6月2日、国の成長戦略会議(第11回)において、『成長戦略実行計画案』が提出された。今後、検討を経て閣議決定となるための案だ。
今回の計画案では、脱炭素の部分がかなり大きいウェートを占めている。原子力を最大限活用、の文言が消えた、という報道もあったが、それ以外にも注目すべき論点は多々ある。成長戦略は予算取りも絡むため、各省が自分たちのやりたいことを全て盛り込もうとして、壮大な幕の内弁当となり、焦点がぼやけるのが常だが、今回は焦点が脱炭素に絞られてきているとみる。この成長戦略、特にグリーン成長戦略を重点的にゆーだいこと前田雄大が解説する。
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成長戦略実行計画案自体は全体像なので、当然、脱炭素以外も含んだものになる。
まず注目したい点は文書の構成だ。1章は基本的に導入のため、第2章から個別に入っていくが、まずデジタル。その次にグリーン、となっている。基本的に、この2つが重点だ、これからの世の中の成長はここが日本も重点だ、ということになる。
しかもデジタルは第2章のみ。グリーンは第3章、4章と2つあるあたり、どれほどグリーンを重要視しているか、が見えてくる。
その後、働き方を含めた人への投資、産業の国内回帰などを含む経済安全保障と続くが、この経済安全保障でも、半導体や蓄電池といったデジタル・脱炭素に関係する論点が出てくる。とにかく、この2つ。それ以外にも多くの章がそのあと連なってくる。
最終的には、やはり成長戦略、国の包括戦略のため、幕の内弁当化は多少なりともするのだが、やはり、鮮明となった、のはデジタルとグリーンだ。特に唯一、2章分を割り当てられた、グリーンだ。
実はこの成長戦略とは別に、同じ6月2日に経産大臣が提出をした「2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」というのがある。
この2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略、こちらのエッセンスをまとめたものが、成長戦略の中に入り込んでいる、というのが実態だ。そのため、グリーン戦略部分は経産省案を見た方がより詳しい、ということになる。
各論に入る前に、投資と規制周りを含む分野横断施策だけは、国の成長戦略実行計画案がまとまっているため、ここをみてみる。
予算、税制、規制周りに共通して言及されているのが「脱炭素に取り組む企業が得するような仕組みにしてゆく」ということだ。インセンティブをつけることで民間が脱炭素の方向にシフトする、脱炭素はお金(予算)も得られるし、優遇も得られるし、競争性も出てきて、イノベーションも起こしていきたい。設備も脱炭素方面で新しくしていきたい、という政府の意図が要約からもかなり見えてくる。
ただ、そうした脱炭素化が日本国内で進んだとしても、スケールメリットが出てくるかというと、国内市場だけでは厳しい。脱炭素の流れがより早い、世界市場の中で規模の経済を働かせてコストを下げていこう、というのが「国際連携」の項目で書かれている。
分かりやすい構図だが、コストを下げていく、との言及した点は好印象だ。高いものは売れない、技術が高いmade in Japanだけでは戦えない。こうした点は今までなかなか踏み込まなかった表現であり、また、脱炭素化の戦略ポイントが、コストの低下とイノベーションが同時に起きているということを、しっかり政府も認識できたということではないか。
一方、脱炭素シフトは支援するけれども、そうでないところはそこまでの支援はない、というラインが引かれたということも重要だ。いままでは弱者切り捨ての視点があまりなかったが、昨年末にグリーン成長戦略を発表したときに支援をする、しないが考え方として入ってきて、以後は、貫かれている。
脱炭素を追い風にできた企業が伸びる、ここに予算も制度もついてくる、ということだ。
実は、今回注目する「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」は、去年12月に開催された第6回成長戦略会議に、一度提出されている。
その時の資料では、重要分野における「実行計画」部分は、冒頭から洋上風力、アンモニア、水素、原子力という順で並んでいた。それが、今回の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では変わった。
アンモニアは火力との混焼であるため、あくまで火力発電。これを上の方に持ってくることは疑問であり、水素をはさんで原子力の順だが、これで本当にいいのかという議論になったのだろう。46%温室効果ガス排出削減を掲げ、また、真剣に脱炭素をやるなら、再エネこそを強くしていかないといけない。これが政府の中で議論をした結果と見る。
