再エネをはじめとする分散型エネルギーリソースが拡大する中、需要家サイドの対応がエネルギービジネスにとって重要なものとなってくる。そこには、エネルギーテック企業の活躍が期待されている市場がある。
日本において、「容量市場」「需給調整市場」の前段階ともいえる「調整力公募」をリードしてきた、エナジープールジャパン代表取締役の市村健氏が、DR(Demand Response)の今後と市場について解説する。
調整力公募から新市場へ
経産省は2020年までに発送配電分離と「容量市場」「需給調整市場」の整備など、令和に相応しい電力ビジネスの実施を目指している。これからの電気事業は、発電所で電気を作り、それを誠実に送り届けるといった基礎応動だけでは立ち行かない。
Utility 3.0とも称される電力ビジネスの未来において、新たな調整力・予備力と期待されるデマンドレスポンス(以下「DR」)。その容量市場と需給調整市場における位置づけと、その将来性・方向性を述べたい。
DRの「活躍」の場は、現在は一般送配電事業者が実施している調整力公募の、電源Ⅰダッシュのみである。2016年の改正電気事業法を受け、2017年にDR市場がスタートして以来3年。レジリエンス対応(災害・緊急対応力)が求められる中で、予備力として一般送配電事業者の貴重な戦力に進化している。
その電源Ⅰダッシュは、新たに2020年度にオークションが開始され、2024年スタートの容量市場に組み込まれる。
「容量市場」はデマンドレスポンス事業の主戦場
容量市場の目的は「電源投資の予見性低下を回避すること」だ。その容量市場は、電源特性に応じて、安定電源・変動電源・発動指令電源に大別される。
その中において、DRは発動指令電源として、年間12回、応動3時間、継続時間3時間と定められている。詳細要件は現在、電力広域的運営推進機関にて論議中であり、2020年度春までには細部が固まり、夏にはオークションという流れになる。
kW価値に報酬が支払われる、という点で容量市場はDR事業者にとって主戦場であり、ここに参画することなくDR事業の更なる発展はありえない。
需給調整市場に重要なΔ(デルタ)kW価値とは
もう一つの重要な市場が需給調整市場だ。年間8,760時間の時間帯毎に必要な電源等を、出力調整可能な状態で確保する権利と義務を取り扱う市場である。
ここではΔ(デルタ)kW価値という概念が重要だ。調整力を、応動する時間毎に早い順から並べるとこうなる。
このように段階的な適用がなされ、継続時間も異なってくる。
専門家でも混同しやすいのは、電源Ⅰダッシュと需給調整市場の三次調整力②の違いである。前述の電源Ⅰダッシュが三次調整力②に溶け込む、と言った誤認も散見されるが、前者はkW価値を扱うのに対し後者はΔkW価値であり、事業者に求められる義務(リクワイヤメント)も大きく異なるので注意が必要だ。
ΔkW価値とデジタル化の関係
ΔkW価値とは、ゲートクローズ後に生じる需要と供給の誤差を調整する能力(=価値)である。需給調整市場においては、一般送配電事業者が需給バランスをとるために受給双方に調整指令ができる(=運用できる)能力のことである。
例えば、三次調整力①を落札し、応動時間15分以内に、3時間に亘り1,000kWの下げDR指令(上げの調整力)を担う場合は、この3時間においては常に1,000kWのマイナスを継続しなければならない。3時間×1,000kW=3,000kWhの「面積」が一致していれば良いのではなく、3時間×1,000kWの「長方形」が綺麗に整っていることが「追従」していることになる。
この追従性を正確かつ素早く履行できるように必要なものが「デジタル化」である。三次調整力以上に早い応動性を求められる一次調整力の場合は特に重要となる。
一次調整力の応動時間は10秒以内であることから、正にガバナフリー(GF・調速機運転)相当の調整力である。こうした機能を電源ではなく需要サイドのリソースで実現するためには、IoT (Internet of Things)やAIを駆使し、産業用大口需要家の需要予測と出力制御を10秒単位で実施すると共に、周波数制御をも実現する高い技術が求められよう。
欧州では既に実用化されている10秒単位の出力制御
こうした技術は、既に市場が運用されている欧州では十二分に実用化されており、フランスでは一次調整力として周波数制御を担うDR事業者も電力系統安定化に貢献している。
このように容量市場と需給調整市場は、従来の供給サイドから需要サイドへとウイングを拡げることを可能にするが、今後は両市場への参画だけに留まらない。
現在、経産省内ではインバランス料金の見直しが議論されているが、安定供給並びに供給義務マインドが浸透すればするほど、インバランス料金は上昇するはずだ。その際、一般送配電事業者だけではなく小売事業者も、インバランス・ペナルティ回避のために、電源ではなくDRを積極活用する方策も視野に入る。
一方で、既に実用の域に差し掛かっているのが、電源差し替えともいえる経済(小売)DRである。小売事業者が調達コストの高い電源よりもDR活用によりコスト削減する手法で、東京電力エナジーパートナーでは弊社(エナジープールジャパン)と組んで実運用中だ。
DRは発電機それ自体にはならないが、デジタル化でkW価値とΔkW価値を創出し、結果として自動制御可能な調整力を供出することを実現する。DRニーズが拡がれば、DR事業者が大口需要家や再エネを幾つか束ねてクラスター化し、バランシンググループ(BG)の主体となることも可能となる。
クラスター毎の需給調整を図りながら、そこで生まれるkWh価値・kW価値・ΔkW価値を、需給調整市場・容量市場、あるいはJEPX(日本卸電力取引所)の取引や相対取引までを含めて管理運営する。
ポジワットを扱うパワーマーケターと、ネガワットを扱うアグリゲーターの融合形こそが未来のDRの姿と言える(図参照)。そして、Utility 3.0時代の一事業形態だと考えている。