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「グリーンエネルギーバレー」数字で見るドイツのグリーンスタートアップシーン

「グリーンエネルギーバレー」数字で見るドイツのグリーンスタートアップシーン

2020年06月09日

スタートアップ企業には、直面する地球環境問題への対応を視野にいれた企業も少なくない。とりわけドイツでは低炭素社会を見据えたスタートアップが数多く創業しており、「グリーンエネルギーバレー」とよばれるようになってきた。その実態をClean Energy Wireでは、ソーレン・アメラング(Sören Amelang)記者が報告している。環境エネルギー政策研究所(ISEP)研究員の古屋将太氏の翻訳でお届けする。

「グリーンエネルギーバレー」-ドイツの低炭素スタートアップシーン

低炭素な未来に向けた移行において、政策は決定的な役割を担うものの、最終的にエネルギー転換を実現させるのはビジネスです。エネルギー転換の母国であるドイツでは、多くのスタートアップたちが斬新なビジネスアイディアを市場に持ち込み、再生可能エネルギーや熱供給、モビリティといった分野で既存の勢力から市場シェアを奪い取り、変化の機会を活かしています。グリーンスタートアップシーンの活性化は、ドイツの「グリーンエネルギーバレー」と呼ばれるようになりました。このファクトシートでは、その概要を数字で見ていきます。

ドイツのグリーンスタートアップの件数は?

ドイツのグリーンスタートアップを定量的に把握しようとする試みは、スタートアップの一般的な定義とグリーンスタートアップの固有性の定義が異なるため、なかなか進みませんでした。例えば「スタートアップ」と設立からの年数がそれほど経っていない「従来の企業」の違いは何なのでしょうか? このような不確かさがあるため、ドイツのスタートアップやグリーンスタートアップの件数の推計には調査によって大幅な差があります。

ボーダーステップ研究所ドイツ・スタートアップ協会は、「グリーンスタートアップモニター2018」と呼ばれる年次調査でグリーンスタートアップを次のように定義しています。

「グリーンスタートアップとは、設立から10年以内で、革新性をもち、拡大する計画をもっており、グリーン経済の環境目標に貢献する企業」。

レポートの著者たちは、現在、この定義に当てはまるグリーンスタートアップがドイツに約6,000件存在すると推計しています。言うまでもなく、それらのすべてが直接的にエネルギー転換にかかわっているわけではなく、リサイクルや保護プロジェクトに注力している例もあります。また、このレポートでは、ドイツ国内のスタートアップ総数は23,700件であるとしています。

対照的に、オルデンブルク大学とボーダーステップは「グリーン経済スタートアップモニター2017」で異なる定義を使用しています。具体的には、ドイツ連邦統計局のサイトDestatisの定義に従い、「きわめて経済的に意義のある(significant economic relevance)」若い企業を対象としているということです。

このレポートによれば、2015~2016年の間に36,400件の新たなグリーン経済ビジネスが立ち上がり、スタートアップ総数は250,000件でした。平均すると、2006~2014年の間に1年あたり21,000件以上のグリーン経済ビジネスが生まれています。

ビジネス開発に資金提供をおこなう国営金融機関ドイツ復興金融公庫(KfW)は、「KfWスタートアップレポート2018」でさらに異なる定義を使っており、2017年のスタートアップ総数は60,000件としています。そのうち12,500件が「革新的かつ成長志向である」としています。

ドイツのスタートアップの1/4はグリーンに分類できる

(さまざまな定義に基づくレポートがある中で)「グリーンスタートアップモニター」に掲載されているデータとグラフは、ドイツのグリーンスタートアップシーンの最新状況をもっとも詳細に描き出しています。

レポートは、約300件のグリーンスタートアップと約900件のグリーンではないスタートアップ(non-green start-ups)を対象におこなった調査にもとづいています。全スタートアップの4分の1は、「製品やサービスがグリーン経済の環境目標に貢献する」ため、「グリーン」に分類されています。

調査に参加したグリーンスタートアップは、平均して設立から2.5年でした。約半数が自らを「スタートアップ段階」であると述べています。これは、市場に受け入れられる製品やサービスの開発をおこない、最初の売上、もしくはユーザーの獲得ができている状況にあるというものです。
また、約4分の1は、売上やユーザーがいない「シード段階」にあり、残り4分の1は売上やユーザーが大幅に増加している「成長段階」にあると答えています。調査によれば、100件のグリーンスタートアップのうち、開発後期に入っているのは3件のみとなっています。下記のグラフは、その他の主な調査結果をまとめたものです。

出典:Borderstep / 翻訳:ISEP

グリーンスタートアップは何に注力しているのか?

