"世界最大のフライホイール" がアイルランドの再エネ導入を力強くサポート 電力系統に「同期化力」を補償 | EnergyShift

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"世界最大のフライホイール" がアイルランドの再エネ導入を力強くサポート 電力系統に「同期化力」を補償

"世界最大のフライホイール" がアイルランドの再エネ導入を力強くサポート 電力系統に「同期化力」を補償

2021年06月09日

太陽光発電や風力発電など、脱炭素に向けた変動する再生可能エネルギーの拡大にともなって、電圧を安定化させるための、同期化が必要になってくる。これまでであれば、火力発電など回転の慣性力を持つ発電機がその役割を担ってきたが、今後は火力発電が減少する中、アイルランドではフライホイールを活用するプロジェクトが進められている。日本サスティナブル・エナジー代表取締役の大野嘉久氏が報告する。

電力システムを支える、回転系発電機の慣性力

菅総理が所信表明演説において「2050年カーボン・ニュートラル」という政府目標を掲げたり、最近でも環境大臣が2030年度の温室効果ガス排出量の削減目標を「2013年度比46%減」とするなど、あたかも日本の低炭素化が急速に進むような印象を抱く人がいるかもしれない。

ところが、大規模な発電所から高圧送電線を通して消費地まで電気を運ぶ既存の電力システムにおいては"電力系統の安定化"という観点から、一定限度までしか再生可能エネルギーの比率を上げられないため、カーボン・ニュートラルや46%減は、極めてハードルが高い目標だと言える。

というのも日本の送電線を通っている電気は本来、すべて50Hzあるいは60Hzの周波数に同期していることが理想的であり、全体が同じタイミングで動くことで強い回転力を維持し、電力系統の安定性を保っている(慣性力)。

しかし「非同期電源」とされる太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーはパワーコンディショナーで直流から交流に変換されてから系統に乗せられているため、自ら「回転力」を持たず、その比率が一定限度を過ぎると系統を不安定化させる要因ともなりうる。

つまり、水力発電なら水車を回転させる水流が、火力発電ならタービンを回転させる化石燃料の爆発力が、そして原子力発電ならタービンを回転させる核分裂による爆発力が電力系統の慣性力を支えているのに対し、太陽光発電や風力発電は人工的に直流から交流に形を変えただけなので、系統に乗ることは可能であっても系統を安定化させる力を持っていないのである。

なお電力広域的運営推進機関の定義によると、「同期化力」とは“自ら電圧を確立し、系統と電気的な繋がりを持って負荷変動等に生じる回転数(位相)の差に応じて回転数の差を無くし、並列運転を継続しようとする能力”とされる。

参考資料:電力広域的運営推進機関 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会「再エネ主力電源化」に向けた技術的課題及びその対応策の検討状況について

アイルランドで導入される世界最大の「同期調相機」

この問題は、もちろん世界各国でも共通であり、再生可能エネルギーの導入拡大に向けて新しい技術開発が進んでいる。

そしてこのたび、アイルランドでは電力供給公社(ESB:Electricity Supply Board)が世界最大の同期調相機(同期化力を補填する装置)をマネーポイント発電所に設置し、160万軒の家庭に電力を供給できるだけの洋上風力発電設備を系統に接続できる環境をつくり始めた。

このマネーポイント発電所は、1970年代のオイル・ショックを受けて建設された、アイルランド唯一の石炭火力発電所(出力915MW)であり、現在ではアイルランドにおける電力の4分の1を発電するなど非常に重要な電源となっている。また、一般に天然ガス火力発電所ではおよそ5日分の天然ガスしか保管できないのに対して、石炭火力では3ヶ月分も保管できることから同発電所はアイルランドにおける最大のエネルギー貯蔵施設でもあり、同国のエネルギー安全保障に大きく貢献してきた。

しかし、2019年にはアイルランド政府の地球温暖化政策変更を受けてマネーポイント発電所は石炭火力発電を2025年に終えることとなり、年間の発電電力量を次第に減少させつつ、「グリーン・アトランティック@マネーポイント」というプログラムのもと、グリーン・エネルギーの中心的な役割として生まれ変わることになった。

これは国内における唯一の石炭火力発電所を、低炭素化テクノロジーの中核施設に転用させるという野心的な計画であるが、中でも注目されているのが総投資額5,000万ユーロ(約67億円)の独シーメンス・エナジー社製同期調相機(Synchronous Compensator)である。


「同期調相機(Synchronous Compensator)」(Courtesy of Siemens Energy.)

シーメンス・エナジー社の公式解説動画

これは世界最大のフライホイールを使って周波数制御に必要な慣性力を、そして電圧調整に必要な無効電力を供給することでアイルランドの電力系統の安定性を高めるとともに、レジリエンスを強化させるシステムだが、完成の暁には再生可能エネルギーを最大限に活用できることとなる。

加えて、マネーポイント発電所の沖合には総出力1,400MWの巨大な浮上型洋上ウィンドファームも計画されているが、この同期調相機が導入されることで従来の石炭火力発電所としての出力(915MW)の1.5倍の再生可能エネルギー電源を確保できることになる。なおシーメンス・エナジーは本件において、機器の供給と建設、10年にわたるメンテナンスおよびリモート診断サービスを提供する。

従来、風力発電で得られる電力は制御がきかないため、電力会社からの給電指令により解列や出力抑制などの指示を受けることが多く、とりわけ洋上風力発電所は多額の建設費と維持費がかかるものの、豊富な沖合の風力を十分に活かすことが難しかった。しかし、今回のような最新の同期調相機というテクノロジーによって再生可能エネルギー事業の採算が大きく改善できるようになり、ひいてはカーボン・ニュートラルの高い目標を達成することも現実的になってくるであろう。

世界的な低炭素化へのシフトが起きている昨今では、日本だけでなく多くの国が従来型電源の廃止や再生可能エネルギーの主力電源化を進めているが、為政者には"発電所の閉鎖に伴って失われる慣性力の補填"もセットにして政策を立案して頂きたいものである。

大野嘉久
大野嘉久

経済産業省、NEDO、総合電機メーカー、石油化学品メーカーなどを経て国連・世界銀行のエネルギー組織GVEPの日本代表となったのち、日本サスティナブル・エナジー株式会社 代表取締役、認定NPO法人 ファーストアクセス( http://www.hydro-net.org/ )理事長、一般財団法人 日本エネルギー経済研究所元客員研究員。東大院卒。

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