28基、7サイトが運転をおこなっている。沿岸部からアクセス可能なセミ洋上風力も含まれており、沿岸距離2km以上の本格的な洋上風力はこのうち、14.4MW、5基、4サイト。そのうち、12MW、4基3サイトは浮体式になる。

なお、2020年の新規設置はなく、かつ、これらはほぼ実証実験という段階だ。日本の洋上風力はまだ本格化していない。

ただし、港湾での洋上風力の導入計画は進んでいる。すでに秋田県能代港では140MWの洋上風力発電(着床式)が2022年末の運転開始に向け建設が進む。秋田県能代市は国の定める洋上風力の「促進地域」だ。促進地域はほかに秋田2ヶ所、千葉県銚子市沖の合計4ヶ所が定められており、事業者による計画がそれぞれ立てられている。

これからの洋上風力の開発は、もちろん、より沖合の、一般海域での発電所開発となる。

2020年12月、経済産業省の審議会「洋上風力産業ビジョン(第一次)」や、グリーン成長戦略などにおいて、日本政府は、2030年に10GW(1,000万kW=1万MW)、2040年までに30〜45GW(3,000万kW〜4,500万kW=3〜4.5万MW)の導入を目指すという目標を掲げた。いまは本格化に向けた準備段階といえるだろう。

世界の洋上風力事業者トップ企業、オーステッドのアジア太平洋地域責任者は我々の取材に対し、「日本は着床式で90GWのポテンシャルをもっている。年間1から1.5GWのオークションも計画されている」と答えている。また、2020年8月の経産省審議会における日本風力発電協会の資料では「2030年には1GW/年、2040年からは2〜4GW/年の市場規模の目標設定」を提案した。

しかも、この90GWのポテンシャルは着床式のみの数字だ。

つまり、もっと量的展開が可能な浮体式については入っていない。そう考えると浮体式が入ってきたらもっとすごいことになる。それでは、次にポテンシャルの高い浮体式洋上風力について解説していきたい。

着床式よりもポテンシャルの高い浮体式とは何か

洋上風力は、海底に基礎を直接打ち込む着床式と、海の上に船の原理のような形で土台を浮かせてその上に風車を立てる浮体式の2つがある。いま、主流は着床式であり、これは欧州などの海が遠浅であることにも関係している。

日本の場合、海がすぐに深くなってしまうので、浮体式も重要になる。というか、本当に量的展開をやろうとしたら浮体式、というのが筆者の持論だ。

世界でも、水深を気にしなくてよいため、より広範囲な設置が可能な浮体式の開発と導入が進んでいる。

では、日本政府はどう考えているか。この浮体式は第6次エネルギー基本計画において、以前、解説した次世代太陽電池(ペロブスカイト)と同じく、「革新技術の開発」の扱いになっている。

『特に、サプライチェーン構築に不可欠な風車や中長期的に拡大の見込まれる浮体式等については、要素技術開発を加速化し、長期間にわたる技術開発・実証等を一気通貫で支援する取組等を行う。また、政府間の協力関係の構築と国内外の企業の連携を促し、海外での洋上風力事業への参画等を検討する日本企業をFSや実証、ファイナンスで支援しつつ、浮体式の安全評価手法の国際標準化等を進める』(第6次エネルギー基本計画(案)より)

中長期では、と書いてあるとおり、浮体式については、時間軸はさらに少し後ということになりそうだが、ただ、日本が脱炭素で世界を取りに行くのであれば、逆に海が深いというハンデを乗り越えて、技術を磨くというところも見えてくる。

ここは産官学の連携をもって進めるべきところだと思うが、日本政府もその思いは持っているようだ。

なぜなら、この「革新技術の開発」は、当然ながら日本の洋上風力の発電量確保だけの問題ではない。浮体式の技術を、アジア展開を見据えた次世代技術開発につなげたいという思惑もあるからだ。

では、世界の浮体式はどうなっているのか。次に、世界の主戦場になる浮体式の開発競争について解説したい。

世界における浮体式の開発競争はどうなっているのか

グリーン成長戦略には「横一線」と記述されているが、浮体式の開発競争はすでに始まっている。牽引しているのは、これまた欧州だ。2022年には浮体式の累計導入量300MWを目指している。

とにかく欧州は脱炭素のとっかかりが早い。

実際、10月19日に世界最大の浮体式洋上風力がスコットランド沖合に完成した。キンカーディン洋上風力発電所は海岸からは15km離れ、水深は60mから80m。50MWで、年間200GWhの電力を発電する。また、同じくスコットランドでは最大100MWの浮体式洋上風力発電所「Pentland Floating Offshore Wind Farm」の計画が進む。フル稼働は2027年と先だが、検証用の8.6MW浮体式一基は2023年の建設予定だ。

日本企業は置いてけぼりをくらっているかというと、そんなことはない。このコンソーシアムには丸紅が参画している。丸紅については、筆者としても素直に評価したい。

そのほか、フランスのブルターニュ沖などで200MWを超える大型案件が進んでいる。

欧州だけではない。欧州とならぶ風力大国の中国では、2021年に再エネ大手の三峡集団が5.5MW実証基を試作し、広東省沖で実証実験をおこなうと発表。実は、中国は着床式洋上風力の導入量が世界2位だ。浮体式でも導入量拡大を目指している。さらには、韓国も洋上風力トップ5を目指し、6GWの浮体式洋上風力発電所の建設計画を発表した。

浮体式の要素技術は浮体の基礎、ケーブル、そして係留索とアンカーに大きくわけられる。中でも浮体基礎はコスト的にも全体の3割を占める重要な要素だ。

その浮体基礎はスパー式、セミサブ式、バージ式、TLP式の4つが主流で、それぞれ一長一短があり、まだ開発は継続中である。ただし、4つの中でもスパー式とセミサブ式が本格的な商用利用に一番近い。

そこで注目したい企業がある。いま紹介したスパー式を開発、運用している戸田建設だ。そこで、戸田建設の浮体式洋上風力について紹介していきたい。

注目の日本企業、戸田建設の浮体式洋上風力・・・次ページ

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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