9月15日(現地時間)、EUのウルズラ・フォン・デア・ライアンEU委員長は、連合演説において「European Chips Act」(欧州半導体法)の設立を訴えた。半導体製造のEU域内でのサプライチェーン強化を目的とした発表であり、自地域生産回帰という世界の半導体競争の現状を反映した動きとなった。
フォン・デア・ライアン委員長は演説の中で、まず、単一市場30周年を迎えるEUの回復にはデジタルが重要であるとし、10月発行予定のコロナからの回復とグリーン、デジタル、レジリエントを目的とした長期加盟国支援予算制度「NextGenerationEU」(最大33兆円)の20%はデジタル関連になるだろうと、デジタルの重要性を強調した。
欧州の技術へ投資することは、自らのルールと価値観に基づくDX(デジタルトランスフォーメーション)を形成することになり、それが欧州の半導体戦略に直結するという。
「また、世界の需要が爆発的に増加する一方で、設計から製造能力までのバリューチェーン全体における欧州のシェアは縮小しており、アジアで製造された最先端のチップに依存しています。これは単に競争力の問題ではありません。これは技術の主権の問題でもあるのです」(フォン・デア・ライアン氏)。
このように欧州の半導体の抱える問題として、欧州のシェアの縮小と、アジア依存の2つを上げ、技術の主権という強い言葉で主張をまとめている。主権が侵害されているかのようなこの発言は、改めて半導体という死活的に重要な部品が、各国の産業競争を自地域第一主義の方へ回帰させていることを伺わせるものでもある。
生産を含む、最先端の欧州チップのエコシステムをEU全体で構築することにより、供給の安定性確保と新しい市場を開拓することを目指すという。「もう一度大胆に、今度は半導体で勝負しましょう」とのフォン・デア・ライアン氏の言葉は象徴的である。
その後、EU地域政策委員会のティエリー・ブルトン氏が法制化計画の詳細を説明した。その中で、同氏は、EU加盟国の取り組みをEU半導体戦略に統合し、「単一市場を細分化する国の助成金に走ることを回避するための」フレームワークを構築したいと考えている、と述べたが、これも他地域、特にアジアに対して連帯をして取り組むというアグレッシブな姿勢を投影したものになっている。
今回の法制化の目的は「欧州の利益を守り、グローバルで地政学的に欧州の地位を確固たるものにする環境をつくること」だとも位置付けられており、そのストレートな言いぶりは逆にすがすがしい印象すら与える。
ブルトン氏は同日に自らのブログを公開。その内容と目的を紹介した。
半導体は世界的な技術競争の核心であり、地政学的に重要な位置を占めており、世界的な技術競争の中核をなしている。超大国は、最先端のチップの供給を確保することに熱心であり、それが自国の行動力(軍事的、経済的、工業的)を左右し、デジタルトランスフォーメーションを推進する条件となることをよく理解しているという。
そしてアメリカのAmerican Chips Act(米国半導体法)、台湾の優位性確保の取り組み、中国の輸出規制などを挙げ、欧州が後れを取ることはできないと述べた。
こうして列挙してみると、如実な覇権争いが半導体にはあるのが見て取れる。デジタルにもグリーンにも通じる重要部品の半導体は、国際社会の本音を映し出す役割を皮肉にも担っている。
ブルトン氏によると今回の「European Chips Act」は3つの要素で構成されている。
一つ目は欧州の半導体研究戦略で、ベルギーのIMEC、フランスのLETI/CEA、ドイツのフラウンホーファーなどの研究機関をつなぐパートナーシップを基盤とし、研究目標を強化するという。
二つ目は生産能力の強化になる。計画では産業界全体のサプライチェーンを監視して将来予測を行い、設計、生産、パッケージング、機器、ウェハーメーカーなどのサプライヤーを含む全体の回復力を確保する。また、2nm以下の最先端技術にも触れ、エネルギー効率の高い半導体を大量に生産できる欧州の製造工場、いわゆる「メガファブ」の開発を支援する。
三つ目は国際協力の枠組みの強化だ。欧州だけですべてを生産することはできない。現地生産の回復力を高めるだけでなく、単一の国や地域への過大な依存を減らすために、サプライチェーンを多様化する戦略を立てる必要があるという。European Chips Actを通じて、欧州の供給安定性を維持するための適切な条件を整えていくという。
半導体は依然として不足している状態が続いている。9月のロイターの調査によれば、日本国内の企業の半数が半導体不足による事業への影響が出ていると回答した。今年度中に終息すると予想する企業は14%、回復は次年度以降になると予想されている。今後も各国の熾烈な競争が続くことが予想され、次なる動向も要注目だ。
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