東京電力パワーグリッド 岡本浩副社長に聞く(後編)デジタル化とデータビジネスで進める、送配電会社の新規事業 | EnergyShift

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東京電力パワーグリッド 岡本浩副社長に聞く(後編)デジタル化とデータビジネスで進める、送配電会社の新規事業

東京電力パワーグリッド 岡本浩副社長に聞く(後編)デジタル化とデータビジネスで進める、送配電会社の新規事業

EnergyShift編集部
2020年09月08日

送配電線に多くの変動する再生可能エネルギー(VRE)が接続されたとき、効率化していくためにはデジタル化は欠かせなくなってくる。同時に、デジタル化と送配電事業の持つビッグデータは、あらたなサービスを提供するためのインフラとなる可能性を持つ。東京電力パワーグリッドの岡本浩副社長には前回に引き続き、送配電事業の新たな役割について語っていただいた。

前編はこちら

効率的な分散型エネルギー資源の利用、脱炭素化にはデジタル化は不可欠

―脱炭素化のために再生可能エネルギーが導入され、エネルギー資源が分散化していく。そこで、これらをうまく集積していくのが、デジタル化ということですね。

岡本氏:デジタル化は、分散する価値の集積と融合を行います。とはいえ、運輸におけるUberや、民泊を仲介するAirbnbに比べて、Utility 3.0ではマッチングする対象の規模(発電所や需要の規模)が何桁も違う上、流通経路を考慮したリアルタイムのマッチングを行わなければならないので、実現するのはこれからです。

―同時に、人口減少はネットワーク維持にあたって課題になってくると思います。

岡本氏:人口が減ったからといって、配電ネットワークをただ間引くわけにはいきません。何百軒もある地域が数軒にまで減ったとしても、送配電のコストはあまり変わりませんが、収益は減ってしまいます。同時に働き手も減ります。
こうした状況に対応するため、分散型エネルギーも活用しながら、地域におけるインフラをコンパクト化、あるいはミニマム化しながらネットワークを維持していかないと、事業に持続可能性はありません。

―2020年4月1日から、発送電分離が実施されました。東京電力パワーグリッドの場合は、2016年からすでに分社化されているわけですが、あらためて、送配電会社の役割について、おうかがいしたいと思います。

岡本氏:では前提となる、将来の電源構成のお話しからします。

産業構造を変えずに、2050年に温室効果ガスを80%削減するとします。電気自動車の普及や熱需要のヒートポンプによる電化など、今は電気を使っていないセクターで電気を使うようにするセクターカップリングによって、我が国の一次エネルギー消費のうち、化石燃料が占める割合を30%まで下げないと達成が難しいのです。運輸部門や熱部門など含めた全体の70%を非化石エネルギーでまかなわなければなりません。数億kWの太陽光発電、数億kWの洋上を含む風力発電導入が必要とされるでしょう。

このように再生可能エネルギーが増えてくると、発電と需要の時間的なミスマッチが大きくなってきます。1日の中だけではなく、1週間の休日と平日、年間の季節変動などです。

対応としては、今ある揚水発電所だけでは足りません。その点では、電気自動車が普及することで、利用可能な2割から3割の台数だけでも、かなり変動を吸収してくれるでしょう。それでも電力が不足する夏など、風が弱い需要期などには火力発電所が供給しますが、年間を通じてみれば半分以上の時間帯で火力発電が発電しなくなるようになります。

とはいえ、デバイスの数が膨大となり、それをEnd to Endでつなぐとなると、ネットワークの管理が変わってきます。エッジ側のインテリジェンスによる自発的な制御が必要になりますし、グリッド側では送電線の空き情報の提供など適切な支援が必要になります。

エッジ側にインテリジェンスを持たせることは、利益になると同時にリスクにもなりますから、そこでデジタル化が必要になってきます。

先ほど、電化の話をしましたが、電気で動くものの多くは、ヒートポンプのコンプレッサーも含め、モーターが中心です。モーターは、インバーターを使って精度よく制御できますし、インテリジェンスを組み込みやすいものです。そこで、ネットワークのサイバーシステムとフィジカルシステムの両方を動かしていく。

オーストラリアのソフトウェア企業GreenSync社とエネルギー市場運営会社のAEMO社とは、電力市場と分散リソースを接続するプラットフォーム(DeX)を活用し、蓄電などをソフトウェアで自動的に市場と連動させるといった先進的な取り組みの実証を実施しています。

これから社会はSociety 5.0に向かっていく中で、コネクテッド、すなわち情報でつながっていく、そうした姿になっていくでしょうし、電気事業も例外ではないということです。
Society 5.0の中にUtility 3.0が組み込まれていく、そのようなイメージでしょうか。

―電気自動車の役割はネットワークにおいても大きなものとなりそうですね。

岡本氏:電気自動車は移動する蓄電池だと考えられます。同時に、電気自動車が移動することで、グリッドの代わりに送電し、需要地で放電することもできます。
道路とグリッドの情報を使って自動運転をさせていくことは、将来のエネルギー問題の解決策の1つにもなるかもしれません。
このとき、通信ネットワークと電力ネットワークは一体化するでしょう。また、5Gの基地局を電柱に置くということも考えられます。

