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大型化・量産化でコストを削減 浮体式洋上風力発電は普及するか

大型化・量産化でコストを削減 浮体式洋上風力発電は普及するか

EnergyShift編集部
2019年12月10日

戸田建設に聞く(3) 大型化・量産化でコストを削減 浮体式洋上風力発電は普及するか

洋上風力発電の開発が相次ぐ中、戸田建設は、いち早く「浮体式」洋上風力発電に注目し、開発に取り組んできた。すでに長崎県五島市沖で日本初の商用浮体式風力発電の実証事業を終えた。普及拡大にはコストが高いなどの課題を克服することが必要だ。

ヨーロッパ並みの発電コストにできる

洋上風力発電が急激に普及しているヨーロッパでは、発電コスト(LCOE: Levelized Cost Of Electricity、均等化発電原価)が下がっている。2015年では1kWhあたり16円だった入札価格が2017年には7〜8円ほどになった。一方、日本の2018年の固定価格買取制度(FIT)では、洋上風力発電は1kWh当たり36円とかなり高い。

「日本でもヨーロッパ並みの発電コストにすることができると考えています」と戸田建設エネルギー事業部副事業部長の佐藤郁氏は話す。

戸田建設株式会社 戦略事業推進室 エネルギー事業部 副事業部長 佐藤郁氏

洋上風力発電の課題である高コストの解決策として、風車の大型化や設備の大規模化などがあげられる。風車が大型化すれば、発電量が増加し、建設コストが高くなっても、発電コストは安くなる。さらに浮体式なら、地形に関係なく同じ設備を利用できるので、施設が大規模化され、たくさんの風車が使われるようになると、量産化によるコスト削減が期待できる。

「ヨーロッパの例では、風車の大型化により発電量が倍になれば発電コストが30%、また風車の生産量が10倍になれば発電コストは更に40%削減できると示されているのです」(佐藤氏)。

ただし、ヨーロッパに比べて、日本沿岸では年平均風速が低い。風車は風のエネルギーの一部を取り込んで電気に変えるしくみなので、設備費が同じでも風が強いほうが発電量は大きくなる。つまり、日本のほうが発電コストは高くなるということだ。

「日本でも、沖に出れば風が強くなります。風が強ければ収入が増えるので、コストをかけてでももっと沖に出ればいいのです。沖に出れば、当然水深が深くなるので浮体式が向いています」と佐藤氏は説明する。

風速が2倍になれば、収入が8倍になるのは風力発電の常識。洋上風力発電が増え、大規模化すればいろいろなインフラが減り、それがさらにメリットになる。浮体式が特に有望な海は、北海道の北側や九州の日本海側だという。

「平成25年数表でみる東京電力」等より作成

電源と消費地を、水素で結ぶ

「大規模な洋上風力発電が可能になったとき、次に大きな課題になるのは消費地と電源をどうつなぐかということです」と佐藤氏は続ける。風力発電の規模が小さく、発電地域も沿岸であれば、発電場所と消費地を海底ケーブルなどを利用して結び、近隣の市町村で電力を消費することが比較的容易にできる。
一方、沖合の大規模な電力を大量消費地にスムーズに接続する場合は事情が異なる。大規模な送電線を整えるのは時間もかかり、コスト的にも送電ロスのことを考えても、容易なことではないからだ。

佐藤氏はエネルギーを水素に転換して輸送することを提案する。日本では2030年までに洋上風力発電を導入する目標が挙げられている。そのころまでに導入を目指すには、すでに水素自動車などで実用化されている水素を活用することは合理的で有力な手段なのである。

すでに同社では浮体式洋上風力発電による電力で水を電気分解して水素を製造し、その水素を貯蔵、運搬する技術を実証している。水素を燃料とする燃料電池船をつくり、試験運行も成功している。

五島市にある水素燃料貯蔵施設(戸田建設の紹介ビデオより)

コスト削減のために、さらなる大型化・量産化をめざす

「コスト削減に一番効果的なことは、風車の大型化です。大型になれば波の影響が小さくなりますし、風車の面積が倍になれば、計算上は発電量も倍になります」と佐藤氏は説明する。世界各国では、風力発電のコスト削減を期待して大型風車が開発されている。浮体式なら理論上はどんな大きさもでも大丈夫だという。

同社の実証試験機「はえんかぜ」は、風車の直径80mで発電量は2MWhクラスである。全長は172mにも及び、2013年の運転開始時は、非常に巨大な風力発電施設だった。いまでは直径150m、8MWhクラスのものが着床式では既に設置されており、大型化がどんどん進んでいる。

また浮体式洋上風力発電の形式にはセミサブ型やスパー型などいくつかのタイプが開発されているが、同機は細長いスパー型の上部に鋼、下部にコンクリートを用いた「ハイブリッドスパー型」を採用。それによって建造コストが大幅に削減された。また、安定性も高く、実証事業以降も毎年来襲する台風にも耐えている。

ハイブリッドスパー型の構造図(戸田建設パンフレットより)

「この構造ならデザインが簡単ですし、特殊な溶接も必要がないので大量生産に向きます」。佐藤氏は設備の量産化に自信を見せる。先に述べたように、設備が量産化できれば、発電コストが削減でき、浮体式洋上風力発電の普及も広がる。

「2030年までに年間1,000機の増産体制を構築したいんです。作り続けないと、パリ協定目標であるCO280%削減目標の達成はとても無理でしょう」と佐藤氏は語気を強める。

戸田建設の浮体式洋上風力発電設備のコンセプトは「誰でも作れる、どこでも作れる」だという。そのため、建設技術を応用して風車を沖まで運ぶ専用船や施工法も開発した。地盤や海況に影響されないので、国内問わず国外までどこの国でも使えるのが浮体式洋上風力発電の強みだ。量産体制を整え、同社が開発したこのシステムを世界中に普及させることを目指している。

プロフィール

佐藤 郁(さとう いく)

戸田建設株式会社 戦略事業推進室 エネルギー事業部 副事業部長。ハイブリッドスパー型浮体式洋上風力発電施設の発明者であり開発責任者。工学博士(京都大学)。 主な開発実績:ハイブリッドスパー型浮体式洋上風力発電施設、小型船舶による燃料電池船、浮体式洋上風力発電と連携した水素製造、メチルシクロヘキサンを利用した貯蔵・運搬・利活用システム、浮体式洋上環境観測ブイほか。 主な受賞歴:環境大臣賞(2014)、OMAE2015 Best Paper Award、グッドデザイン賞2016 ほか。技術士(建設部門・情報工学部門)。

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