レジェンド?はたまた惰性?~足温ネット20年の軌跡 7
前回は、足温ネットが省エネルギーを地域に広めていくために取り組んだ「省エネゲーム」について紹介した。そこからさらに、具体的な地域の省エネ事業として発展していく。次に行ったのは、家庭の消費電力の大きな部分を占める冷蔵庫を省エネ型に買い替えてもらう、という取り組みだった。それはどのようなしくみで行われたのか、足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ(足温ネット)事務局長の山﨑求博氏が当時を振り返る。
省エネゲームの社会実装として始めた省エネ家電買い替え事業ですが、事業開始までに半年以上かけてスキームづくりをしていました。
過去の記録を紐解くと、2002年末の運営委員会で「節電所認証」というワードがありました。省エネ家電に買い替えた家庭を節電所として認証するものです。家庭も参加しやすいし、達成度も実感できることから1年ごとにモニタリングするとし、ここで「買い替えに低利融資し、節電分で返済する」という事業の土台ができました。
当初案は、ノンフロンで省エネ型冷蔵庫を、足温ネットが無償で家庭に設置し、冷蔵サービスを提供しながら、冷蔵庫の買い替えによって節電できた電気料金で毎月返済する、というものでした。
自分たちでやってみた結果、足温ネットが購入設置するのではなく、先に融資対象者が購入し、消費電力をモニタリングしてもらう代わりに足温ネットが担保を取って資金を融資し、モニター期間中に節電分を定額で返済する、といった事業の基本が組み立てられていきます。
また、「モニター期間は5年間をメドにする」「エアコンは電気使用量が分からないから今回は対象から外そう」といった意見も出て、都度修正しながらスキームが固められていきました。
買い替えサポート事業スキーム
2003年8月、買い替えモニターの募集を始めました。プレスリリースにハガキの郵送、メールでの発信とPRに務めましたが、反応は芳しくありません。それもそのはず、「足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ」という長い名前の団体から、「冷蔵庫を買い替えるならお金を貸しますよ」というメッセージが届くわけですから怪しまれても当然です。それでも、3件の融資対象者が決まり9月に融資が行われました。
そして、実際に融資対象者を訪ね、現在使っている冷蔵庫の現状を確認したうえで融資の説明を行うことになりました。まず、公営住宅にお住いの年金受給者だった方の冷蔵庫は、驚くなかれ20年前の製品、すでに冷凍庫は壊れてましたが大事に使い続けていました。このもったいない精神が買い替えに対する反論として後ほど出てくることになります。
もう1件の方は小さなお子さんがいる若い世代の家庭でした。お宅を訪問すると、「あっ、れいぞうこのひとだー」と女の子が出てきました。聞くとコミュニティペーパーを見て応募したのとのこと。省エネ型の冷蔵庫が結構種類がありますよ、と話すと「へー、そーなんですか」との返事。見れば、テーブルの上にある新聞の折り込み広告には家電量販店のチラシがあり、インターネットができるPCもあります。情報があっても当事者の意識が変わらないとダメなんだなーとつくづく思いました。
買い替えサポート事業スキーム
そして、実施してみると色々な反応が各方面から届くようになります。日立環境財団の機関紙『季刊 環境研究』から執筆依頼が届きました。
実は、2002年に環境省「NPO/NGO・企業環境政策提言」で優秀提言に選ばれていて、そうした受賞団体の特集号ということでお声がかかりました。政策提言のテーマは、省エネゲームを活用した「地域における省エネ意識醸成と自然エネルギー推進」でしたが、せっかくなので省エネ家電買い替え事業について書かせていただきました。また、環境政策提言については、2年連続で応募し、準優秀提言に選ばれます。テーマはもちろん省エネ家電買い替え事業による「コミュニティ節電所の設立」です。
自分たちの活動が対外的に評価されているとの実感は自信につながり、とりあえず第1回目の融資を実施できたので、今後も融資を継続的に実施することになりました。しかし、ここでひとつの問題が出てきました。融資する原資です。
実際に融資してみると、1件当たり10万円は必要だということが分かりました。しかし、事業収入が少ない環境NPOなので、3件融資したらいっぱいいっぱいです。まして、何ら利益を生まない融資事業にお金を貸してくれるところがあるとは思えません。困ったなあと思っていたところに、「APバンク」設立の話が舞い込んできました。
坂本龍一氏や小林武史氏、ミスターチルドレンの櫻井和寿氏といったアーティストたちが、環境問題解決のために何か行動できないかと自分たちが拠出した1億円を資金に、年利1%という低利で環境事業に融資する法人を立ち上げるというのです※。
以前、市民立発電所建設にあたって融資していただいた「未来バンク」は年利3%だったので、「APバンク」の1%は魅力でした。融資資金の返済は節電できた電気料金なので硬い事業ですし、足温ネットで1%の金利分を負担すれば無利子融資が可能になります。
ただ、この「APバンク」設立をサポートしていたのは「未来バンク」で、足温ネットと重複するメンバーもいたため、仲間内に融資をするのはどうかとの逡巡もあったようですが、無事総額200万円の融資を受けることになりました。
こうして、次なる融資募集を始めることになります。さて、この事業がどのような経過をたどるのかは、また次回で。
※現在、APバンクは融資を行っていません。
(この連載は毎月更新します)
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