今回の成長戦略実行計画案の第3章、グリーン分野の成長での言及は、「洋上風力・太陽光・地熱」の順になっている。
洋上風力は、日本の面積を考えたらそれしかなく、太陽光は世界の潮流を見ても盛り込まざるを得ない。風力・太陽光は世界で日本企業が戦う上で必ず通らないといけない2つの柱。そこに追加されたのが地熱発電。これまでは項目として小さな扱いだった地熱発電が、ここで来た。アンモニア等の論点が来る前にしっかり再エネ3つが入ってきた。ここは強調したい。
日本の再エネは、これからは、洋上風力、太陽光、地熱。これが3本柱になる。
この重要分野における「実行計画」、項目は14もある。政府もどのように14の項目を実施していくのか、という図を作っている。
分野ごとの「実行計画」(課題と対応、工程表)
2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 2021年6月2日
エネルギーはトップにいまちょっと取り上げた洋上風力・太陽光・地熱。製造業では自動車・蓄電池、そして半導体・情報通信産業。次に住宅・建物・次世代電力マネージメント産業ということで、この4つが優先順位が高いんだろうということになっている。
つまり再エネ、蓄電池、EV、半導体。DXもGXも、ここが重要になってくる。そこに各家庭になるとZEHやZEBが入ってくる。ちなみに、この図は、12月の資料にもあった。
分野ごとの「実行計画」(課題と対応、工程表)
2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 2020年12月25日
大きく変わった再エネ、水素、原子力、このあたりをみるだけでもこの半年の変化がわかるだろう。
今回の原稿では以下の三つを見比べながら、注目すべき項目、表現と、その裏にあるであろう政策意図半年の変化と今後のグリーン成長を解説する。
「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2020年12月25日 経産省)
「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2021年6月2日 経産省)
「成長戦略実行計画案」(2021年6月2日 内閣府成長戦略会議)
まずは洋上風力についてみていく。洋上風力についての記述はこうだ。
「洋上風力発電は、大量導入やコスト低減が可能であるとともに、経済波及効果が期待されることから、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札である。特に、事業規模は数千億円、部品数が数万点と多いため、関連産業への波及効果が大きい」
(2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 2021年6月2日)
最初の注目点は「切り札」の記述だ。「日本が脱炭素をするには再エネの主力電源化が必要であるが、そこの切り札は「洋上風力」だ、と言い切っている。それにはどういった背景があるか。
1つは「大量導入」という論点。やはり海の面積が日本は大きいので、海洋を重点的に活用し、大量に再エネを作る、それが洋上風力によって可能である、ということになる。2つ目はコスト低減が可能だということ。大量導入できるということは、規模の経済が働いてくる、それが日本市場で出来ることになる。ここで言うコストとは、電気料金のことだ。
再エネを大量導入でき、脱炭素化に資する上に、電力料金を長期に下げてくれる、となれば、切り札という表現になる(ちなみに、筆者が長年掲げてきた論点で、非常に嬉しい)。
さらに、そこにサプライチェーン形成の論点が入ってきた。洋上風力は部品が多く、物作り立国である日本には向いている形態である。様々な部品に、日本の技術力が貢献し、世界に高品質部品を提供していく、それが裾野の広い雇用にもつながる、というロジックだ。これも素晴らしい。そのターゲットはアジアだ。国際産業を育成し、アジアのマーケットを取り込み、外貨を稼く、というシナリオがここに書かれている。筆者は非常に好感触を得た。
従来から立てられていた目標をおさらいすると、導入目標は2030年にまでに1,000万kW、2040 年までに浮体式も含む3,000万kW~4,500万kW の案件を形成する、ということだ。
洋上風力発電は成長分野に
続いて太陽光発電の記述を見てみよう。
