前回までは、エネルギーの脱炭素化に対するデジタル化の重要性や、電気自動車(EV)が持つ高いポテンシャルについて、アークエルテクノロジーズ代表取締役CEOの宮脇良二氏に、話をおうかがいしてきた。後編では、今後の展開、そして日本が脱炭素していくために必要な政策について、おうかがいした。
― アークエルテクノロジーズの今後の展開についてお聞かせください。
宮脇良二氏:米国に渡って気づいたことですが、クリーンテックビジネスには時間がかかります。1年単位、数年単位でのデータを貯めながら、その周辺のエンジンの開発に取り組んでいきたいと考えています。また、エネルギー単体ではなく、エネルギーと自動車や工場、家などという領域でも計画がありますので、それぞれの領域で活躍している事業者とコラボしながらソリューション開発を進めていく考えです。
電力会社として成長するというよりは、ソフトウェアを中心にプラットフォームを作り上げていきたいと考えています。なぜなら、先ほど申し上げたように、日本の電力小売市場はまだリスクが高い状態です。いわば“ばくち”の市場であり、当社の規模で闘えるものではないという基本的な認識を持っています。
市場が成熟し、運ではなく経営によって闘っていけるようになれば本格的な参入の可能性もありますが、それはもう少し先のことではないでしょうか。当社はテック企業ですから、テック企業なりの貢献の仕方をしたいと思っています。
英国市場を例に挙げると、トップクラスの新電力はいずれもテック企業出身です。Octopus EnergyやOVO Energy、Bulb Energyにしても、テックがベースにありデジタル化を進めています。日本ではテックベースの電力会社はまだ無いと感じています。
ただし、情報を取り扱うテックカンパニーが電力市場に参入するには、マーケットと制度設計の成熟度も深く関係します。その情報の取扱いが認められなければ、参入は難しいでしょう。
今回の容量市場の約定価格やJEPX高騰の問題も、前向きにとらえると市場が成熟していく過程での事象だとも考えられます。その指摘を踏まえながら市場設計を進めていけば、日本のエネルギー市場も成熟したものになるのではないかと思います。
アークエルテクノロジーズ株式会社 代表取締役CEO 宮脇良二氏
― 政策に求めることは何でしょうか?
宮脇氏:やはり市場の適切な情報公開は求めたいと思います。この市場にまだスタートアップが少ないのは、まだ情報公開が進んでいないからでしょう。
エネルギーの世界にイノベーションを起こすのであれば、スタートアップがもっと誕生しなければなりません。大手企業との間のオープンイノベーションも、スタートアップがいなければ生まれえないからです。
現在、エネルギー業界にスタートアップが少ないのは、電力自由化の成熟度と深い関係があると思います。その意味でも、成熟した市場に育てるような政策が必要だと思います。
脱炭素を進めるには、デジタル化は大前提です。細かい再エネや分散型電源をどう制御して柔軟性に貢献していくかが肝になると考えています。単純に火力を水素やアンモニアにするだけではカーボンニュートラルの実現は難しいでしょう。
再エネ比率が増えてきたときに、デジタル化された環境の方が間違いなく柔軟性を実現できます。
今後はフレキシビリティや柔軟性といったキーワードがもっと全面に出てくるといいと思います。当社は、そのために自動車や家庭、建物のエネルギー効率をデジタルで改善し、再エネがもっと導入できる余地を拡大することに貢献していきます。
(interview:本橋恵一、Text:山下幸恵、Photo:清水裕美子)
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