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IEAレポート-脱炭素に向けてレアメタルの需要が急増

IEAレポート-脱炭素に向けてレアメタルの需要が急増

EnergyShift編集部
2021年05月12日

2021年5月5日、IEA(国際エネルギー機関)は、世界が脱炭素に向けて再生可能エネルギーや蓄電池、燃料電池などを拡大させるにしたがって、レアメタルなどの鉱物資源の需要が急増し、各国政府が何等かの対応をしていく必要があるとする報告書を発表した。

レアメタルを脱炭素のボトルネックにしないために

報告書は「The Role of Critical Minerals in Clean Energy Transitions(クリーンエネルギー移行における重要鉱物の役割)」というタイトル。銅、リチウム、ニッケル、コバルト、レアアースなどの鉱物が、世界のエネルギーセクターを確実かつ迅速に変革する上で中心的な役割を果たすことを、これまでで最も包括的に調査したものになっているという。また、こうした重要な鉱物が脱炭素のボトルネックになるのではなく、クリーンエネルギーへの移行を加速させるために、政策立案者がとるべき6つの重要な行動を提言している。

クリーンエネルギーシステムは既存のシステムよりも多くの希少な鉱物資源を必要とする。電気自動車は従来の自動車より6倍、風力発電所は火力発電所の9倍も必要だ。すでに2010年以降、こうした鉱物の需要は平均50%も増加している。

さらに今後の予測だが、報告書によると、2050年までにカーボンゼロを達成するためには、現在の6倍の鉱物が必要となるという。なかでも電気自動車や蓄電池に用いられるリチウムは2040年までに40倍、黒鉛、コバルト、ニッケルはそれぞれ20倍から30倍が必要となる。一方、グリーン水素をつくるためにはニッケルやジルコニウム、燃料電池用には白金の需要が大きく伸びる。風力発電用にはネオジムなどのレアアースが必要だ。

こうしたことから、希少な鉱物を生産する企業の収益は増大し、2040年までには石炭生産による収益を逆転することになるという。

しかし、現在の鉱山だけでこれらの需要は満たせず、リチウムとコバルトは約半分、銅は約80%にとどまる。また、コバルトとレアアースの世界生産量は、コンゴ民主共和国と中国がそれぞれ70%、60%を占めており、資源の集中も問題となる。

一方、鉱山開発は、リードタイムが平均して16.3年もかかっており、需要の急増に対応しきれない可能性がある。さらに、鉱山から採掘される鉱石の低品位化も問題だ。そのため、資源保有国の政府は鉱山開発のリードタイムの短縮やリスク回避の支援などを行うことを求めている。さらに、希少な鉱物の使用量を減らす技術の開発や、リサイクルの技術の開発も期待される。

こうしたことに加え、鉱山そのものが環境問題・社会問題となるケースがある。廃棄物や水質汚染、労働者の安全などへの対応が必要であり、鉱物資源が地域社会に真の利益をもたらすようにすることが求められる。

将来にわたって、希少な鉱物資源の需要が拡大するが、こうした資源のサプライチェーンからのCO2排出があっても、クリーンエネルギーは優位性があるという。電気自動車のライフサイクルにおけるCO2排出は従来の自動車の約半分であり、低炭素電力の利用でさらに25%削減できるという。

各国政府への6つの提言

希少な鉱物資源を確保するにあたって、報告書は以下の6つの提言をしている。

  • 新規鉱山開発等への十分な投資
  • バリューチェーンすべての段階での技術革新の促進
  • リサイクルの拡大
  • サプライチェーンの回復力と透明性の向上
  • より高いESG基準
  • 生産者と消費者の間の国際的な協力関係の強化

今回の報告書の発表にあたって、IEA事務局長Fatih Birol氏は、「報告書のデータは、世界が引き上げている気候変動に対する目標と、それを実現するために不可欠な重要鉱物の入手可能性との間に、大きなミスマッチがあることを示しています。こうした潜在的な脆弱性を放置すれば、クリーンなエネルギーの未来に向けた世界的な進歩が遅れ、コストもかかり、その結果、気候変動に対処するための国際的な努力が妨げられることになります。21世紀のエネルギー安全保障とはこのようなものであり、IEAは各国政府がこれらの危険性によってエネルギー転換を加速する世界的な取り組みが頓挫しないように支援することに全力を注いでいます」と述べている。

今回の報告書は、IEAの「World Energy Outlook」の一部であり、クリーンエネルギー技術によるエネルギーシステムに必要な鉱物資源は、化石燃料によるエネルギーシステムとは大きく異なることを明確にしたものとなっている。

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