脱炭素といえば、一般的に再生可能エネルギーの拡大が思い浮ぶだろう。しかし、より低コストな脱炭素促進において、省エネルギーのポテンシャルは高い。実際に、欧州のグリーンリカバリーで最初に取り組みが示されたのも、建物のエネルギー効率改善だった。20年以上にわたって省エネルギービジネスに取り組んできた、株式会社ヴェリア・ラボラトリーズの筒見憲三代表取締役社長にインタビューした。
― 最初に御社の事業の概要について教えてください。
筒見憲三氏:「脱炭素社会の構築に貢献する」ことを企業理念として、事業を展開しています。創業は2007年9月、今期で14期目となります。2014年6月にネクストエナジー・アンド・リソース(ネクストエナジー)株式会社の傘下となりました。
事業の柱は3つあります。
1つは、エネルギーマネジメントシステム(EMS)です。創業から継続している事業で、お客様の事業所にEMSを導入し、エネルギーの使用状況を把握、分析、制御、改善していくというものです。
2つめは、お客様が設備導入するにあたって、政府や自治体などの各種補助金の利用を支援していくことです。
そして3つめですが、ネクストエナジーのグループ企業として、お客様に太陽光発電や蓄電池の導入も行います。ネクストエナジーは太陽光発電関連機器のメーカーでもあるので、価格競争力もあり、シナジー効果を発揮しているところです。
ヴェリア・ラボラトリーズの提供するエネルギーマネジメントシステム「EIA」
― 逆にネクストエナジーのお客様にサービスを提供することもあるのでしょうか。
筒見氏:そう多くはありませんが、太陽光発電に取り組むお客様は環境問題に敏感なので、紹介していただくこともあります。
― 脱炭素社会に向けて、日本では再生可能エネルギーに対する関心は高いのですが、省エネルギーに対する関心が低下しているのではないかと危惧しています。再エネ100%を目指すRE100にコミットした日本企業は50社を超えましたが、エネルギー効率を2倍にする(50%の省エネをする)EP100にコミットした日本企業は3社しかないとおうかがいしています。
筒見氏:おっしゃる通りで、EP100にはグローバルでは100社以上が参加しているのに、日本企業は少ないです。
日本では省エネに対しては「絞り切った雑巾」だという意識が強いのかもしれません。もちろん1970年代の石油ショックの時期は素晴らしい効率化を達成しました。しかし、当時からすでに40年以上経過しており、絞り方を考え直す必要があります。
今後、絞るべきものはエネルギーと同時に炭素(CO2)です。また、絞るためのツールは、単純な布製の雑巾ではなく化学繊維などの先進的な雑巾です。つまり、省エネの土俵が変わっているといっていいでしょう。
― 土俵はどのように変化したのでしょうか。
筒見氏:日本では今でも脱炭素のための投資と経済成長はトレードオフの関係にあるとの既成概念から抜け出せておりません。しかし他の先進国は、すでにCO2排出を削減しながら経済成長をしていくという発想に完全に切り替えています。これは炭素税や排出量取引制度などのカーボンプライシング導入に関する是非の議論においても同様です。
一方、東京都は国に先行して排出量取引制度を導入していますが、実際の取引はほとんどされていません。どの事業所も省エネを少しがんばったことでCO2削減目標を達成できているからです。
― それにしても、どうしてEP100の参加企業は少ないのでしょうか。
筒見氏:EP100がRE100よりも知名度が低いのは残念です。おそらくその理由は、RE100と異なり、需要側の問題だからなのでしょう。RE100は供給側の問題なので、わかりやすく、アピールもしやすいのだと思います。一方、需要側は自ら調整していくものですし、外部からは見えにくい、バックヤードの取り組みです。
その点では、エネルギー効率化が経営者自身の問題になっていく必要があるでしょう。エネルギーマネジメントをボイラ室から役員室に格上げするべきです。
― 炭素税や排出権のオークションによる収入を脱炭素のために投資することで経済成長につなげることができるという考えもあります。
筒見氏:しかし、わが国の経済界などはずっとカーボンプライシングに反対してきました。その一方で、自分たちのエネルギー消費やCO2排出量をきちんと計測せず、省エネのマネジメントができていないという現状に甘んじていると思います。
しかし、そのような気候変動に消極的な考え方ではグローバルビジネスの世界で勝ち残ることができないと危惧しております。単にものづくりが得意だというだけでは、環境先進国とは言えないと思います。
― とはいえ、2020年10月の菅首相によるカーボンニュートラル宣言は、日本の脱炭素への流れを大きく変えたのではないでしょうか。
筒見氏:首相の言葉で産業界が180°変化しました。鉄鋼業界などは、カーボンニュートラルまでの期限が2100年から50年も縮まったというのは、ポリシーのない日本らしいという気がしないでもありません。
とはいえ、残念ながら日本はすでに省エネ先進国ではなくなっているし、基本的危機感というものが共有されるようになればいいと思います。
(明日公開の後編に続く)
(interview:本橋恵一、Text:生田目美恵)
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