エナシフTVの人気コンテンツとなっている、もとさん、なおさん、やこによる「脱炭素企業分析」シリーズ、特に好評だった企業事例を中心にEnergyShiftではテキストでお届する。第3回は日本最大の火力発電会社、JERAである。
シリーズ・脱炭素企業を分析する(3)
JERAという会社は世間一般にはあまり知られていないのではないだろうか。プロ野球ファンであればセリーグのヘルメットに名前が書いてあってセリーグを支援している会社だな、とは知っていても、実際に何をしている会社なのかまで知っている人は少ないだろう。
JERAは総資産が4兆円、年間売上も3.3兆円を誇る、日本最大の発電会社である。
会社設立は2015年4月でまだ6年目。2015年に東京電力と中部電力の2社が出資して火力発電部門を合併して設立した。JERA自体は未上場企業だが、親会社である東京電力、中部電力の将来を考える上で重要な会社なので、今回はJERAに注目していきたい。
JERA ウェブサイト「社名の由来」より
東京電力ホールディングスの株価を見ていくと、福島第一原発事故の影響により、2011年3月以降は大きく下がって低迷したまま。株価は事故前の10分の1になっているが、今年に入って微妙に上がっている。
理由として考えられるのは、株価に対する割安感があげられる。業績は事故前の水準に近づいているので、配当も期待できることから、価値ある株式が安いという見方も出来る。
しかも、インフラ企業なので政府としてもつぶすわけにはいかないことから、政府の支援が入っており、実質的に国営企業となっている。ほかにも明るい材料が東京電力にはあり、2023年には福島県避難指示命令が出ているところが全域解除になる予定だ。国からお金を借りており、その借金返済もあるというマイナス面もあるが、それは後述する。
中部電力の株価は15年前に比べると3分の1くらいに下がっている。とはいえここ10年間は上下動を繰り返しつつも安定している。特に注目すべきなのは原発事故後も株価を大きく下げていないところ。多くの電力会社は原発の稼働が止まり、火力発電などの稼働率が高まったことから、電気料金を上げざるを得なかったが、原発依存度の低い中部電力は、電気代をほとんど値上げせず、そのために市場自由化の影響を大してうけなかった。
しかも、東京電力には東京ガス、関西電力には大阪ガス、といったライバルが存在するが、中部電力にはライバルが存在しない。いちおう東邦ガスという会社はあるが、東京ガスや大阪ガスに比べると規模が小さく、ライバルとはいえない。さらに今年4月、カルテルが摘発されている。中部電力と東邦ガスで相談してガス代、電気代を調整しようという話があったようだ。もちろんカルテルは絶対にいけないことだが、これも中部電力と東邦ガスの力関係がなせることだろう。
なぜ、この2社がJERAを設立したのか。複数の理由があるが、一つは、東京電力は自社から火力発電事業を切り離したいという意向があったことが考えられる。
東京電力は先述のように実質国営企業なので、経営における自由がない。そこで、逆に自分たちの火力発電というものを、中部電力と一緒にしてしまい別会社にすることができれば、火力発電事業をJERAがハンドリングしてくれるので、発電事業の経営の自由を得ることができるというのが一つの理由ではないかということだ。
二つ目の理由として、再稼働できない原発の問題がある。東京電力ホールディングスは、新潟県にある柏崎刈羽原発の再稼働を進めているが、地元同意を得ることが難航することが予想されていた。福島で事故を起こした東京電力である限りは、地元は同意しない、とまで言われている。一方、中部電力は静岡県に浜岡原発を抱えているが、これも巨大地震が予想される場所であるため、再稼働が難しい。
自社の原発を稼働できない中部電力と、稼働したいが稼働させられない東京電力の間で、2社を合併し、新たなブランドで柏崎刈羽原発を再稼働させる一方、廃炉も共同して進める。その布石として、火力発電を先に統合した、という見方もできる。
三つ目の理由は、火力発電という事業の将来性だ。
言うまでもなく、脱炭素化が迫られる中で、火力発電を現在と同様に運転していくことは難しい。例えば、太陽光発電や風力発電などの変動する再エネが増加すれば、調整力を持ったLNG火力発電の稼働率は下がっていく。一方、石炭火力はCO2排出量が多く、真っ先に設備廃止の対象となる。こういった状況にある火力発電事業を、どのように脱炭素化の方向に持っていくのかが、問われてくるということだ。
当面の安定した発電収入を原資に、どのような新規事業を行うのか、あるいはどのように事業をたたんでいくのか、こうしたことを効率的に進めるためにも、経営統合は必要な選択だったといえそうだ。
ここであらためて、JERAの概要について述べておきたい。
国内発電容量は7,000万kWでこれは日本最大となる。海外の持分は900万kWでJパワーの653万kWを大きく上回るが、注目されるのは、この中には海外での再エネ110万kW分も含まれている。LNGの取り扱いは3,600万tで、これは日本のLNG輸入量の約半分を占めている。
こうしたJERAであるが、2030年にはCO2を20%削減、2050年にはCO2ゼロを目指す。日本最大の火力発電ということは日本最大のCO2排出をしている会社の一つでもある。そのJERAがCO2ゼロにするというのは強烈なインパクトがある。
JERAの脱炭素の柱の一つは、間違いなく再生可能エネルギー。その主力は洋上風力だ。海外では台湾のフォルモサや英国のガンフリートサンズなどにも参加している。一方、日本国内では秋田県沖の洋上風力の計画に参画しており、こちらもこれからの展開が期待される。
火力発電については、アンモニアや水素による脱炭素化を目指す。
アンモニアについては、石炭火力で利用し、今年度内にも碧南火力での混焼を開始する。将来はアンモニア専焼にしていく方針だ。一方、水素についてはLNGの代替燃料として計画している。
JERAプレスリリース「大型の商用石炭火力発電機におけるアンモニア混焼に関する実証事業の採択について」より
アンモニアも水素もカーボンニュートラルなグリーンなもの(再エネの電気分解由来)かブルーなもの(化石燃料由来でCCUSを利用)にしていく。洋上風力、アンモニア、水素の三本の柱でカーボンゼロを進めていくというのがJERAの方針。
補足すると、洋上風力はJERAに限らず関西電力、東北電力などはもちろん、東京電力リニューアブルエナジーも参入している。旧一般電気事業者にとって、ポスト火力発電の主力事業として位置づけられつつある。
JERA ウェブサイト「ゼロエミッション」より
JERAはまだ未上場だが、これだけの規模の会社が上場しないのは不思議だし、いつ上場してもおかしくないところ。JERA自身も今後再エネを増やす段階で資金調達が必要となるため、上場という選択肢は十分に可能性がある。さらにJERAが上場すれば、東京電力グループは株式の売却を通じて、借金の返済などをおこなうことが出来るだろう。これは悪い話ではないはず。
(Text:MASA)
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