東京電力パワーグリッドウェブサイトより

スマートメーターのデータ活用が持つ可能性

―送配電会社の役割は、電気だけではなく、運輸や通信の分野とも一体化したものとなっていくということですね。一方、送配電会社は送電線の潮流だけではなく、スマートメーターのデータなど、さまざまな情報を持っています。このデータの有効利用も、新たな役割となってくるのではないでしょうか。

岡本氏:スマートメーターのデータ活用については、中部電力、関西電力、NTTデータとともに出資したグリッドデータバンク・ラボ有限責任事業組合でさまざまな検討を進めています。

スマートメーターと異業種のデータを組み合わせることで、さまざまなサービスが可能になると思います。例えば、気象データ、地図、POSデータなどです。

使い方としては、災害時のデータ活用があります。地域の人口というのは、日中と夜間では異なりますし、住民票と一致していないこともあります。どのくらいの人がいるのかは、スマートメーターのデータから推定できます。このデータをもとに、日中と夜間、それぞれの防災計画を立てる、といったことができるようになります。同じように、エリアの在宅率から、宅配便の配送ルートを効率化することもできます。

もちろん、個人情報への配慮は不可欠ですし、人口といっても個々の世帯ではなく、統計加工・匿名加工した上でのエリアとしてのデータになっていくでしょう。とはいえ、個人データの取り扱いは、欧米でも議論になっているところです。

それから、グリッドスカイウェイというアイデアもあります。これは、送電線の設備点検にドローンを使うにあたって、設備に衝突しないようにコントロールしなければいけないのですが、逆にドローンが送電線を認識して安全に飛ばせるようになれば、送電線のルートをつかってドローンを自動操縦して荷物を運ぶことが可能になります。

グリッドデータバンク・ラボの概要

―災害時のデータ活用の話が出ました。日本は地震が多く、気候危機もあって気象災害も増えています。データ活用だけではなく、レジリエンスへの対応も、より重要なものになってきているのではないでしょうか。

岡本氏:まさに、そうした問題意識から、私どもは、2020年8月、関西電力送配電とともに、スマートレジリエンスネットワークを発足させました。

これは、既存インフラと分散型リソース、さらに住民情報や気象情報などを、IoTなどの活用で相互に接続し、統合していく役割を担っています。というのも、どこにどのような分散型リソースがあるのかがわからなければ、せっかくの蓄電池や太陽光発電などを復旧などのために有効に使うことができません。既存のネットワークの情報だけではなく、企業間連携を進めていくということです。

これによってレジリエンスを向上させると同時に、脱炭素化社会の実現も目指します。
この事業を通じて好事例をつくることができれば、分散型エネルギー資源の拡大にもつながっていくでしょう。

スマートレジリエンスネットワークの概要

海外事業展開と日本へのフィードバックも

―送配電会社の役割は、事業が分離されたということだけではなく、社会における役割がより大きなものとなっているように感じました。

岡本氏:5つのDをきっかけにして、社会でエネルギーシフトが起きるとき、ネットワークの役割は電気を送るということではなくて、発電側とお客さまをどのようにとりつなぐか、ということになってきます。また、レジリエンスはより重要な課題となっていますし、いずれ我が国の一次エネルギー消費の7割は非化石エネルギーの発電になっていく。
例えば、電気自動車を使うことで、電力需要が発生する時間をコントロールするようなことも行うとしましょう。そこでは、データドリブンでデジタルな仕掛けをとりいれることが必要です。

―東京電力パワーグリッドは他社に先駆けて、2016年4月に東京電力から分社化されました。早く分社化したことで、他社よりも進んだ取り組みができていると思います。

岡本氏:先行して分社化して良かった点がある一方で、2020年4月になってあらためて苦労している点もある、というのが正直なところです。

とはいえ、役割や収益について先行して考えてきたということはあります。送配電事業というのは、多くの事業者の事業を支える基盤です。そのために、やるべきことはいろいろある、ということを感じています。そこには、エネルギーのデジタル化における基盤ということもあります。また、それがないと、何をしたらいいかわからなくなってしまうでしょう。我々の取り組みを通じて、電力システム、あるいは社会全体がより良いものになっていけばいいと考えています。

―送配電会社として成長していくにあたって、新たなサービスを提供する新規事業の他に、海外展開という方向もあると思います。

岡本氏:中部電力、およびICMG Partners Pte Ltdとともに、シンガポールを拠点とするGreenway Grid Globalという合弁会社を設立し、展開しています。すでに、フィリピンでマイクログリッド事業を進めています。東南アジア地域は経済成長しますが、一方で無電化村も少なくありません。

この会社はプロジェクトへの投資、インキュベーション、人材育成の3つの役割があります。人材については、電気事業全体を担うことができる人を現地で育てていきます。 また、インキュベーションではモビリティの電化などさまざまなテーマがありますが、ここで開発した分散型がベースの技術は、日本国内でも使えるものもあるので、その点も狙っています。

前編はこちら

(Interview & Text:本橋恵一・山田亜紀子)

プロフィール


岡本浩(おかもとひろし)

東京電力パワーグリッド株式会社 取締役副社長
1965年東京都出身。東京大学大学院工学系研究科修了後、東京電力株式会社入社。
本店技術部技術調査グループ兼企画部、本店パワーグリッド・カンパニー 系統エンジニアリングセンター所長兼技術統括部兼企画部、技術統括部長兼経営企画本部系統広域連系推進室長、常務執行役を経て、2016年東京電力ホールディングス株式会社 常務執行役。2017年より現職。

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