グリーンスタートアップの5件に1件(19%)はIT分野で活動していると答え、9%が食分野、8%がエネルギー分野、7%が消費財、5%がテキスタイル、4%が輸送・建設に自らを位置づけています。

グリーンではないスタートアップの3%がエネルギー分野に取り組む一方、グリーンスタートアップの8%が同分野に取り組んでいることから、レポートは「エネルギーは特にグリーンスタートアップにとって重要な分野となっている」と述べています。
6つの分野において、グリーンスタートアップはグリーンではないスタートアップの数を上回っています(下図参照)。「エネルギーおよび電力分野では、10件のスタートアップのうち8件をグリーンに分類することができます。原材料分野では10件のうち7件、モビリティ分野では10件のうち6件が同じように分類できます」とレポートは解説し、これは「テクノロジーと産業の領域でのグリーンスタートアップの重要性を示している」と付記しています。

出典:Borderstep / 翻訳:ISEP

グリーンスタートアップは雇用を増やし、国外に展開したいと考えている

グリーンスタートアップの半数以上(56%)がデジタルなビジネスモデルをもっていると答えており、その一方で3件に1件は「アナログな」ビジネスモデルであると明確に述べています。グリーンではないスタートアップだけで見ると、デジタルなビジネスモデルをもっているのは20%です。もうひとつの顕著な違いがある関心事項は、国際展開です。グリーンではないスタートアップの半数がこの点を重要だと考えている一方、グリーンスタートアップでは3分の2以上となっています。

グリーンスタートアップの90%以上が、今後12ヶ月で新しい従業員を雇用する計画をもっています。調査によると「グリーンスタートアップ4件に3件(74%)が1~9人を雇っていると述べています。5件に1件(22%)は、従業員数10~49人となっています。グリーンスタートアップの4%は従業員数50人以上でした」とのことでした。 また、「グリーンスタートアップの4件に3件は創業チームではない従業員が入っています。平均すると、これらのグリーンスタートアップはそれぞれ13人の雇用をつくりだしている」といいます。

女性が創業するグリーンスタートアップは5件に1件以下です。「女性創業者たちは、明らかにドイツのグリーンスタートアップシーンで少数派となっています」とレポートは述べています。

グリーンスタートアップの約半数は、他のスタートアップたちとの交流が役に立っていると述べており、およそ3分の2は既存の企業との協業が役に立っていると述べています。

資金はどこから得ているのか?

シリコンバレーと比べたらまだ規模は小さいものの、いくつかのドイツのグリーンスタートアップはこの数年の間に劇的な資金調達を実現させています。下記のリストは、2017~2018年のドイツにおける「グリーンディール(Green Deals)」のトップ10を示しています。定期的にアップデートされるリストはここから見ることができます。

出典:Borderstep / 翻訳:ISEP

しかし、このような規模の契約は依然として例外に留まっています。
下記のグラフは、グリーンスタートアップの多くが小規模な資本に依存している状況を示しています。彼らのもっとも重要な資金調達源は、貯蓄(84%)、家族・友人(40%)、州の補助金(35%)であり、これに続くかたちでエンジェル投資家(20%)、銀行融資(18%)となっています。

出典:Borderstep / 翻訳:ISEP

(記事:ソーレン・アメラング(Sören Amelang)Clean Energy Wire記者)

元記事

古屋将太
古屋将太

認定NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)研究員。デンマーク・オールボー大学大学院博士課程開発・計画プログラム修了、PhD(Community Energy Planning)。地域参加型自然エネルギーにおける政策形成・事業開発・合意形成支援に取り組む。著書に『コミュニティ発電所』(ポプラ新書)。共著に『コミュニティパワー エネルギーで地域を豊かにする』(学芸出版社)。

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