菅総理は再生可能エネルギーを最大限導入するという方針を打ち出したが、いったい日本は再エネをどれだけ導入できるのだろうか。2020年12月14日に開催された、第34回総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会では、次期エネルギー基本計画の議論に関連し、4つの研究機関が2050年における再エネ導入量を提示した。その模様をレポートする。
2050年における再エネ導入比率は27%?それとも100%?
2050年カーボンニュートラルの実現において、再エネの最大限導入は大前提である。しかし、最大限の導入には、①調整力の確保、②送電容量の確保、③慣性力の確保、④自然条件や社会制約への対応、⑤コストの受容性という5つの課題を乗り越える必要がある。
こうした5つの課題に対する具体的な方策案、また課題解決によって、2050年、また2030年までに、どれだけの再エネを導入できるのかが、次期エネルギー基本計画の議論の焦点となっている。
その次期エネルギー基本計画を議論している第34回総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(2020年12月14日開催)では、4つの研究機関が、5つの論点からそれぞれのシナリオ分析に基づいた、再エネ導入量を提示した。
参加した研究機関は、以下の4団体だ。
- 国立環境研究所
- 自然エネルギー財団
- 日本エネルギー経済研究所
- 電力中央研究所
4団体による再エネ導入比率は、自然エネルギー財団の100%から、日本エネルギー経済研究所による27%(低位ケース)まで大きな開きがあり、委員たちからも戸惑いの声があがった。まずは4団体の再エネ導入試算を見ていく。
自然エネルギー財団、電力は100%自然エネルギーで供給可能
自然エネルギー財団は、「2050年のカーボンニュートラルは、石炭、原子力に頼ることなく、自然エネルギー100%で実現できる」というシナリオを提示した。
シナリオ設定の基本は、2030年で石炭・原子力発電をストップし、1.5℃シナリオを追求。できる限りすべてのエネルギーを国産化し、カーボンプライシングも導入するといったものだ。
最終エネルギー消費の推移
自然エネルギー財団「2050年カーボンニュートラルへの提案 自然エネルギー100%の将来像」総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会資料 2020.12.142050年のエネルギーミックスの絵姿は、エネルギー需要は人口減少と省エネによって20~30%減を想定したうえで、電力は100%自然エネルギーで供給できるとした。必要となる自然エネルギー電力は、現在の総発電量の約2倍増となる2,074TWhに達するが、その半分は水素製造用途に使われ、輸入水素を50%導入した場合は1.5倍増で済むという。
電源別では、太陽光発電および風力発電の発電コストが低下し、2050年にかけて2~4円/kWhにまで低減すると見通し、特に太陽光発電は最もコストの低い電源として急速に導入が進むというシナリオ結果を提示した。土地制約に関しても、耕作放棄地や荒廃農地などを中心に2030年までに地上設置型太陽光の利用可能な土地は112GWにのぼると試算し、2050年には導入量が524GWに達するという。
一方、原子力は最もコストの高い電源とし、再稼働に必要なコスト上昇を踏まえ、すでにJEPXの取引価格(2019年度平均約8円/kWh)を上回っていると指摘した。
系統制約に関しては、日本でも国際送電網に取り組むべきだとした。さらに既存技術を活用すれば、自然エネルギー自身が調整力や慣性力を提供できるとし、2050年100%自然エネルギー転換に向けて、2030年までに最低でも再エネ電源比率を45%以上に引き上げる必要があると提言した。
日本エネルギー経済研究所、再エネ・水素火力・原子力のエネルギーミックスを追求すべき
日本エネルギー経済研究所は、太陽光発電や風力発電などの変動性再エネ(VRE)のコストが低下した場合でも、大量導入するためには、調整力や出力抑制、蓄電システム、グリッド増強など変動性ゆえの追加コストがかかり、ある一定の比率を超えると電力システム全体のコストが上昇すると指摘し、「統合費用の評価が必要だ」と問題提議した。
VRE大量導入時の統合費用の概念
日本エネルギー経済研究所 松尾雄司「変動性再生可能エネルギー大量導入時の電力部門の経済性評価」2020.12.14太陽光発電や陸上風力の発電単価(LCOE)は、過去のトレンドから習熟率により推計した9~10円/kWhを中心に、0円/kWhまで想定。9~10円までしか下がらなければ、最適電源構成における再エネ比率は約27%、7〜8円では約54%になると試算した。
上記の前提条件のもと、電力単価はどう推移するのか。「再エネ100%、水素火力0TWh、原子力なし」のケースでは、系統対策コストが増加し、25円/kWhになると推定。その一方で、「水素火力600TWh、原子力なし」のケースでは10円超に、「水素火力600TWh、原子力あり」のケースではさらに低下すると試算した。