「太陽光発電は、平地面積当たりの導入量が世界一であるなど、再エネの主力として導入が拡大してきた。(略)カーボンニュートラルの実現に向けては、更なる導入拡大が不可欠である。
一方で、太陽光発電の導入量はFIT制度導入当初は7~8GW、2016年以降も5~6GW程度を維持してきたが、足下の認定量は1.5GWまで低下している。これはFIT制度導入後、産業全体が未成熟な状況で生じた急激な拡大を、買取価格の引下げや事業規律の強化等を実施し、産業の適正化を図ってきた結果であると考えられるが、今後はこうした経緯を踏まえた産業拡大の絵姿を描いて行くことが不可欠となる。
ただし、足下では、日本企業の世界シェアも大きく減少し、2019年には1.8%のシェアにまで低下している。
こうした状況を踏まえ、更なる導入拡大に向けては、適正な事業者による、地域と共生した形での事業実施を大前提に、足下での導入量の再拡大を図りつつ、主流となっている既存のシリコン太陽電池では設置困難な場所でも設置可能な次世代型太陽電池の技術開発等を通じ、中長期的に新市場を創出していくことが急務である」
(2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 2021年6月2日)
前述の洋上風力、次の地熱発電とを見比べてもらうとわかりやすいが、非常に歯切れが悪い。太陽光は世界のトレンドでもあるので戦略に入れ込んだのだが、日本の再エネの主力となるイメージを持てていないのではないか。
参入した太陽光業者の質の悪さについても「産業全体が未成熟な状況で生じた急激な拡大を」という形で書いているが、ここは非常に本音が出ている部分ではないか。しかも、日本の世界におけるシェアは少ない、国内もFITが高かったときには参入が多かったが、直近は新規の建設は少なくなっている。太陽光は本当に選択肢になるのか? という気持ちが透けて見える。
とはいえ、いま、民間が導入し始めているPPAでの再エネ調達手法の主力は太陽光だ。太陽光も手がける再エネ業界、奮起すべきではないか。
政府がその中で注力するという、次世代技術。これはぺロブスカイト構造を持つ「塗る」太陽電池だ。曲げることが出来たり、壁面に適応したりと汎用性も高い。世界に打って出るなら、この技術、という形になっている。
そして3番目、地熱発電に関する記述はこうだ。
「地熱発電は、発電時に CO2をほとんど発生しない再生可能エネルギーの中で、太陽光発電や風力発電等と異なり、ベースロード電源となり得る再生可能エネルギーである。2050 年カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギーの最大限の導入が求められる中で、安定的な再生可能エネルギーの導入に資する電源として地熱発電の推進は非常に重要である」
(2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 2021年6月2日)
ここでの注目ワードは「ベースロード電源」。本当に日本のエネルギー政策は、とにかくこの単語が大好きである。こちらについては長い間、原子力や石炭を形容するときに使われてきた用語であり、この言葉に対するエネルギー行政の思い入れたるやすごいものがある。
そうした言葉を地熱発電に対して使ってきた。さらにその推進は「非常に重要」。地熱の相対的な地位は爆上がりだ。
地熱発電の発展にはコストの問題もさることながら、規制の部分もこれまで問題だった。国内の地熱資源の約8割が国立・国定公園内に存在しているからだ。これに対して自然公園法、温泉との兼ね合いは温泉法、それぞれについて改正していくべき論点を明示するなど、メスがこれから入っていきそうだ。いずれも所管官庁は環境省だ。
次世代地熱発電として期待されるFervo Energy
次に序列が上がってきたのが、水素だ。実は12月の戦略案と書きぶりは変わらない。
「水素は、発電・輸送・産業等、幅広い分野で活用が期待されるカーボンニュートラルのキーテクノロジーである。(略)今後は水素を新たな資源と位置付けるとともに、乗用車用途だけでなく、幅広いプレイヤーを巻き込んでいく。その上で、例えば、利用・輸送・製造の各分野において、一定の仮説に基づき世界の市場規模等を推計し、以下に記載するような各種措置を講ずることで、脱炭素化を促進しつつ、産業競争力を強化していく」
(2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 2021年6月2日)
注目ワードは「キーテクノロジー」。水素にも思い入れたっぷりだ。車だけでなく広い用途で、という記述はトヨタの水素戦略にも合致する。
成長戦略実行計画案では目標も設定している。
