次期エネルギー基本計画の見直しに向けて、技術と政策はどうあるべきか? 短期集中連載の第3回は、エネルギーミックスを考える時に避けては通れない原子力発電と、雇用の転換について。経済産業省の総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会の委員である秋元圭吾氏にお話を伺った。
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短期集中連載:秋元圭吾氏に聞く脱炭素への道
(全5回 毎日更新)
第1回 カーボンニュートラルは、なぜ困難な挑戦なのか (3月15日公開)
第2回 エネルギーミックスの目標と技術の進展をどう考える (3月16日公開)
第3回 原子力発電をエネルギーミックスにどう位置づけるのか (3月17日公開)
第4回 エネルギーインフラへの新規投資に必要なものとは? (3月18日公開)
第5回 DXとEV、ユーザーに立ち返ったサービスでCO2削減を (3月19日公開)
―原子力発電については、日本で主流の大型の軽水炉ではなく、小型炉が次世代型として注目されています。
秋元氏:原子炉のタイプとしては、現在主流の軽水炉と開発中のSMR(Small Modular Reactor:出力30万kW以下の小型原子炉)の両方が必要だと思います。SMRは開発できたとしても、現在の軽水炉のようなコストでは実現が難しいでしょう。
そもそも、今、SMRが脚光を浴びている理由は、電力自由化に伴うコスト回収期間の短縮が背景にあります。従来の総括原価方式は、開発から稼働までに30年間かかっても、その後40年間の安定的な電力供給によって発電単価を低くでき、投資回収が可能な仕組みでした。電気が必ず売れると約束された予見性の高さから、投資がしやすい仕組みだったのです。
Small Modular Reactorのベンチャーのひとつ、Terra Powerにはビルゲイツの財団も投資している。
ところが、電力自由化になると開発に30年間もかける体力がなくなりますし、投資回収の予見性もなくなります。短期で投資回収ができる小型のSMRの開発ニーズが高まっているのは、こうした背景によるものです。その証拠に、アメリカでも電力自由化が解禁されている州ではSMRの開発に熱心ですが、規制されている州では軽水炉に力を入れています。
電力自由化した日本でも、大規模な軽水炉型の原子力発電が建設しにくくなっている状況を考えると、投資回収の早いSMRの開発に取り組み、可能性を探るべきでしょう。ただ、大量かつ安定的に発電できる軽水炉のメリットも捨てがたいと考えます。軽水炉の可能性を追求しながら、補完的にSMRの技術開発も進めていくべきだと思います。
―短期的な目標として、2030年や2040年のエネルギーミックスを定めるべきでしょうか?
秋元氏:まず、電力自由化によって政府の掲げる数値目標があまり意味をなさなくなってきていることは指摘できます。一方で、エネルギーは長期計画が必要なため、政府が目安としての目標値を示すという重要性はあるでしょう。その意味で、2050年にしろ2040年にしろ目標を定める意味はあると思います。
その前提で、2030年のエネルギーミックスを今どう扱うかが問題です。どう扱うかというのは、その位置づけを予測とするのか、あるいは目標とするのかという意味です。
予測だとすると、今の原子力の20~22%は高すぎると思います。しかし目標だとすると、第5次エネルギー基本計画を決めた当時としては妥当な数値でしょう。
現在、第6次エネルギー基本計画に向けて検討が進められていますが、前回とは状況が異なる点がいくつかあります。CO2削減は以前よりさらに深堀りしなければなりませんし、コストやエネルギー安全保障の問題もあります。
こうした中でエネルギーミックスのどの部分を変更するかと考えると、原子力の割合を減らすのが蓋然性としては高いように思われます。しかし、国際的にもCO2の制約が高まる中、原子力を減らす選択肢は本当に妥当な判断でしょうか。予測という視点では減らした方がよいでしょうが、目標の視座に立つと20~22%を据え置くべきだと思います。
一方、再エネはFITという強力な手段で国民負担を強いながら、その代償として再エネの普及が進みました。予測という観点では、FITという強力な手段が効きすぎたことで5ポイントほど上振れするでしょう。そのため、30%前後を目標としても可能になりつつあります。
原子力は減る方向にありますが、原子力の再稼働へのモチベーションを維持するなら、目標値は今のままでもいいのではないかと思います。
地球環境産業技術研究機構システム研究グループ(RITE) 秋元圭吾 主席研究員
―パリ協定での削減目標を野心的なものにするために、石炭の割合も問題になっています。
秋元氏:非効率石炭火力発電所のフェードアウトの議論が始まっていますが、当然ながらこれは簡単な問題ではありません。地方の石炭火力発電所は、雇用を支える役割も有しています。
日本だけでなく世界中で「ジャスト・トランジション(公正・正当な移行)」という議論がありますが、これには雇用を調整できる時間フレームが必要です。エネルギーミックスを32%から26%に落とすだけでも難しいのに、2030年までにさらに下げるとすれば対応できないのではないかという気がします。
石炭火力発電所からの転換には雇用の問題も重要
そうすると、2030年のエネルギーミックスを見直す価値そのものがあるかどうかにも疑問が生まれます。他方で、エネルギーの需要側からみると、需要は年々減っており、コロナ禍でさらに減少しました。
そのため、エネルギーミックスは変わらないままCO2排出量は減っています。そう考えると、パリ協定で目指す2030年までにGHG排出26%削減(2013年比)という目標は深掘りできる可能性を帯びてきます。
以上のことから、電源構成の見直しは、目標の観点からは慎重になった方がよいと思います。一方、予測という視点では、原子力が減り、再エネが増えるという見通しが正しいのではないでしょうか。
(第2回 「カーボンニュートラルはなぜ困難な挑戦なのか」はこちら)
(第4回 「エネルギーインフラへの新規投資に必要なものとは?」 は3月18日公開です)
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