O&Mコストをゼロ円にすることは可能なのか? ソーラーアセットマネジメントアジア2020バーチャルサミットレポート その1 | EnergyShift

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O&Mコストをゼロ円にすることは可能なのか?
ソーラーアセットマネジメントアジア2020バーチャルサミットレポート その1

O&Mコストをゼロ円にすることは可能なのか? ソーラーアセットマネジメントアジア2020バーチャルサミットレポート その1

2020年11月04日

脱炭素化の推進、太陽光発電(PV)の普及・拡大に向けて、さまざまなカンファレンスを主催するソーラープラザは、2020年9月24日、「ソーラーアセットマネジメントアジア2020バーチャルサミット」を開催した。サミットでは各分野の専門家が、日本のPV市場の展望について考察した。その中で注目されたことのひとつは、オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント(OREM)の百合田 和久戦略責任者による、「2024年には実質アセットマネジメント費用ゼロ円を実現する」という発言だ。今回は、百合田氏の発言を中心にバーチャルサミットをレポートする。(全2回)

6回目の開催となるソーラーアセットマネジメントアジア

2004年設立のソーラープラザはオランダを拠点に、これまで40ヶ国以上で、140以上のカンファレンスを開催し、6万人以上のPVプレイヤーとネットワークを築いてきた。日本においても、2015年から運用中の太陽光発電所および太陽光発電のポートフォリオに特化した、「ソーラーアセットマネジメントアジア」を毎年1回開催しており、2020年9月24日、「ソーラーアセットマネジメントアジア2020バーチャルサミット」を開催した。

ソーラーアセットマネジメントアジア2020バーチャルサミット ウェブサイト

バーチャルサミットでは、「日本のPV市場の展望」「発電所の所有権の状況とポートフォリオ」「業界の新たなパラダイムシフト」の3テーマのもと、各分野の専門家が日本の太陽光発電市場を考察した。
その中でも、進化する太陽光発電所のアセットマネジメントに焦点をあて、紹介していく。

実質O&M費ゼロを目指すサービスとは

「発電所の所有権の状況とポートフォリオ」のテーマでは、「社会コスト低減を実現するアセットマネジメント」と「セカンダリー市場の展望」2つのテーマで考察が行われた。その前者、社会コスト低減を実現するアセットマネジメントについて、オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント(以下、OREM)の百合田 和久戦略責任者がショートプレゼンテーションを行った。

百合田氏は、アセットマネジメント(AM)について、「太陽光発電所の開発やファイナンスと比較し、いまいち華々しさに欠けるAM業務ですが、実は楽しくて意味があり、社会課題を解決しうるセクシーな業務」だとし、オリックスグループにおけるAMの取り組みを語った。

オリックスグループによる太陽光発電事業は「アセット」と「サービス」2つの事業領域がある。そのうち「アセット」では設備容量約826MWの大規模発電所を所有するとともに、日本全国517ヶ所に約169MWの屋根設置型発電所を保有する。

もうひとつの事業軸が「サービス」である。ここでは、2018年8月設立のオリックス・リニューアブルエナジー・マネジメントが中心となり、資金管理、キャッシュフロー管理以外のO&M(Operation & Maintenance)を含めたAMサービスを提供している。受託量は86ヶ所、450MWにのぼるという。

百合田氏は「私たちが提供するサービスは、多くのAM会社やO&M会社がやっていることと何ら変わりませんが、私たちはお客さまの売り上げ、トップラインをあげることによって、お客さまが実質的に負担しているO&Mコストをゼロにすることを目指しています」と語る。

実質O&M費ゼロを目指すサービスとはどのようなものなのか。実現に向けたステップは「Scope of Workの明確化」「ラーニングカーブ向上によるMargin最大化」「データ×成熟した運営体制=発電量予測」の3つステップがあるという。

