「脱炭素化」への取り組みが加速する中、CO2を排出しない次世代のエネルギーとして「水素」が注目されている。この水素の大量生産に向け、文部科学省と経済産業省は、2025年頃、日本原子力研究開発機構の高温ガス炉「HTTR」(茨城県大洗町)の隣接地に、水素の製造施設を着工する。両省が来年度概算要求に設計費など計約30億円を初めて盛り込むと、8月27日付の読売新聞が報じた。
政府が今年6月に発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、水素を「発電・産業・運輸など幅広く活用されるカーボンニュートラルのキーテクノロジー」と位置づけ、2050年に約2,000万トンの導入を目標として掲げた。
一方で、水素はエネルギーとしての利用は未だ需要が少ないため流通量は増えておらず、現状はコストが割高だ。水素の価格は現在、100円/Nm3(1ノルマル立法メートル当たり100円)だ。経産省では水素の製造や運搬の方法の多様化・効率化を進める考えで、2030年には1Nm3あたり30円、2050年には同20円に引き下げるとし、低コスト化を目指している。
経産省が7月に発表した「第6次エネルギー基本計画」では、安価な水素を長期的に安定的かつ大量に供給するために、光触媒や高温ガス炉等の高温熱源を活用した水素製造など、革新的な水素製造技術開発に対する支援を進めていくことを強調している。
この重要課題に位置づけられた「水素製造」について、高温ガス炉を利用した技術開発に政府が本格的に乗り出すことが明らかになった。
軽水炉は、金属被覆管を使用し、冷却材には水(軽水)を用いていることから、原子炉から取り出せる温度は300℃程度に制限され、蒸気タービンによる発電効率は30%程度に過ぎない。一方、高温ガス炉である「HTTR」は、通常の原子炉の約3倍の1,000度近い熱を得られることからガスタービン発電方式が採用でき、45%以上の高い発電効率を得ることが可能となる。
現在、水素製造の主流となっているのが、天然ガスや石油といった化石燃料から水素を取り出す方法だ。
日本原子力研究開発機構は運転時にCO2を出さない熱源として、水素製造に活用する研究を推進。その結果、安定的に水素を製造できる見通しが立ったという。
「HTTR」は原子炉から熱を取り出す冷却材として、ヘリウムガスを使用している。蒸発せず化学反応が起きないとして、優れた安全性をもつ。
新設する水素製造施設に、高温のヘリウムガスが循環するパイプを原子炉から延ばす計画で、2030年までに、既存の水素製造法を、HTTRの熱で安全に実施できるか検証する。
現在、水素はメタンから製造されるために CO2 を排出するため、メタンを使わずに水を熱分解し、CO2を出さずに水素を得る新手法の研究も同時に進める。
水素サプライチェーンの構築を見通す技術の確立が期待される。
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