さらに、VREの大量導入に対し、「無風期間」と「共食い効果」の2つの課題を指摘した。
「無風期間(Dark doldrums)」とは、1年に1~2回ほど、国全体が曇り、風も吹かないという気象状況を指す。ドイツや欧州の事例から、日本でもこの「無風期間」が2週間程度続きうるという。そのため、再エネ100%だと電力供給の途絶リスクが高まり、無風期間の電力需要をまかなうために大量の蓄電池が必要となり、さらにコストが上昇するという。
「共食い効果」とは、ひとつの電源が過度に導入されると、その電源の経済合理性が失われる事態をいう。例えば、太陽光発電が大量導入されると、晴れた昼間の電力価格が低下、もしくはマイナスになる。電力価格が低い時間帯にしか発電できない太陽光発電は、設備の価値が低下してしまう。一方、従来型の発電設備は、価格低下によって、設備の投資回収が困難になってしまう。
VRE大量導入時の課題:共食い効果(Cannibalization effect)
日本エネルギー経済研究所 松尾雄司「変動性再生可能エネルギー大量導入時の電力部門の経済性評価」2020.12.14これらの課題を考慮し、電源別の限界費用を試算すると、仮にVREの発電単価が0円/kWhであっても、水素火力が20TWhしか使えない場合は、太陽光発電や風力発電の限界費用は上昇すると指摘。エネ研は「無風期間における電力供給の途絶リスクや共食い効果を考慮すると、ゼロ・エミッション電源の中でも、統合費用が最小となる「最適点」がある。この最適点を目指していくべきではないか」と提言した。
電力中央研究所、2050年の再エネ比率は約40~50%
電力中央研究所によるシナリオ分析は、導入ポテンシャル、導入量ともにかなり保守的に試算されており、2050年における太陽光発電、風力発電の設備容量は約400GWにとどまるという。発電電力量は約6,500億kWhとなり、再エネ比率は約40~50%だと試算した。
国立環境研究所では、経済性を考慮していないという前提のもとで、再エネ比率8割という試算を提示した。
批判が集中した意見こそ、日本の将来に必要ではないか
4団体の提言を受け、質疑応答に移ったが、委員からの質問が集中したのは、自然エネルギー財団だった。
まず2~4円/kWhと試算した発電コストに対し、「なぜ、課題の多い日本でコストが低下するといえるのか? 客観的な根拠を示してほしい」。「必ずしも隣国と価値観を共有できていない日本において、国際送電網は実現可能なのか?」といった質問があがった。
VRE発電コスト推移(LCOE)
カーボンプライスを含む、またガスは2035年以降CCSコスト含む自然エネルギー財団「2050年カーボンニュートラルへの提案 自然エネルギー100%の将来像」総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会資料 2020.12.14
また「原子力が最も高いという団体と一番低いという団体がある中では議論はまとまらない。発電コストについて、ワーキンググループなどで検証すべきだ」。
あるいは「エネ研による電力供給途絶リスクや統合費用による経済性リスクを鑑みると、カーボンニュートラル実現には、再エネと原子力が重要なプレーヤーだ」。「再エネに過度に依存するという前提にはとても立てない」。さらに「国際送電は少なくとも当面考えるべきではない」といった意見もあった。
しかし、その一方で、松村敏弘 東京大学社会科学研究所教授は、「自然エネルギー財団の報告に関して、否定的な意見が出るだろうと予想していたが、財団のシナリオは非常に重要だ。実現の可能性を閉ざすことがないように」と発言。
そのうえで「(共食い効果によって)発電設備の稼働率が低下し、誰もつくる人がいなくなるというのは、いかにもエネ研らしい発想だと思うが、私たちはこのような発想から卒業するべきだ。(無風期間によって)2週間、VREの電気が止まるようなことが起これば、調整力市場の価格が高騰するはずだ。今までのような、稼働率が低下したら事業をやっていけないというような発想ではなく、本当に必要なものが、きちんと収益をえられるシステムをつくっていくことの方が重要ではないか」と語った。
また、橘川武郎 国際大学大学院国際経営学研究科教授は、「2050年の将来に向けて、ゲームチェンジャーをやらなければならない。ゲームチェンジャーとは現状維持を破ることであり、国際送電線なども考慮すべきだ。この委員会にいる方は現状維持派の人が多い。今日一番批判された意見こそ大事にしなければいけない」と指摘した。
発言する橘川武郎 国際大学大学院国際経営学研究科教授再エネ100%シナリオは消えたのか
再エネだけにすべての電力供給を頼ることは現実的には難しいという意見が、多くの委員から提示された。つまり、再エネ100%ではなく、原子力やCCS付き火力、あるいは水素火力など他の電源などをうまく活用していくべきだという方向性である。
次回は、その原子力など他の電源に対する議論を進める予定だ。
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/034/
(Text:藤村朋弘)