太陽光パネルのリサイクルに進捗 まさかのあの農業にも活用! | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

太陽光パネルのリサイクルに進捗 まさかのあの農業にも活用!

太陽光パネルのリサイクルに進捗 まさかのあの農業にも活用!

2021年09月07日

カーボンニュートラル時代の牽引者は、IEA(国際エネルギー機関)がこれからのエネルギーの王様と形容したように太陽光発電だ。ただ、実現に向けては、避けては通れない論点がある。

もちろん、中国が太陽光パネルを多く生産していること、そこに関連するウイグル問題など、そうした政治的な問題の他に、気質的に存在する問題がある。それは、寿命が来たパネルをどうするかだ。

エナシフTV連動企画

太陽光パネル廃棄問題の概観

太陽光パネルの処分問題については、しっかりと向き合わなければならず、日本の中でも取組みが進展を見せてきている。たとえば、総合商社の丸紅が他社とは異なる視点で取組みを加速し始めており、一歩抜け出た感がある。そこで、今回は太陽光パネルの処分問題に焦点を当てて解説をしていきたい。

まずは、太陽光パネルの廃棄物問題を概観した上で、次の3つの事例を紹介していく。

  1. 丸紅による使用済太陽光パネル問題にブロックチェーンを組み合わせた管理システムの確立に向けた取組み
  2. 丸紅がある農業と組んで、進める使用済み太陽光パネルのリサイクル事業
  3. 再資源化まで含めたリサイクルに挑戦する加山興業の取組み

太陽光の廃棄物問題の概観だが、そもそもの問題として、発電に使われたパネルがしっかり処分まで回るのか、という処分の前段階から解説したい。というのも、「放置する業者がいるんじゃないか」という不安を抱く人が多いからだ。

パネルの放置については、太陽光について問題意識を持っていることもあり、経産省がしっかりまとめている。

まず、屋根上太陽光だが、次のように答えている。

「建物に設置された太陽光については建物の撤去の際にいっしょに廃棄されるのが一般的」

そのため、放置される懸念は低い。

次に、借地にメガソーラーを作っている場合だ。これについても「借地でおこなわれている事業用太陽光発電については借地期間終了の際に現状復帰が義務付けられているのが一般的」としている。そのため、借地メガソーラーも放置懸念は低い。

ただ、問題として挙げているのが、事業者が所有している土地でおこなわれている事業用太陽光だ。

どういう問題が起きるかというと、「実質的に事業が終了していても、コストのかかる廃棄処理を行わずに、有価物だとしてパネルが放置される可能性」がある、としている。

そしていずれのケースでも、廃棄の費用を捻出できない、あるいは準備しなかったなどの場合、他の土地に不法投棄されるのではないかという懸念が生じる可能性がある。

不法投棄を防ぐにはどうしたらいいのか。それは電気を売って得た収入の一部を、廃棄などの費用としてあらかじめ積み立てておくことが有効なのだが、これについても経産省は事業者にアンケートをとって調べている。

低圧、高圧、いずれのケースでも過半数を超える事業者が積立をしていない、と2018年時点で回答している。特に低圧が顕著だ。固定価格買取制度のスタートともに、優良、悪徳さまざまな業者がこの業界には参入している。そうした中で悪徳な業者が開発にあたると、放置懸念が現実のものになってくる。

こうした構造的な問題があるとした上で、いずれにしても、パネルは年数が経てばいつかは古くなる。元々、寿命は25年~30年とされてきた。実は、最近、それよりも長く持つのではないかとも目されるようになってきている。太陽光の導入が本格化したのが割と最近で、30年を経過したものでの検証が進んでいないためだ。ただ、いずれにしても、どこかでパネルの処分の問題は出てくる。

そのときに懸念されるのが、パネルの有害物質の流出・拡散だ。

太陽光パネルには、その種類によっては、鉛、セレン、カドミウムなどの有害物質が含まれている。それぞれ適切な処分方法があるのだが、例えば含まれる有害物質の情報が廃棄物処理業者に伝わらないと、適切な処分が行われずに、有害物質の流出・拡散が起きる可能性がある。

つまり、しっかりトレースをすることがパネルの処分では重要なわけだ。そして、その上で、適切にパネルを処分する。そのときに、物質を取り出すことができ、それを再利用できる、例えば貴金属なども含まれており、それらを取り出して次のパネルにつなげる、など、リユースできる部分はリユースする、こうしたことが重要になる。

単に「脱炭素」を進めるのではなく、最後までしっかり面倒をみて、ケアすることで、初めて社会にとって意味のあるものになる。そして、これがちゃんと循環する仕組みになれば、日本の経済にとってもプラスになるだろう。

では、循環する取組みはあるのだろうか? 実は着々と取組みは進みつつある。

そのひとつが、丸紅が使用済太陽光パネル問題にブロックチェーンを組み合わせた管理システムの確立に向けた取組みだ。まずは丸紅から紹介していこう。

丸紅、ブロックチェーンで使用済み太陽光パネルの性能情報などを管理

丸紅が今回手掛けるのは、使用済太陽光パネルのリユース・リサイクルに関する実証事業だ。この事業の中で、何を目指すのか。それは、使用済太陽光パネルの効率的な回収、適切なリユース・リサイクルを目的とした情報管理プラットフォームの構築だ。

