延期が続いたテスラの“バッテリー・デー”は2020年6月にネット配信か | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

延期が続いたテスラの“バッテリー・デー”は2020年6月にネット配信か

延期が続いたテスラの“バッテリー・デー”は2020年6月にネット配信か

2020年06月18日

電気自動車(EV)のコストダウンや利便性を向上させるためのカギとなるのは、バッテリー(蓄電池)だ。EV業界をリードするテスラも例外ではなく、EV用のバッテリーの開発を進めている。そうした中、テスラが新しいバッテリーを発表するという。現在、どのような状況なのか、背景を交え、日本サスティナブル・エナジー株式会社の大野嘉久氏が解説する。

EV価格をガソリン車と同水準に引き下げる「100万マイル電池」を公開

皆さん、バッテリー・デーを楽しみに待ってて下さい!その日、皆さんはきっと驚くでしょう。なぜなら、私自身もその電池の技術に圧倒されました!」 - 米電気自動車(EV)メーカー、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は2020年1月30日、“バッテリー・デー”についてこうツイートした。

https://twitter.com/thirdrowtesla/status/1222678467499548672?lang=en

テスラはこれまで、ほとんどその情報を開示してこなかったが、どうやら「100万マイルの走行が可能」であり、「コバルト・フリー(あるいはコバルト・レス)」の、且つ「エンジン車と同じ価格レベルの」電池を実用化した模様である。

この“バッテリー・デー”は2019年6月にも「2019年末に開催される」と報道されたが実現できず延期となり、そののち「2020年4月」「2020年5月第3週」などと報じられるも新型コロナウイルス感染症の影響で再び遅れていた。そして2020年5月15日にはイーロン・マスクが

出席者が見込めないので延期することにしました。また、恐らく二部に分けることになります。まず2020年6月にインターネット配信での発表を実施したのち、数ヶ月後には通常のプレゼンテーションを開催することになるでしょう

とツイートした。イーロン・マスクはインターネットでの配信をあまり好んでいない模様だが、さらに延期するよりはひとまずバーチャルでも株主やメディアに報告しておいた方がよいと判断したのであろう。

https://twitter.com/elonmusk/status/1261185914006462464

バッテリー・デーの構想が初めて明らかになった2019年4月ごろ、テスラは電池生産で大きな課題に直面していた。というのも同社がパナソニックと共同で建設・運営していた米ネバダ州のリチウムイオン電池工場「ギガファクトリー1」の生産能力を1.5倍に引き上げる追加投資を凍結したことが明らかになったのだ(日本では2019年4月11日に日経が報道)。イーロン・マスクもツイッターで「パナソニックのセル供給がモデル3の増産の制約となっている」と投稿するなど、ギガファクトリーの運営において両社は厳しく対峙していた。つまりパナソニックに車載電池の供給を依存していたテスラにとって、自社技術による電池の開発は最優先課題の一つであった。

テスラは極秘でカナダ・中国と開発を続けてきた

バッテリー・デーで発表される電池技術は、テスラが2016年から(2012年との見方もあり)カナダ・ダルハウジー大学において中国車載電池最大手の「寧徳時代新能源科技(CATL)」と極秘で共同研究を続けてきた“ロード・ランナー・プロジェクト”がベースになっている。「ミリオン・マイル」の由来については、2019年4月22日に開催されたAutonomy Investor Dayというイベントにおいてイーロン・マスクは次のとおり紹介している。

「いまの自動車は100万マイル(およそ160万km)以上の走行に耐えられるように設計されており、また駆動装置も100万マイルの走行を前提につくられております。ところがEVのバッテリーパックは100万マイルの走行に耐えられるようには作られていない」

このミリオン・マイル・バッテリーが革命的なのは耐久性だけではない。まずキロワットアワー(kWh)あたりのコストが大きく下げられるため、EVが行政の補助金なしで従来のエンジン車と競合できる水準になるという。

さらに、新規技術開発によって希少金属であるコバルトの使用量を大きく低減させるか、あるいはコバルト・フリーを実現させる。加えて化学添加物などの作用によって内部応力を減少させ、エネルギー密度の向上とエネルギー貯蔵期間を延ばすことにも成功した。

そして、この“ロード・ランナー・プロジェクト”において重要な役割を果たしているのは2019年2月4日にテスラが買収した米国の電池企業であるマクスウェル・テクノロジーズ社(Maxwell Technologies)の電極技術であり、とりわけ超寿命化に大きく寄与している。

Maxwell Technologiesのウェブサイト。テスラによる買収が終了したことを告げている。

「ミリオン・マイル・バッテリー」はEV電池の次に電力系統で再利用される

この革命的な電池はEVの車載電池として寿命を全うしたのち、次は電力系統においてセカンド・ステージが用意されている。既にテスラ元最高技術責任者(CTO)のJ.B.ストラウベルテスラ氏が電池リサイクル会社「レッドウッド・マテリアルズ(Redwood Materials)」の社長に就任しており、使用済み車載電池から回収した希少金属を使って大規模な電力貯蔵システムを構築する。最終的には米カリフォルニア州のパシフィック・ガス・アンド・エレクトリック(PG&E)や東京電力グループと並ぶ大手電力会社になることを目指しているという。

もし、それほど巨大な規模の電力貯蔵設備を電力系統に設置することができたら、太陽光発電や風力発電など出力が不安定な再生可能エネルギーをもっと多く導入することが可能となるので、実際には困難とされてきた「脱化石燃料」や「脱原子力技術」も実現できるかもしれない。ここに先端の電力系統技術が融合したら、真のスマートグリッドと呼べるのではないか。

この新しい電池は2021年よりCATLがテスラの上海工場に供給し、そこで生産される“モデル3”にて使われる計画だという。来たる“バッテリー・デー”で、世界中の人を驚かせてほしいものである。

テスラ モデル3

参照

大野嘉久
大野嘉久

経済産業省、NEDO、総合電機メーカー、石油化学品メーカーなどを経て国連・世界銀行のエネルギー組織GVEPの日本代表となったのち、日本サスティナブル・エナジー株式会社 代表取締役、認定NPO法人 ファーストアクセス( http://www.hydro-net.org/ )理事長、一般財団法人 日本エネルギー経済研究所元客員研究員。東大院卒。

エネルギーの最新記事