「2030 年に供給コスト 30 円/Nm3(現在の販売価格の 1/3 以下)、2050 年に水素発電コストをガス火力以下(20 円/Nm3程度以下)にする(略)」
(成長戦略実行計画案 2021年6月2日)
具体的にガス火力よりも価格を下げるといい、化石燃料よりも競争性を持たせようとしている。よく言われる再エネの不安定出力に対し、水素はその調整力になるとも今回の戦略案には書かれている。いまの石炭火力のポジショニングを水素で、という狙いも考えているようにもとれる。
「燃焼してもCO₂を排出しないアンモニアは、石炭火力での混焼等、水素社会への移行期では主力となる脱炭素燃料である」
(成長戦略実行計画案 2021年6月2日)
これも12月案から書きぶりは変わっていない。注目は「移行期」というワード。脱炭素を実現するために火力発電も使わなければならないが、CO2排出を減らすためにはアンモニアを使わないといけない、という位置づけになっている。つまり、アンモニアは脱炭素の救世主にはならない、ということだ。
水素の序列が上がり、水素・アンモニアとなった背景は、温室効果ガス46%削減達成のために、アンモニアでの火力発電を推すよりも、再エネを強化しながら水素にした方がいい、という判断があったのではないかと伺える。書きぶりは変わらないまでも、序列を変えてきた意味はそれなりにあるだろう。
次世代熱エネルギー産業という項目は12月案のときにはなかった。要約は「成長戦略実行計画案」の方がコンパクトにまとまっている。
「再生可能エネルギー由来等の水素とCO2から合成したメタンは、都市ガス導管など既存のインフラを活用して天然ガスを代替できるため、熱需要に必要なガスの脱炭素化において鍵となる。
合成メタンについて、技術開発を進め、2030年までに利用開始を目指す。2050年には、既存のガス供給インフラにおいて合成メタンを90%利用し、水素直接利用等の手段と合わせて、ガスの脱炭素化達成を目指す」
(成長戦略実行計画案 2021年6月2日)
つまりは合成メタンの話だ。しかもよく読むと、グリーン水素文脈の話であることがわかる。水素と大気中のCO2を使ったメタンなら、カーボンニュートラルだ、ということだが、つまりは水素文脈。いかに水素推しかが分かる。
原子力発電について、注目すべきは各論よりも総論的な言及箇所だ。12月案との比較をしてみよう。
12月案
「原子力については、確立した脱炭素技術である。可能な限り依存度を低減しつつも、安全性向上を図り、引き続き最大限活用していく。安全最優先での再稼働を進めるとともに、安全性に優れた次世代炉の開発を行っていくことが必要である」
(2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 2020年12月25日)
今回
「原子力については、可能な限り依存度を低減しつつ、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、再稼働を進めるとともに、実効性のある原子力規制や原子力防災体制の構築を着実に推進する。安全性等に優れた炉の追求など将来に向けた研究開発等を推進する
(2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 2021年6月2日)
このように、12月時点では『確立された脱炭素技術』、と言い切っていた。これをみたときに筆者は「ここまでよく書いたな」と感じていた。原子力発電が、結果としてCO2を出さないのはそうなのだが、脱炭素のために原子力、という論点は国際的にスタンダードでも何でもないためだ。河野太郎大臣、小泉進次郎大臣が12月案の原子力の記述に反対したというのを筆者は聞いているが、その影響を受けてこの部分が変更になったと思われる。
メディアでは「最大限活用」の部分の削除も報道された。12月案の段階で、最大限という文言をついに入れてきた、これは原子力を復権させたい意向だ、と解説したが、ここも削られた。細かいところでは、「次世代炉の開発を行う」というところも「研究開発等」、という形で前向き感が削がれた。
とはいえ、筆者としては、文章にしていないだけで、経産省の実際の腹積もりは12月案と何ら変わっていないとみる。ただ、エネルギー基本計画の策定も行っている最中でこのトーンダウン。これからどのような影響が出るのかは結構見物ではないか。
成長戦略実行計画案の「グリーン分野の成長」項目で、再エネ、水素の次に位置付けられているのが自動車・蓄電池だ。