廃棄問題を防ぐには、使用済みパネルのトレースが重要だと先述した。丸紅の全体図をみると、まさにその構図になっている。

まず使用済みパネルが出る、そのときに証明書を発行して、それをプラットフォームで管理する。続いての工程となる輸送回収やリユース可否検査でも同様に証明書を出しながら、それをプラットフォームで管理していく。そして、その中でリユースできるものはリユースに、リサイクルできるものはリサイクルに回す。こうすることで、漏れなくしっかり工程をトレースしながら、まっとうな形で使用済みパネルが処理されていくわけだ。

なにせ日本国内では、いまは脱炭素時代。使用済太陽光パネルの排出量は、仮に製品寿命を20年とすると、2030年代中頃にはピークとなり、年間約80万トン程度に至る見込みだ。どのくらいの量かというと、これらの太陽光パネルを敷き詰めると東京ドーム約1,700個分の広さになる。

とはいえ、先ほど述べたように実際の寿命はもっと伸びており、もう少し規模は小さくなるだろうが、いずれにしても大量のパネルが処分工程に出てくることは間違いない。

丸紅が今回、構築する情報管理プラットフォームは、使用済太陽光パネルの排出時からリユース、リサイクルに至るまでの取扱履歴、検査情報、使用済太陽光パネルのリユース可否判断等の情報を備える機能を有しているが、ここに組み合わせるのがブロックチェーンだ。

ブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティや情報の非改ざん性についても検証する形となっている。

このような形にすることで、使用済太陽光パネルの情報を適正に管理することが可能となり、①リユース取引の活性化やリサイクル促進への寄与、②原材料の循環利用、③産業廃棄物の埋め立て処分量の削減、これらが実現されることが期待されている。

また、リユースパネルが新品太陽光パネルの代わりに使われることにより、パネル製造時に排出されるCO2排出量の削減も期待されており、ここも脱炭素に資するという形になっている。

このようにプラットフォームを形成した丸紅。すでに実際のリユース・リサイクルにも乗り出しており、しかも、ちょっと変わった工夫を凝らしている。

そこで、次に丸紅がある農業と組んで、使用済み太陽光パネルのリサイクルに取り組む事例を説明しよう。

廃棄パネルのガラスで脱臭、イチゴを栽培

今回、丸紅が活用したのは、鳥取再資源化研究所の技術。この技術を活用して、廃棄パネルのガラスを高温で焼成し微細な穴の開いた多孔質ガラスに加工する。

では、これを何に使うのか。一つは、脱臭装置への利用。そしてもう一つがなんとイチゴ栽培への活用になる。

まず脱臭装置からみていこう。

さきほどの多孔質ガラスを、リサイクル設備プラントを手がけるミライエが開発した脱臭装置に導入。どんな原理かというと、ガラスに悪臭を分解する菌を定着させて匂いを取り除く、という形で脱臭を実現するわけだ。ガラスは変質しにくく長期間交換の必要がないという利点があり、丸紅は畜産施設や産業廃棄物処理施設への販売を見込んでいる。

続いてイチゴ栽培。

こちらは農業法人のGRAと共同で取り組んでいる。どう利用するかというと、多孔質ガラスには無数の穴が開いているため、水を多く含むことができるという特徴がある。その特性をいかして、なんとイチゴを育てる培土として利用できるかを検証しているのだ。まだ実証中だが、2022年2月以降、実験結果を踏まえ実用化を検討するという。

まさか、太陽光パネルのガラスが脱臭装置やイチゴを育てる土になるとは、と驚きだが、やはり、こうした一ひねりも二ひねりも加えたもの、これが大事になる。

ただ、太陽光パネルのリサイクルは何も丸紅だけが進めているわけではない。より直接的なリサイクルを確立しようとしている企業もいる。

そこで、最後に再資源化まで含めたリサイクルに挑戦する加山興業の取組みを解説したい。

加山興業、再資源化まで含めたリサイクルに挑戦

加山興業は、名古屋にある産業廃棄物処理の会社だ。

使用済み太陽光パネルのリサイクル事業に参入したのだが、加山興業が導入したのが、粒状の材料をパネルに吹き付けてガラスをはがす装置。この処理をすると、その後、ガラスやパネルに使われていた金属や樹脂を再資源化できるという。


加山興業HPトップ

実は、太陽光パネルはガラスと樹脂が強固に接着しているため、現状では使用済みの状態で粉砕し、埋め立て処分する場合が多い。しかし、そうなると当然、廃棄されたものからの有害金属の論点なども出てきてしまう。

その点、加山興業が導入した設備は、ガラスと他の素材を分離するため、埋め立て処分を減らせることができる。

また、導入する設備に独自のふるい条件を採用し、他の素材の混入が少ないガラスを回収するため、リサイクルしやすいという特性もある。さらに、吹き付けた粒状材料は繰り返し利用できる、とここも優れ物だ。

ちなみに、さらにこの会社のPRをすると、加山興業はCO2排出量実質ゼロの電気を購入しており、太陽光パネルのリサイクルによるCO2排出も抑制できる、と何拍子も揃っている。

なお太陽光パネルの処理能力は年3万3,000枚。まだ需要がそこまでないが、今後必ず増えることを見込んでの先行した動きということだ。社会のためにもなるので、ぜひ頑張ってもらいたい。

このような形で、しっかり使用済みパネルがトレースされ、リユース、リサイクルに回る。こうした循環を作っていくことが、脱炭素では大事だ。特に、資源国でない日本は資源の再利用は非常に重要。これが回るようになった先に、理想的な脱炭素社会が見えてくる。

今日はこの一言でまとめたいと思う。
『重要な使用済みパネル処理問題 続々といい動きが出てきた』

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

エネルギーの最新記事