より野心的な気候変動対策を主張し、政府にもそれを求めている立憲民主党の議員の目に、菅首相の2050年カーボンニュートラル宣言はどのように映ったのだろうか。また、政策の基本となるエネルギー基本計画はどうあるべきなのだろうか。立憲民主党所属で党のエネルギー調査会事務局長でもある山崎誠衆議院議員に、話をうかがった。
― エネルギー基本計画を考える上で、最初にこのことについて質問します。2020年10月26日、菅首相が2050年カーボンニュートラルをコミットしましたが、どのようにお感じになったでしょうか。
山崎誠氏:やっと言ったな、と思いました。基本的には歓迎していますが、日本が環境施策で先行している訳ではありません。むしろ、ようやく世の中の流れに乗って宣言した、という印象です。
― 2050年カーボンニュートラルを念頭に置いた上で、どのようなエネルギー政策に取り組むべきなのか、お考えをお聞かせください。
山崎氏:私は、立憲民主党のエネルギー調査会の事務局長をしているのですが、ちょうど今、再生可能エネルギーを軸に「エネルギー転換戦略」を練っているところです。最初に、この戦略について、お話しさせてください。
この戦略が自民党政権と最も異なるのは、省エネルギーにも注力する点と、原発・石炭火力依存の脱却を目指す点です。2030年の絵姿をきちんと示し、2050年につなげるというビジョンを示すための戦略とする予定です。
2030年時点で目指すのは、原発と石炭火力に極力依存しない、再生可能エネルギーとLNG火力のみの電源構成です。また、省エネルギーを30%以上取り組み、CO2排出量を大幅に削減します。これは「原発ゼロ基本法案」(2018年3月、野党4党が衆議院に共同提出)を提出した際の基本コンセプトであり、これを検証しながら具体化を進めています。
戦略の背景には、もちろん2050年カーボンニュートラルがありますが、同時に一日も早い原発ゼロ社会の実現を目標としています。その先に目指す姿は、エネルギーの安全保障・自立です。達成手段として、ひとつは省エネルギーの拡大、もうひとつは再生可能エネルギーへのエネルギーシフトを挙げています。
検討すべきは、エネルギーの安定供給とエネルギーコストです。これに伴って発生する投資効果や雇用の増加などの波及効果も含め、専門家を交えて検証を進めています。
現在、2021年1月20日から始まる通常国会の冒頭での公開を目指して作業を進めている段階です。
山崎誠衆議院議員
― カーボンニュートラルを目指すことで、日本の産業構造は大きく変化しますし、痛みも伴うのではないでしょうか。
山崎氏:エネルギーシフトでは、産業構造の変化によって雇用に関するさまざまな問題が生まれます。化石燃料に関する業界に従事している方の雇用の問題や、地域経済の自立を目指す上で立地自治体をどうするかといった課題もあります。特に、自動車産業では大きな脱ガソリンへのシフトが求められており、2050年には基本的にEVへの移行を完了しなければならないのではないでしょうか。
― 一方、再生可能エネルギーだけではなく、CCUS(二酸化炭素回収利用/貯留)といった新しい技術に対する期待もあります。
山崎氏:CCUSといったいわゆる未来の技術は極力使用せずに、エネルギーミックスを考えていくというのが、「エネルギー転換戦略」素案のスタンスです。
もちろんCCUSなどの画期的な技術が実用化できれば素晴らしいことですが、だからといって化石燃料の発電所を残してよいのかどうかは、別の問題です。化石燃料に頼り続ければ、エネルギー源の海外依存が続くことになります。
海外では再生可能エネルギーの価格は下がり続け、限界費用ゼロといわれる状況になっています。それなのに日本だけ化石燃料に頼り続けるのは、まさに“ガラパゴス”状態です。こうした最悪の事態を避けるためにも、再生可能エネルギーに積極的に取り組み、2050年には再生可能エネルギー100%を達成する必要があります。
― 省エネルギーの深堀りも重要だということですが、具体的にはどのようなレベルでしょうか。また、その上でエネルギーミックスはどのようになるのでしょうか。
山崎氏:「エネルギー転換戦略」素案では、省エネルギーの深堀りを目指します。目標値は、2030年には電力で28%の減少、最終エネルギー消費で38%の減少です。さらに2050年には電力で32%減、最終エネルギー消費で60%減を掲げています。
2030年のエネルギーミックスでは、石炭火力は緊急時のために5基程度を残します。LNG火力と再生可能エネルギーによる電源構成を検証しています。2050年には緊急時のスタンバイとしての10基程度を除くLNG火力もなくし、再生可能エネルギー100%を目指します。これにより、エネルギー起源のCO2排出量は60%減を達成できます。
さらに、このエネルギーミックスは光熱費の削減に貢献します。2019年時点で年間約50兆円の光熱費が発生していますが、省エネルギーと再生可能エネルギーを増やすことで2030年には33兆円に、2050年には16兆円となる見込みです。化石燃料の輸入にかかるコストも、現在の16兆円から2030年には9兆円にできると予想しています。あくまでも検討段階ですが、関連分野の投資は毎年20兆円を見積り、そのうちの5兆円を財政支出から充てます。
これは、コロナ禍からの復興を再生可能エネルギーで目指すグリーンリカバリーの位置づけです。また、産業政策としての性格も持ち合わせています。再生可能エネルギーは成長分野であり、この政策は日本の産業の転換を促すという意味もあります。
また、地域分散型のエネルギーシステムの構築や、エネルギー需給率向上による平和外交の基盤となるという背景も考慮しています。
「エネルギー転換戦略」素案では、これらの目標値から逆算し、各部門でどれくらいのCO2削減を実施しなければならないかを定めています。
自動車部門を例に挙げると、2030年で乗用車の20%、トラックの5%程度をEVにシフトすることを目標にしています。この目標値は現実的なものだと思っています。
産業部門では、鉄鋼業のようなエネルギー多消費需要家をどうするかという問題はありますが、全般的には、最終的にエネルギー効率の高い電化へのシフトが必要です。水素への切り替えといった施策も組み合わせながら、省エネルギーを進めていく方向です。また、省エネルギーに加え太陽熱への切り替えも検討項目に加えています。
―エネルギー基本計画の見直しが2021年に予定されていますが、これまで述べられたことの他に、特に力を入れるべき政策は何だと考えますか?
