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アメリカ・バイデン政権の海外戦略を見る 対イラン政策の変化はどうなる

アメリカ・バイデン政権の海外戦略を見る 対イラン政策の変化はどうなる

2021/01/13

米国がバイデン政権に移行する中、国内だけでなく海外戦略も大きな変化が起こる。エネルギー関連でいえば、制裁を続ける対イラン政策が政権移行で、どのように変化するのかは、2021年の原油価格を予想する上で、重要な要素となってくる。あらためて、2021年のイラン情勢について和田大樹氏の論考をお届けする。

米国核合意復帰の先はイラン次第

米国大統領選挙の開票作業中の2020年11月4日、イランのロウハニ大統領は次の米国のリーダーが誰であろうと米国が国際協調路線に戻ることを願うとの認識を示し、経済制裁が解除されれば対米関係で変化が生じる可能性にも言及した。

今年(2021年)1月20日に大統領に就任するバイデン氏は、2015年イラン核合意への復帰を公約に掲げており、バイデン政権になると“脱トランプ”のイラン政策になることは間違いない。

しかし、たとえバイデン政権が核合意に戻ったとしても、それ以降合意の中身が遵守されるかはイランの行動次第でもある。また、米大統領選後のイラン情勢を注視していると、いくつかの懸念事項が見られ、今年の同情勢は日本のエネルギー安全保障上も決して楽観視できる状況ではない。

イランとイスラエルの対立は激化?

まず、長年イランと対立するイスラエルのネタニヤフ首相は2020年11月22日、極秘にサウジアラビアを訪問し、同国のムハンマド皇太子や米国のポンペオ国務長官と会談を行ったという。会談では、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化やイランへの対応などについて議論が交わされたとみられるが、イランをけん制する目的があったことは間違いない。

また、ムハンマド皇太子の父親のサルマン国王は2020年11月12日、イラン核開発に断固たる対応を取るよう国際社会に呼び掛けた。サウジアラビアも中東地域で影響力を高めようとするイランと対立しており、22日に極秘会談を行った3ヶ国は対イランで蜜月的な関係にある。


ムハンマド皇太子とトランプ大統領 2017年 By The White House from Washington, DC - Foreign Leader Visits, Public Domain

よって、イラン政策で脱トランプを図ろうとするバイデン政権の行方を、イスラエルとサウジアラビアは内心懸念を抱いている。そして、その懸念が現実のものとなったのか、テヘラン郊外で2020年11月27日、イラン核開発で主要な役割を担ってきた核科学者モフセン・ファクリザデ氏が暗殺されたのだ。

その後の捜査で、イラン当局は使用された武器がイスラエル製で、背後にイスラエルや同国の対外工作機関モサドが関与していることは間違いないとの見方を示した。イランは既に適切な時期にイスラエルへ報復すると明言している。イスラエルもその危険性を察知したのか、イスラエルの国家安全保障当局は2020年12月に入り、外国にあるイスラエル権益(大使館や企業)、ユダヤ教施設やイスラエル人がイランによって攻撃される可能性があると国民に警戒を呼び掛けた。

また、イスラエルは同国周辺で活動する親イラン系組織への攻撃も続けている。例えば、イスラエル軍は2020年11月18日、隣国シリア南部でアサド政権軍とイラン革命防衛隊の先鋭部隊「コッズ部隊」の拠点を狙って空爆を実施した。アサド政権軍の兵士3人が死亡したとみられるが、コッズ部隊のメンバー5人も犠牲になったとの報告もある。シリア内戦を巡ってイランは長年アサド政権を支援している。

そして、同月21日にもシリア東部デリゾールでアサド政権を支援するイラン系民兵組織へ空爆があり、戦闘員14人が死亡したが、イスラエルによる空爆とみられる。

このように、バイデン政権の誕生によって、米国が関与しない形でイスラエル(サウジアラビア)とイランの直接的な対立が高まり、イスラエルによるシリアなどへの空爆もいっそう激化する恐れがある。

イランは、中東地域を覆うシーア派の弧を作るべくイエメンのフーシ派やレバノンのヒズボラ、バーレーンのアル・アシュタール旅団、イラクのカタイブ・ヒズボラなどの親イランのシーア勢力を軍事的・財政的に支援し、アフガニスタンやパキスタン出身のシーア派民兵をシリアやイラクに送り込むなどしている。

イスラエルとイランが直接戦争に突入することは考えにくいが、暗殺やテロ、代理戦争的な手段を使って両国の攻防がいっそう激しくなる可能性がある。

退陣間近のトランプ政権が短期的懸念

一方、上記のような中長期的懸念だけでなく、短期的な懸念も考えられる。

2021年1月20日にホワイトハウスから去ることになったトランプ大統領は、最近、アフガニスタンやイラク、ソマリアに駐留する米軍の撤退や縮小、またイスラエルとアラブ諸国の国交正常化(最近はモロッコ)などで大きな動きを見せているが、バイデン氏の大統領就任までの限られた時間の中で引き続き大胆な行動に出る可能性がある。

例えば、今年1月3日でイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官が米軍によって殺害されてちょうど1年となるが、これに合わせてイランを刺激する何かしらのアクションを見せる可能性がある。軍事的手段より追加的な経済制裁など非軍事的な手段の方が可能性は高いが、それによってイランがより強硬な姿勢に転じることが懸念される。

モフセン・ファクリザデ氏が殺害された直後、イラン国会では2020年12月2日、国連による核施設への査察停止や核開発の拡大を求める法案を可決された。穏健派のロウハニ大統領は強く反対していたが、ファクリザデ氏の暗殺によって怒りを強めた保守強硬派が推し進めた形で可決されたという。法案の内容は核合意の計画に違反しており、バイデン政権との間で摩擦を生み、同政権の核合意復帰が困難になる可能性もある。

最後に、今年のイラン情勢を展望する上で最大のポイントは、今年6月18日にイランで実施される予定の大統領選挙だろう。穏健派のロウハニ大統領に変わって、穏健派と保守強硬派のどちらからリーダーが選出されるかがポイントとなる。それによって米国やイスラエル、サウジアラビアとの関係も大きく変わることになろう。

和田大樹
和田大樹

清和大学講師/ オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー 岐阜女子大学特別研究員、日本安全保障・危機管理学会主任研究員を兼務。専門分野は国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論。日本安全保障・危機管理学会奨励賞を受賞(2014年5月)、著書に「テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策」(同文館2015年7月)、「技術が変える戦争と平和」(芙蓉書房2018年9月)、「2020年生き残りの戦略 ー世界はこう動く!」(創成社2020年1月)など。

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