電力市場レポート第2回をお届けする。この連載では卸電力市場の価格変動を仔細にみていくことで、各種制度や地域差、気候変動などが電力価格にどのような影響を与えているのかを分析する。そこからはエネルギー業界の最新の変化を見通すことができるはずだ。今回は、九州エリアの市場価格と太陽光発電増加の影響について。
低価格となる時間帯の増加
今回は九州エリアの市場価格に触れたいと思う。九州エリアは、西日本エリアの1エリアと言える。このエリアは、気象予報により日照量が多く予想される日の昼間には、市場価格に大きな差異が生じることがある。原因は幾つかあるが、同エリアにおける太陽光発電の増加によるところが大きい。
まず下表をご覧頂きたい。2016年度~2018年度と2019年度4~6月における3円/kWhとなるコマ数※1である。ここからわかるのは、以下の3点である。
- 1.3円/kWh以下となる価格の殆どが西日本エリアである
- 2.2018年度から3円/kWh以下のコマが増加している
- 3.2019年度は3ヶ月で既に2018年度のコマ数を上回る
この要因は、冒頭に述べたように太陽光発電の増加による影響が大きい。しかし、西日本エリアで原子力発電所が複数機再稼働したこともこの現象を加速させていると見られる。
原子力発電所の再稼働による影響
その動きが顕著である九州エリアを例にとって説明したい。
九州電力は2015年に川内原子力発電所1号機(8月)2号機(9月)、2018年3月に玄海原子力発電所3号機、5月には同4号機を再稼働させたため供給力が順次増加している。九州電力の発電実績によると、2019年4月は原子発電所の発電量が概ね300万kW以上となっている。
一方、太陽光発電所における同年4月の最大発電量は600万kW(4月9日)となるなど、同発電所の発電量が占める割合も非常に大きい。
そこで発生するのが、火力発電所の稼働率の大幅な減少である
原子力発電の稼働を優先し、火力をギリギリまで抑制
九州エリアにおける火力発電所の発電量は、2017~2018年度には日中で700~800万kWとなっていた。しかし、2019年4月には400~500万kWまで低下した。
これは、出力調整が困難である原子力発電所の稼働を優先させるとともに、太陽光発電所の発電を受け入れ、需要量と発電量を一致させる調整力としての火力発電所の出力をギリギリまで低下させたことを意味する。
それでも火力発電所の出力調整には限度があるため、2019年4月中は合計20日間もの太陽光発電所に対する出力抑制を実施。これにより需要と供給を一致させていたと考えられる。
ちなみに広域機関のデータ※2によると、殆どの日で100万kW以上が抑制されていた。200万kW以上の発電量が抑制された日は5日あった。
*2: 電力広域的運営推進機関 九州エリアの出力抑制https://www.occto.or.jp/oshirase/shutsuryokuyokusei/2019/190529_shutsuryokuyokusei.html
市場価格が低下する構造
変動費ベースの発電コストが原子力発電所や太陽光発電所は火力に比べ相対的に低い。こうした原子力・太陽光の電力が市場に売電される量の大半を占めるため、今年の大型連休(4月28〜5月6日)には九州エリアをはじめとする西日本エリア全域において、約定価格が複数のコマで0.01円/kWhまで下がったと思われる。
この極端な低価格は、発電量が市場の需要量に対して大幅に多くなったためであり、その主要因が太陽光発電量の多さにあったことは、出力抑制の大きさが100万kWを越えていることからも想像に難くない。
つまり、発電コストが低いこと、および発電量が日中の需要に対して多くなること、という「コスト」と「ボリューム」の2軸で太陽光発電が影響している。
今後も太陽光発電の増加が市場価格低下へ影響
今回見たように太陽光発電所の増加は市場価格への顕著な影響となって露見している。今後も設備容量が増加する状況を鑑みると、市場価格が低価格となる時間帯が増加する可能性は十分に考えられる。
現在、多くの中小規模の小売電気事業者は電力市場に供給力を頼っているとみられる。例えば、太陽光が出ている晴れ間の日には値引きするなど、従来のような昼間時間帯>夜間時間帯の料金設定が逆転した料金メニューの検討が進んでいくかもしれない。