パナソニックは6月に社長が交代し楠見雄規新社長が誕生する。楠見新社長は5月の記者会見で、2030年までのCO2排出実質ゼロの計画を発表した。これまで減収減益が続き株価もレンジが続く同社だが、社長交代で転機を迎えることになるのか、その行方が注目される。
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パナソニック<6752>は5月27日に行われた楠見新社長(6月に就任予定)によるオンライン記者会見で、2030年までのCO2排出実質ゼロの計画を明らかにした。
既に同社は再生可能エネルギー100%を海外5拠点で実現しているが、燃料電池工場の草津工場で本取り組みを2022年4月から本格化させると表明した。
同工場では水素燃料電池に太陽光、蓄電池を組み合わせ自ら再生可能エネルギーを創り、製造工程の使用電力を全て賄い「RE100化※」を推進する(一般的な住宅900世帯に相当する規模)。また草津工場をショーケースとして「RE100ソリューション」事業を磨き上げる計画である。
同社は既に2017年に「環境ビジョン2050」により脱炭素に対する取り組みを発表しているが、楠見新社長の下で脱炭素が加速する。
※RE100:企業が使用する電力の100%を再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ
楠見雄規新社長 Panasonicニュースリリースより
パナソニックは本年4月に、世界的なサプライチェーンソフトウェア企業の米Blue Yonder社の買収を発表した。総額71億ドル(約7,700億円)となる巨額買収である。
モノづくりに特化する形で事業展開を続けた同社だが、Blue Yonder社の買収によりモノづくりのプロセス領域に進出する。中国勢の台頭などにより多くのモノづくりのコモディティ化が進んだが、パナソニックはBlue Yonder社の買収によりモノづくりのプロセス効率化で収益を得る道に進むことになる。7,000億円以上を投じるBlue Yonder社の買収の成否は、楠見新社長が舵取りをする新生パナソニックの行方の鍵を握る。
またBlue Yonder社は脱炭素の観点でも注目される。Blue Yonder社のソフトはAIにより事業活動に必要な電力需要予測を計測し最適なサプライチェーンを提案する機能を持つ。Blue Yonder社は今後パナソニックがモノづくり一辺倒の企業から脱皮する鍵を握る企業というだけではなく、脱炭素の実現及び脱炭素ソリューションのビジネス展開の鍵を握る存在としても位置付けることができる。
Panasonicリリース資料より
売上高 | 営業利益 | 当期純利益 | |
2019年3月期 | 8兆27億円 | 4,114億円 | 2,841億円 |
2020年3月期 | 7兆4,906億円 | 2,937億円 | 2,257億円 |
2021年3月期 | 6兆6,987億円 | 2,586億円 | 1,650億円 |
2022年3月期(予想) | 7兆円 | 3,300億円 | 2,100億円 |
※当期純利益=親会社の所有者に帰属する当期純利益
パナソニックの売上高は足元では減収が続いており、2021年3月期は7兆円を割れた。また徐々に減益も続いており、2021年3月期の当期純利益は2,000億円を割れている。ただし2022年3月期は売上高7兆円台、営業利益3000億円台への復帰予想である。
また各事業部門では、オートモーティブ部門の黒字化が注目される。同部門は米テスラ社向けの電池生産が含まれるが、2020年3月期の▲466億円のセグメント利益(赤字)から2021年3月期は109億円に黒字転換した。テスラ社向けの車載電池が北米工場設立後初の年間黒字となり、過去の投資がようやく収穫期に入りつつある。
楠見新社長の下でこれまでの減収減益から反転することになるのか、まずは2022年3月期予想の進捗が注目される。
パナソニックの株価は2015年以降、800円前後が底で1,800円台が天井となるレンジが続いており、現在は1,200円台で推移している。コロナショックによる株価の下落分は取り戻しているが、長期のレンジから抜け出せない。2020年から高値更新が続くソニーの株価と比べると、パナソニックの株価は低迷しているといわざるを得ない。
パナソニックの予想PERは約14倍である(2021年6月11日終値)。2016年以降で見るとパナソニックの平均予想PERは17倍であり、現在の株価水準は過去に比べ若干割安の状態だ。東証1部の予想平均PERは約16倍(2021年6月11日終値)であり、予想PERの観点でもパナソニックは市場平均より若干割安となっている。
パナソニックの今後の株価は、業績が改善するのか(EPSの上昇を背景とする株価上昇)という点と、過去の平均予想PER17倍を回復できるのか、という点がまずはポイントになる。
パナソニックは2012年の津賀社長が就任の際は、プラズマディスプレイ事業からの撤退が喫緊の課題であった。その後テスラの電池工場への投資はなされたものの、過去の事業及び体制面での負の遺産処理に追われた面があり、業績的にはジリジリと後退が続いている。
楠見新社長の就任会見で早々に脱炭素の強化を打ち出したパナソニックは、社長交代を機に業績や株価も転機を迎えることになるのか、その行方が注目される。
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