イベント登壇資料を元に編集部作成

オーナーとオペレーターのビジネスコンフリクションを解消する

AM業務は、金融機関や投資家をはじめ、行政、電力会社、EPCなど多くのステークホルダーに対し、キャッシュフロー管理や金融機関・投資家対応などのSPC管理に始まり、CAPEX行使(設備投資)やアセット売却などの事業判断、そしてO&Mまで、多岐にわたる業務を実施しなければならない。

O&Mの草刈りから投資管理まで、まったく違うスキルが必要とされる中、『何を、誰が、どこまで行うのかというデザイン』と『PDCAが回転する体制構築』がスタートになる」(百合田氏)。

AM業務は、発電所オーナーがSPC管理も事業判断も、オペレーション管理まですべて計画し、そのうえでオペレーターに依頼し、オペレーターは受動的に発電所オーナーに言われた通りにやるという形になりがちだが、「これではなかなかワークしない」と百合田氏はいう。

原因のひとつが、現場を知らない人間がすべてデザインして決めることに無理がある、ということ。そして、もうひとつが、「発電所オーナーにとってのコストが、オペレーターにとっての売り上げになる。ここに明確なビジネスコンフリクションがある」と指摘する。

イベント登壇資料を元に編集部作成

そこでオリックスグループでは、2018年8月にO&M部隊をIPP事業と統合しOREMを設立。ビジネスコンフリクションを解消するとともに、何がAM業務においてもっとも重要なのか追求できる体制を構築していったという。

2年間で発電所オーナーの売り上げが4%改善

セカンドステップが、「ラーニングカーブ向上によるMargin最大化」である。AM体制構築前の問題点として、①状態管理の品質基準が規定されていない。②対処の必要性は認識しているが、O&M予算に限りがある、という2点があるという。

そこで、まずアセットを分析し、キャッシュフロー、発電量データ、O&Mレポート、実地調査をベースに特性と状態を把握する。次に長期視点施策として、発電量の改善点、諸契約、支出効果の見直しを行い、最適化施策を実行する。そして保険や防犯、点検内容を見直し、想定外のイベントへの体制を整備する。さらにルーチン構築のため、運用マニュアルを策定し、属人性を排除し、流動性を高める。

これら業務プロセスの成熟化によって、当初のO&M予算計画の上方修正が可能となり、最終的に事業変数の最小化を図ることができるという。

百合田氏は「業務プロセスの成熟化によって、この2年間で発電所オーナーのトップラインを4%上げることができました」と実績を語る。その結果、2018年時点で3,000円超だったOPEX(運用費)が、トップラインが4%上がったことで、1,600円まで低減させることができたという。

さらに百合田氏は、「2024年には、実質アセットマネジメント費用ゼロ円を実現することができる」と語る。

イベント登壇資料を元に編集部作成

※実質アセットマネジメント費=「長期修繕費+諸経費」+「O&M費」−「売電収益改善効果」

社会コスト削減を実現するアセットマネジメント

最後のステップが、「データ×成熟した運営体制=発電量予測」だ。

AM業務における変数は大きくわけると、人間の動きと気象条件の2つだという。先に述べた業務改善によって、「人間に起因する変数をほぼ解消することができた中、残る事業変数は気象の変化しかない」という。

オリックスグループでは、2019年からテストサイトにおける発電量予測を進めており、DX(デジタルトランスフォーメーション)化を通じて、「当日30分後の発電量を高精度に予測することが可能になる」という。
高精度な発電量予測の確立は、売電収入の最大化のみならず、社会コストの低減にもつながる。

最後に「太陽光発電などの再エネの普及・拡大にともなって、送電線の増強であったり、再エネの変数を埋め合わせるための待機電源コストが増加しています。しかし、太陽光発電が予測可能な電源になったら、待機電源コストを低減させることができると私どもは考えています」と述べ、発電量予測を通じた社会コストの低減も目指すとした。

イベント登壇資料を元に編集部作成

次回は、セカンダリー(太陽光発電所の中古売買)の市場展望についてレポートする。

(Text:藤村朋弘)

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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