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厚生労働大臣政務官の小鑓(こやり)隆史参議院議員は、温暖化対策をはじめとする環境政策、エネルギー政策などに従事してきた。検討が進む第6次エネルギー基本計画や電力システム改革など、これからの日本が取り組むべき施策について幅広く意見を伺った。今の日本に必要なものは、エネルギー政策を貫く太く力強い「軸」であるという。
― 菅首相のカーボンニュートラル宣言について、率直な感想、思いをお聞かせください。
小鑓隆史氏:日本は国際的な情勢を含めていろいろな制約がある中で、かねてより再生可能エネルギーの導入を進めてきた国のひとつです。日本の国民性や政府はスローガンにとどまることを許さず、実態を重んじる性格です。本気度を示すという意味で、カーボンニュートラル宣言は意味があったと思います。
特に今、エネルギーの実態を動かすのも難しい状況です。この中で2050年カーボンゼロを目指すのは積み上げでは厳しいでしょう。もちろん、これは日本だけでなく世界共通で、イノベーションに頼らざるをえない状況であることは確かです。この宣言によって、政府は2兆円の基金をつくりイノベーションを促進する政策を飛躍的に強化しました。エネルギー業界にとどまらず、鉄鋼をはじめとするエネルギー多消費業界の革新的な技術開発が触発されるという面においても、意味があったと思います。
率直に言うと、野心的な目標に対して現実的なエネルギー政策をどう動かしていくかは、相当に難しい課題だと感じています。エネルギー基本計画は、今から半年ほどで大きな方向性が定まると思われますが、非常に難しい舵取りが迫られています。
小鑓隆史参議院議員
―第6次エネルギー基本計画に向けての改訂作業が進められています。この新しい基本計画では、電源構成についてどのような数値にするべきでしょうか。
小鑓氏:エネルギー政策にとっての10年後の世界は、すぐ先の話です。その方向性を大幅に変えることは非常に難しいものです。私はヒューストン勤務時代、エネルギー産業動向の調査に関わっていたことがあるのですが、例えばひとつの油田開発には10年ほどかかります。そのタイムスパンで考えると、宣言をきっかけに2030年までのエネルギーのあり方が様変わりするとは考えにくいでしょう。この意味では、次のエネルギー基本計画も2030年についてはそこまで大きく転換しようがないのではないかと思います。
前回の第5次エネルギー基本計画(2018年)では、福島原発の事故後、再エネの主力電源化が掲げられました。しかし、現実的な政策をとるべきエネルギー政策において、事故後のエネルギー政策の機軸が決められなくなってきているような気がします。また、カーボンニュートラル実現には、日本は現実的な選択肢としての原子力に頼らざるをえないと思います。
その原子力発電所の再稼働が進まない中で、10年、20年先の方向性についての議論すら真正面からできていません。今もまだ冷静な議論をするには難しい状況です。
エネルギーには、柔軟性やしなやかさがもっとも求められます。電気は国家運営の基本です。それにも関わらず、今は国の根幹であるエネルギー供給の軸がみえづらくなってしまっています。次回の基本計画では、2050年カーボンニュートラルという野心的な目標を立てると同時に、その軸をさらに力強く太くしていく必要があります。
― 再エネのみによるカーボンニュートラルは難しいのでしょうか。
小鑓氏:日本の面積あたりの再エネ導入状況は、世界最高に近い水準にあります。地理的な条件を考慮しても、諸外国に比べると追加導入は難しいでしょう。再エネの主力電源化に向け、現実的にあとどれくらい再エネを追加できるかはしっかりと検討を深めるべきだと思います。
したがって、原子力は、脱炭素化に向けては活用せざるをえないでしょう。2050年に向けて原発を活用するのであれば、今のようなぼやかした表現ではなく、そろそろ具体的なステップを固めていくべきです。いずれにしろ、しっかりとした複数の軸を打ち立ててエネルギーの選択を進めていかないと、相当危ういエネルギー供給体制になるのではないかと懸念しています。
― 今ある原発の再稼働、あるいは新技術の開発はどうするべきでしょうか?