「自動車分野においては、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル化を目指し、エネルギーの脱炭素化と合わせて、包括的な支援策を実施し、電動化を推進する。電気自動車・燃料電池自動車等の導入促進に加え、後述の電池の次世代技術開発・製造立地推進、水素ステーションの整備、電気自動車向けの急速充電設備の整備等により、電動車について、遅くとも2030年までにガソリン車並みの経済性・利便性を実現する」
(成長戦略実行計画案 2021年6月2日)
まるでトヨタの戦略がそのまま書かれているようだ。電動化戦略は所与だが、力点は電池開発、インフラ導入、そして、コスト(経済性)だ。特にコストを成長戦略でも強調してきたのは好印象だ。例えば日産アリアが普通のガソリン車並みの価格であれば、ユーザーは爆発的に増えるだろう。
同じくグリーン分野の成長項目、自動車の次は力点はカーボンリサイクルの言及がある。ただ、これまでとは少し焦点が違うようにも見る。
「カーボンリサイクルは、CO2を資源として有効活用する技術であり、カーボンニュートラル社会の実現に重要な横断的分野である。日本に競争力があり、コスト低減、社会実装を進めた上で、グローバル展開を目指す。
具体的には、CO2吸収型コンクリートは、2030年には需要拡大を通じて既存コンクリートと同価格(=30/kg)を、2050年には防錆性能を持つ新製品を建築用途にも使用可能とすることを目指す。(略)マテリアル産業は、水素を用いた高炉製鉄法など、世界に先駆けゼロカーボン・スチールの技術開発・供給を行い、2050年に年間最大約5億トン、約40兆円と見込まれるグリーンスチール市場の獲得を目指す」
(成長戦略実行計画案 2021年6月2日)
これまでは、火力発電にCCUSを追加するような、どう考えてもコスト増になるようなCCUSの議論だったのが、コンクリートやマテリアルの話になっている。具体的な製品に言及したことは、地に足ついた議論の証左だ。現在開発中の大成建設のコンクリートのCO2吸収技術が最近でも話題になったが、コスト競争力がついてくれば、面白くなる。
同じくグリーン分野の成長項目は、住宅にも言及している。
「住宅・建築物は民生部門のエネルギー消費量削減に大きく影響する分野である。(略)住宅や建築物のエネルギー消費性能に関する基準や長期優良住宅の認定基準・住宅性能表示制度の見直し、住宅・建築物の長寿命化などにより、省エネ性能の向上を図っていく。
再エネの大量導入等に伴う、電力系統の混雑を解消するため、デジタル技術を活用して、より高度な系統運用が行える次世代送電網の構築を図る。また、デジタル技術を活用して、太陽光や風力などの変動性が大きい再エネと蓄電池等を組み合わせた電力需給の最適化サービスを提供する事業を促進する」
(成長戦略実行計画案 2021年6月2日)
ここでの注目は、ふたつ。
国内でZEHやZEBといったエネルギー効率のよい建物のシェアを拡大し、それを海外に展開していこうという狙いがひとつ。もうひとつが、将来の屋根置き太陽光を考えたときの、エネルギーマネージメントをどうするかということだ。VPPのような電力融通を小さい単位でし合う時代に入ってくるかもしれない。
そして、成長戦略実行計画案の記述では、住宅の次が前述の次世代熱、原子力になる。その次の分野が半導体だ。
「カーボンニュートラルは、製造・サービス・輸送・インフラなど、あらゆる分野で電化・デジタル化が進んだ社会によって実現される。したがって、①デジタル化によるエネルギー需要の効率化と、②デジタル機器・情報通信自体の省エネ・グリーン化の2つのアプローチを、車の両輪として推進する。2030年までに全ての新設データセンターの30%省エネ化及び国内データセンターの使用電力の一部の再エネ化、2040年に半導体・情報通信産業のカーボンニュートラルを目指す」
(成長戦略実行計画案 2021年6月2日)
繰り返しになるが、デジタルもグリーンも半導体が肝だ。データセンターを脱炭素にする、とITのグリーン化にも触れた。
この半年で論点、力点もかなり変わった。今回の成長戦略案で非常に印象的な点は、「再エネのメニュー変更」、「ボリューム出し」、そして「水素論点の拡大」、この辺りだ。
改めて言っておきたいのは、成長戦略自体は、国の成長全体に関する施策。その中でグリーンだけは2項目あるということだ。ここにグリーン化、脱炭素が国の成長にどれだけ大きな意味を持つかが表れている。特筆すべきだろう。
国も、そしてビジネスもグリーンの波を捉えたものが伸びていく、そういうことだろう。まさに、『成長戦略の中核はグリーン』だ。
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