英国は日本と同じく周囲を海に囲まれている。そのため、洋上風力だけではなく、海流を利用した発電技術の開発も進められている。すでに実用化のレベルに達しているということだが、日本においても英国の潮流発電技術の実証がすすめられている。YSエネルギー・リサーチ代表である山藤泰氏が報告する。
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再生可能エネルギーとして風力、太陽光による発電が世界的に急伸しているが、日本はその潜在量をいかせていない。何かそれに加えることができるものはないかと考え、海に囲まれた国土として海洋エネルギーの利用ができるのではないかと思っていた。
海洋エネルギーの利用方法としては、黒潮のような海流、あるいは、干満時に起こる海流を利用する潮流・潮汐発電、そして風で起こる波を利用した波力発電、さらには、少し異次元の海水温度差発電などがあり、それぞれについて日本でも実証試験が行われてはいるが、MW規模のものはまだ行われておらず、本格的な発電にまで至ったものはまだ見られないようだ。
これに対し、海洋エネルギー利用技術の開発を意欲的に進めてきたのは英国だが、最近かなり規模の大きい潮流発電に着手したというニュースが入ってきた。
この4月に、SIMEC Atlantis Energy(SAE)社が、これまで潮の流れが速いことで知られるスコットランドの北部沿岸で2018年から進めてきたMeyGen潮流発電プロジェクトの発電規模のさらなる拡大について、英国政府の財政支援を求め、認可されたというものだ。
このプロジェクトは当初、1.5MW規模の潮流発電機4基で開始され、25年間の運用を行おうとするものだ。最初の2年間で24.7GWhが発電され、送電系統に送り込まれている。
SIMEC Atlantis Energy社のMeyGen潮流発電プロジェクトの海中タービン SAEウェブサイトより
今年から第2フェーズの計画に着手しようとしているが、それは1.5MWの潮流タービンを49基新たに設置し、全体をひとまとめに出来る構造体に設置することによって、1本の海底電線で陸上の送電系統に電力を送り込む、というものだ。コストは4億2,000万ポンド(約631億円)。
当初設置された4基は引き上げて点検され、順次、もとの海底に戻されることになっている。大きなトラブルはなかったということだろう。
SAEによれば、この設備規模拡張に備えて、スコットランドのNigg港にタービン製造工場が作られ、5,000人の雇用を生み出すことになるとのことだ。
SAEの開発した潮流タービンは、英仏海峡で行われている実証試験にも新しく採用されるようになっている。
スコットランドで作られた新しい設計のタービンが4基設置され、それによって平均発電コストを大幅に引き下げる結果が出せるようだ。また、異なった海流のある区域で発電させることによって、海底の状況に則した設計条件を設定できるようになると期待されている。
SAEは日本にも関係するようになっている。同社の作った500kW出力のAR500が、日本で行われる実証試験に採用されたのだ。
長崎県五島市がこの2021年1月18日、五島市の奈留瀬戸において、日本初となる大型潮流発電機の実証事業を開始すると発表したのがそれだ。
実証で使用するSAEの大型潮流発電機が英国から同市奈留瀬戸に到着。九電みらいエナジーが2021年1月下旬に発電機の設置工事を始め、実証機を設置後、2021年2月まで実証を行う予定となっていた。
報道によると、この事業は、環境省「潮流発電技術実用化推進事業」として、九州電力グループの九電みらいエナジーと、共同実施者のNPO法人長崎海洋産業クラスター形成推進協議会(長崎県長崎市)が取り組んでいる。
この潮流発電機は、水深約40mの海底に設置された。同事業は、国内初となる500kW規模の潮流発電の実証を行うもので、日本の海域に適し、普及可能性が高い潮流発電の開発と実証を実施し、再生可能エネルギーの導入量の拡大とCO2の削減をさらに進めることを目的としている。事業期間は2019年8月~2021年2月。予算は18億円。SAE社の実機が設置されるかなり前から準備が進められてきたようだ。
一般に潮流発電には毎秒1m以上の流速が必要だが、実証試験を行う奈留瀬戸では最大で毎秒3m以上となることから、国から海洋再生可能エネルギーの実証フィールドに選定されている。今回採用したSAE社の発電機は、出力500kW、高さ約23m、重量約1,000トン、回転数7~12rpm(回転/分)。発電機は奈留町漁業協同組合の共同漁業権の海域に設置される。実証後、機器は撤去され、英国へ返送されることになっていた。
なお、九電みらいエネルギー社に確かめたところ、コロナウイルス感染防止のため英国からの技術者の往来が難しかったために、2021年2月に終わるはずだったこの実証事業は、2022年3月31日まで延長されている。
出典 九電みらいエナジー
潮流は潮の満ち引きによって約6時間ごとに向きを変えながら、ほぼ一定の速さで流れ続ける。この潮汐力を利用して発電するため、天候の影響を受ける風力発電よりも安定した電力を供給できる特徴がある。
設備利用率(定格発電能力に対する実際の発電比率)は40%程度を期待でき、陸上風力の20%や洋上風力の30%と比べて設備利用率が高い。また、発電量の予測もやりやすい。
その意味で、本土の送電系統と繋がっていない離島の電源としても利用しやすく、離島でよく使われているディーゼル・エンジン発電機の稼働を抑制でき、蓄電設備と組み合わせれば、再エネ電源として理想的な存在となる可能性がある。発電電力に余剰が出た時に水を電気分解して水素を製造することも可能だろう。
海流関連発電機の開発には遅れをとっている日本だが、事業として運用する能力の高い事業者は多いから、早期に実証期間を終えて実用化されることを期待している。
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