テスラの工場といえば、「ギガファクトリー」だ。中国の上海で稼働中であり、ドイツのベルリンでは建設中、そして米国内でもテキサスに新工場ができる。テスラの技術は製品そのものだけではなく、生産技術にも及んでいる。生産効率を大幅に上昇させ、あるいはコストダウンにもつながるものだろう。実際にどのような注目技術があるのか、日本サスティナブル・エナジー代表取締役の大野嘉久氏が解説する。
かつて「納車が遅い」と揶揄されていた米電気自動車大手テスラは、いま生産体制を大幅に拡充しており、自動車の生産技術そのものも次世代へと引き上げている。
同社の工場としては「ギガファクトリー」が有名だが、実は最初の生産拠点となった「フリーモント工場」(1962年から1982年までゼネラルモーターズ社が使用したのち1984年から2009年までゼネラルモーターズとトヨタの合併会社NUMMIが使用していた施設を、テスラが2010年に購入)が今でも米国内における最大のEV製造施設である。
というのも、既に稼働を開始しているギガファクトリー1(ネバダ州スパークス)は電池やEVドライブトレインなどの工場であり、そしてギガファクトリー2(ニューヨーク州バッファロー)はEVではなく太陽光発電関連製品を作っている。またギガファクトリー3は中国(上海)、ギガファクトリー4はドイツ(ベルリン)なので、したがってテキサス州オースティンで建設中のギガファクトリー5が実質的に米国で2ヶ所目のEV工場となる。
【テスラの主要生産拠点】
通称 | 国 | 場所 | 稼働 開始 | 主要生産品目 |
フリーモント工場 | 米国 | カリフォルニア州フリーモント | 2010年 | モデルS、モデル3、モデルX、モデルYの組み立て |
ギガファクトリー1 | 米国 | ネバダ州スパークス | 2016年 | モデル3用モーターおよびバッテリーパック、パワーウォール、パワーパック |
ギガファクトリー2 | 米国 | ニューヨーク州バッファロー | 2017年 | 太陽光発電関連製品 |
ギガファクトリー3 | 中国 | 上海 | 2019年 | モデル3、モデルYの組み立て |
ギガファクトリー4 | ドイツ | ベルリン | 2022年1月(予定)* | モデルYの組み立て、電池(推測) |
ギガファクトリー5 | 米国 | テキサス州オースティン | 2021年内(予定)* | モデルX、モデルY、サイバートラック、セミ(推測) |
*諸説ある最新情報の中で最も有力と思われる期日。しばしば変動する。
技術力で勝負するメーカーにとって工場は企業秘密だらけであり、普通はあまり積極的に開示しないものであるが、テスラは違う。
なんと建設中の様子をドローンで撮影し、それを世界中に公開してしまうわけだ。ギガファクトリー5(テキサス)に隣接する敷地150.21エーカー(約0.6平方km)をテスラのテキサス子会社「コロラド川プロジェクト」社が買収し、さらにプロジェクト名を「ボブキャット・プロジェクト」と名付けていることから、「ギガファクトリー5の新設備は電池の生産ラインではないか?」との憶測を呼んでいる。
ギガファクトリー・テキサスの建設中動画
その根拠は2つ挙げられており、1つ目は過去にも猫の名前を冠したテスラの「プロジェクト・タイガー」が結果的に巨大電池生産工場の「ギガファクトリー1(ギガファクトリー・ネバダ)」になったこと。
そして2つ目は現状だとカリフォルニア州北部Kato Roadの施設で作っている新型リチウムイオン電池「4680」の大規模な生産ラインになるのではないか、との推測である。
“猫の名前だから電池工場”と言われても説得力に欠けるかもしれないが、このギガファクトリー5(テキサス)でサイバートラックとセミが作られることはほぼ間違いなく、さらに4680電池がそれらの車種で使われることを勘案すると、謎の「ボブキャット・プロジェクト」がその生産ラインとなる可能性は高いと考えられる。
さらにテスラは車体の製造技術を大幅に革新させた。
というのもイタリアの老舗プレス加工機メーカー「イドラ」社が型締力6,000トンという世界最大のダイカスト機器をテスラのために完成させたことで部品点数を激減させることに成功したからだ。
例えば乗用車の車体下部は従来、100点以上の部品から構成されていたが、それを3つにまで減らすことができるという。その結果、パーツを溶接やボルトで結合する多くの工程がなくなり、それを検査する工程もなくなり、300ものロボットを不要とした。
さらにボルトや溶接の分の重量を減らすことができて1回充電あたりの航続距離が伸び、パーツの剛性も高まって安全性も大幅に強化された。そしてもちろんコストが下がり、1台あたりの生産に要するエネルギーも半減させられることとなった。
これまで世界最大のダイカスト機の型締力は4,000トンであったが、それでもやはり多くの部品を工場で人やロボットが結合しなければならなかった。
しかし、イドラ社は開発に2年をかけて100kgのアルミをわずか0.06秒から0.1秒という短時間で金型に均一で注入させる技術を確立し、2020年8月に型締力6,000トンのダイカスト機を完成させた。
これによって数百のパーツを別々に製造してから1つに組み立てて作っていた車体が秒単位で次々に完成させることができ、しかも従来より信頼性が高く、且つ低コストになる。
ここで特筆すべき点はイドラ社の高速注入技術に対応できる新しいアルミ材料を開発したテスラの社内開発力であり、テスラの技術開発に対する姿勢を物語っているといえよう。
かつて米フォード・モーターズがT型フォードの大量生産技術を確立したことで自動車を広く普及させたように、テスラはこの「ギガプレス」の完成によって自動車製造技術を新たな次元へ押し上げたと考えてよいだろう。
既に「ギガプレス」はフリーモント工場とギガファクトリー上海において稼働しており、さらに9台が追加で発注されているので、それらはフリーモント工場、ギガファクトリー上海、ギガファクトリー・ベルリン、そしてギガファクトリー・テキサスに配置されるものと考えられている。
このうえテスラはさらに巨大な型締力8,000トンのギガプレスをイドラ社へ2021年3月に発注しており、それはギガファクトリー・テキサスで電動ピックアップトラックの「サイバートラック」の生産に使われる。
このとおりテスラは開発力だけでなく生産技術でも他社を大きく凌駕しており、建設中のギガファクトリーが完成した暁には、もはや他社が追従することは困難になるのではなかろうか。
自動運転においても同社が開発しているソフトウエア「完全自動運転(FSD)ベータ版バージョン9」が2021年5月から6月中には発表される見通しであり、遠くない将来にテスラは史上最強の自動車メーカーになるであろう。
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