山崎氏:重要なことは多いのですが、中でも家庭・業務部門の断熱には注力すべきです。これまでも力を入れるとしておきながら、できていない分野です。大手ハウスメーカーはZEH(ゼロエネルギー住宅)に力を入れています。その点、取り組みが遅れている地方の工務店なども、既築の住宅の断熱改修などにも積極的に取り組むことで、地域経済の活性化につなげていくことには価値があると考えます。
また、省エネルギー投資は回収できることをもっとアピールし、投資を促すことも重要です。補助金や税制優遇などを活用し、投資回収の視点を施策に組み込めば、最小の財政支出に抑えながら、省エネルギー効果の最大化が狙えるはずです。
トップランナーまではいかなくとも、ベンチマーク制度を導入し、中程度以上の省エネルギー性能を目指すという方向性を打ち出したいと思います。全体を底上げすることで省エネルギーを拡大すれば、競争力も上がり、投資回収も可能となります。省エネルギーを起点とした経済の好循環を生み出します。
―再生可能エネルギーや蓄電池をさらに拡大させていくには、どのような方向があるのでしょうか。
山崎氏:今後伸ばしていくべき発電部門は、太陽光発電では屋根置きとソーラーシェアリングです。一方、事業用の野立て太陽光発電については極力ストップすべきではないかと考えています。
ソーラーシェアリングは、控え目に見積もっても、農地や耕作放棄地など導入余地はまだ豊富にあります。今までの反省を含め、正しい太陽光発電のあり方を模索していくべきです。
風力発電では、洋上風力発電をいかに環境との調和を図りながら伸ばしていくかが課題です。「エネルギー転換戦略」素案には陸上風力発電も含めていますが、いずれにせよ相当量の導入をしていかなければなりません。ポテンシャルは十分あると思いますが、社会的に受け入れられるかどうかがポイントです。この他に、地熱発電ももう少し伸ばしていくべきでしょう。
蓄電池の導入量や系統での活用方法は研究途上だと思います。そこで鍵を握るのはEVです。V2G(Vehicle to Grid)を効率よく導入できれば、蓄電池として活用可能です。EVの導入量が伸びれば、風力発電の導入量をさらに拡大することができる。系統の安定化は重要な課題ですから、十分な蓄電容量を確保する必要があります。
― 電力技術のデジタル化によって、再生可能エネルギーの導入量や効率的利用はさらに拡大すると考えますが、現在の政府が打ち出している支援は、再生可能エネルギーそのものが中心で、この分野へのサポートが足りていないと感じています。
山崎氏:デジタル化の主導権は、スマートメーターを握る一般送配電事業者にあります。電力小売自由化が完了したとはいえ、一般送配電事業者・旧一般電気事業者の支配力はまだまだ大きいものです。スイッチングの進捗が思うように進まないのも、この構図に原因があります。
データの透明性がより高くなり、発電側も含めて市場がデジタルですべてつながっていけば、大きく進捗すると思います。例えばドイツでは、アグリゲーターはすべてデジタル化した上で調整を行っています。そういったあり方を地域単位で実現していくことが重要です。現在、経産省ではアグリゲーターに関する制度設計を行っており、そこに配電網の運用も含めています。したがって、日本もいずれはドイツと同じ方向に進んでいくのではないでしょうか。
― 最後に、変動する再生可能エネルギーの拡大に関連して、容量市場に対する問題が指摘されています。この問題についてのお考えをお聞かせください。
山崎氏:「エネルギー転換戦略」素案においては再生可能エネルギーを拡大させていきますが、この戦略シナリオに沿って考えた場合、容量市場は不要です。
そもそも、今後、設備利用率が低下するガス火力をどう維持するかということが問題なのですが、再生可能エネルギーという変動電源が増えることに対応するのであれば、ピンポイントで調整力を持った維持する施策、例えばドイツで導入されている戦略的予備力の方が、目的に合っていることは明らかです。
デマンドレスポンス分野でも、日本は世界に遅れをとっています。容量市場へのデマンドレスポンスの応札に上限が定められ、十分増やせないような設計になっている点も、大いに見直しの余地があると思います。
我々はエネルギーの安定供給を前提としたシミュレーションも複数行っています。過去4年間の需給の実データをもとに、我々のエネルギーミックスの条件で試算しても、電気は十分に足りています。容量市場のような電力取引市場の意義と逆行する制度については、導入すべきではないと考えます。
(Interview:本橋恵一、Text:山下幸恵、Photo:岩田勇介)
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