小鑓氏:SMR(小型モジュール炉)という小型の原子炉の技術開発などに決め打ちして開発を進めるほどの余裕は日本にはないでしょう。ですから現実的に、今ある原子力発電所は再稼働し、最大限活用する必要があります。もちろん、十分な安全性が前提です。
リプレイスや新設は複雑な問題ですが、新しい原発に更新する方が安全性は高まります。しかし、今はその議論すらできていません。リプレイスするのか、既存の能力を拡大するか、その判断には整理が必要ですが、まずは既存の原発を活用できるように安全性を高めながら国民の理解を得ることが大切です。その上で、新しい技術開発に取り組むのがよいでしょう。
SMRなどの新技術によって、日本の原子力を取り巻く問題が解決されるものではありません。原子力に関する技術開発は、10年よりもっと長いスパンで考えるべきです。複数の選択肢を常に持っておくというのは、資源のない日本にとっては特に重要なあり方だと思います。その際、エネルギーが止まったらすべてが止まるという意識を肝に銘じて、しなやかさをできるだけ確保することが大切です。
― そういった点を踏まえ、第6次エネルギー基本計画ではどういう政策をとるべきだとお考えですか?
小鑓氏:2030年の位置づけは、10年前と2021年ではまったく異なります。先ほど申し上げたように、エネルギー政策上の10年間はあっという間です。2050年カーボンニュートラルの達成に向けては、技術革新が非連続的に組み込まれないといけません。今までのような積み上げだけに頼らない現実的な政策のためには、2040年の目標も検討する必要があるでしょう。
次回のエネルギー基本計画ではイノベーションとエネルギーの軸の双方にしっかりと取り組む必要があります。イノベーションでは、実現可能性があるものから拾い上げ計画に組み込むべきでしょう。また、化石燃料というエネルギーの軸は、将来的に原子力と再エネに置き換わり、あるいはCCUS(CO2回収・利用・貯留)がどこまでできるのか。また、水素は化石燃料にどこまでとってかわるのか。その上で、再エネと原子力という軸を、どれだけ足腰の強いものにできるかに掛かっています。3年前は原子力についての議論すら十分にはできませんでした。
2021年は東日本大震災から10年の節目です。しかし、10年かかっても再稼働はほとんど進んでいません。仮にリプレイスを決定しても、議論に20年など長時間を費やすことになるでしょう。2050年までにはもう30年を切っており、残された時間はそうありません。しっかりしたスタンスをつくり、ある程度は原子力でまかなうことを決めなければならないのです。
再エネ賦課金の国民負担は4兆円を超えています。一方、原発ゼロの反動で化石燃料の使用が増え、CO2排出量も増加しています。本当の意味で現実的な政策と向かい合い、リスクの取捨選択を行う断面にきています。
― そうした中にあって、再エネでも洋上風力発電には大きな期待が寄せられていると思います。
小鑓氏:エネルギー基本計画上では、大規模な洋上風力発電は大きな選択肢のひとつです。政府も、風力発電における洋上風力発電は一丁目一番地として注力していく姿勢でしょう。日本周辺の海洋状況や諸々の調整を含め、できることからやっていく必要があります。
― 2030年ガソリン車廃止が話題になっていますが、日本の基幹産業である自動車業界が生き残れるのかどうかは、政策にかかっていると思います。
小鑓氏:EV化の推進に関しては、日本は欧州のしたたかさを学ぶべきでしょう。日本車は、ハイブリッド技術などで欧州車を凌駕していました。だからこそ欧州は、ガソリン車から一足飛びにEV化を目指しているのでしょう。日本のHVの技術は素晴らしいものですし、欧州に比べ日本の夏は蒸し暑く、エアコンを利かせて走るため、HVが優位です。EV化の普及に関しては地域性や気候条件も考慮するべきです。2030年にすべての車が電気で動いている未来というのは、個人的には想像し難いものです。実際には、ハイブリッドを中心としてEVの生産能力を高めていくことが現実的な落としどころではないでしょうか。
― 電力システム改革の状況について、お考えをお聞かせください。
小鑓氏:今までの議論の中では、ほとんどのトピックスが俎上に乗り動いています。やれることは相当やっていると感じています。インフラは数年で大きく変わっていくものではありません。今、大手電力会社はそれぞれ体力を削りながら安定供給を頑張っています。これから再エネ事業者がさらに増えると利害衝突も激化します。また、原子力や大規模電源の位置づけ如何によっては、体力をある程度残しておかないと生き残れない状況になるでしょう。たった今は、新たな諸制度が動き出し、既存のシステムとのバランスを見定めるための「産みの苦しみ」のプロセスではないでしょうか。
― 日本はエネルギーについて、どのように考えていくべきでしょうか。
小鑓氏:日本には資源がない上に、再エネは世界に平等に与えられている訳ではありません。そういう制約をしっかりと認識し、現実的なエネルギー選択の幅を広げながら安定したエネルギー政策を進めるということに尽きます。この点は忘れられがちですが、自然エネルギーの利用価値は国によって異なります。これを念頭に置きながらエネルギー政策の舵取りを行わなければ危うい状況に陥ってしまいます。
(Interview:本橋恵一、Text:山下幸恵、Photo:岩田勇介)
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