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2021年度には、国のエネルギー政策の根幹ともいえる「エネルギー基本計画」が改定されることになっている。次期改定にあたっては、菅首相が宣言した「2050年カーボンニュートラル」を反映したものとなるだろう。では、それをどのように達成していくのか。今回は、日本維新の会で再生可能エネルギーを推進する、片山大介参議院議員にお訊きした。
― 10月26日、菅首相が2050年カーボンニュートラルをコミットしました。これまでの2050年に80%削減という目標値から大きな飛躍ですが、この件についてお考えを聞かせてください。
片山大介氏:思い切った英断ですが、脱炭素の目標を前倒しする世界の流れを考えると当然だと思います。最大のCO2排出国・中国も2060年のカーボンニュートラルを宣言しました。最後の一押しで中国までコミットした以上、日本もせざるをえないと菅首相は考えたのではないでしょうか。
また、アメリカ大統領選挙では、環境政策を強く押し出すバイデン氏の勝利が濃厚です。日本が世界から取り残されてしまうという危機感はあったと思います。欧州と中国の二大経済圏が脱炭素の方向にさらに大きく舵を切ったことで、世界の環境への取組みは大きく進むでしょう。
― 現在の第5次エネルギー基本計画では、電源構成のうち再エネの占める割合が22~24%ですが、目標値と2030年という目標年度についてどうお考えですか?
片山氏:現在の第5次エネルギー基本計画の数値は、ほとんど意味をなさなくなっています。再エネ比率は40%というレベルを目指すべきで、今のままでは低すぎます。原子力発電も稼働が少ない現在、比率は数%しかない状況で、2030年に20~22%という目標値は適切ではないでしょう。効率の低い石炭火力発電所はフェードアウトに向けて動き出しています。こうした状況を考慮しても、現在のエネルギーミックスはすでに崩壊しています。新しい第6次エネルギー基本計画には、抜本的な見直しが大前提です。
目標年度も、2030年より先を考えていく必要があります。経産省側にもこの認識はあるようですが、より現実に即した、2050年脱炭素を達成できる計画にしていかなければなりません。日本のCO2排出量はエネルギー由来が9割であり、CO2排出量はエネルギーミックス次第で大きく左右されます。それだけエネルギーミックスの重要性は高いものです。
エネルギー基本計画の見直しは経産省の主管で、環境省はタッチできません。経産省は今、審議会を立ち上げて検討していますが、環境省はオブザーバー、いわば体のいい蚊帳の外。私は、環境省を議論の中にしっかりと入れるべきだと主張しています。そうしなければ、環境省の考えるカーボンニュートラルの実現はありえません。
菅首相は、省庁の縦割りをなくすと主張しています。環境問題は、もっとも省庁の垣根を取り払って取り組まなければならない問題です。環境問題のコアであるエネルギーミックスに対し、経産省だけで検討を進めるのはおかしいと思います。各府省からの意見を集めたり、経産省の主管ではどうしても縦割りになるようだったら、内閣府で検討したりすべきです。そうしないと再び経済論理だけのエネルギーミックスになってしまいます。
― ご自身は、どのようなエネルギーミックスを目指すべきだと思われますか?
片山氏:まず、2030年時点で再エネが40%から50%を占めるべきです。次に、石炭火力発電ですが、仮に、今のまま高効率の石炭火力だけを残したとしても20数%は残ります。これでは2050年の脱炭素は無理なので、石炭火力を限りなくゼロに近づけるくらいの努力が必要です。一方、原子力については、日本維新の会としては、フェードアウトしていくという方針です。
片山大介参議院議員
― 原子力については、現在使われている対応ではなく、海外で開発が進められている、小型モジュール炉を導入するという考えもあります。
片山氏:日本も新しい小型モジュール炉の技術開発にコミットしておくことは、対応した方がいいとは思います。
何らかの形で、原子力を続けることで、将来の日本の防衛力に寄与するという見方もあります。技術開発の視点で考えると、原子力に関する日本の技術力を絶やさないためにも、今ある原発を止める必要はないでしょう。原発を残すことで日本に技術が残り、将来、新たな分野への応用の可能性も残ります。
ただし、技術開発と、エネルギーミックス上で原子力発電のパーセンテージをどれくらい担保するかという問題は、まったく別です。電源構成で原発の比率を十分に確保するほど、小型モジュール炉の開発に確実性があるわけではないと思います。
― エネルギーミックスで同様に期待されているのがCCUS(CO2回収利用/貯留)といった技術ですが、その点についてはいかがですか?
片山氏:そういった技術開発は行っていけばいいと思います。しかし、概して、日本のエネルギー政策はCCUSのような目新しいテクノロジーに期待を持ちすぎです。2050年脱炭素には、今のうちから政策を総動員して取り組むべきあり、新技術は、その上にプラスアルファで加算していくべきものです。
今は、将来の画期的な技術に期待し、なんとなく2050年脱炭素を夢見ています。それどころか、将来の技術革新を理由に、現状維持路線の逃げ道にすらしている感があります。
例えば、石炭火力発電はある程度高効率の発電所は残す方向性ですが、これは投資回収を考慮した措置であり、石炭火力の稼働を容認することと同じです。石炭火力を認めながら2050年脱炭素を掲げるのは矛盾です。この矛盾を解決する手段を将来の技術開発にゆだねるのは無責任です。
そのためにも、起点となるエネルギーミックスをしっかりと決めていく必要があります。エネルギーミックスが決まれば、企業も石炭火力に将来性がないことを認識し、新たなエネルギービジネスへのシフトが加速します。今はその起点を宙ぶらりんにしておきながら、新技術への助成を行っている状況なので、企業も本腰で取り組むことができずにいます。きちんとエネルギーミックスの目標値を定め、これに即した技術支援や資金助成などを実施していく方が、企業の変化も強く促すことができます。現状のやり方はまだ甘いという気がしています。
― では、2050年にエネルギーミックスはどのような姿になっているべきでしょうか? また、どのような政策を進めていくべきでしょうか?
片山氏:2050年には、再エネが50~60%を占めているでしょう。原子力発電を加えた非化石燃料だけで70~80%に達していると思います。残り20~30%の化石燃料によるCO2排出量に対しては、CCUSなどを活用すべきでしょう。非化石燃料が大多数を占めなければ、脱炭素社会は実現できません。
― 目標を実現していくにあたっては、どのような政策が必要でしょうか。
片山氏:第一にすべきことは、エネルギーミックスの数値を定め、政府の方針をきっちりと決定することです。
第二に、技術論になりますが、送電線の適切な運用を通じて、さまざまな事業者が電気事業に参入できるようなしくみにすることです。
第三に、原子力についての扱いです。日本のエネルギー政策が力強いものになっていないのは、原子力発電の扱いをきちんと決めていないからです。再稼働や核燃料サイクル、小型モジュール炉などをどうするのかという問題に答えを出し、国民と議論することが必要です。
原子力発電に対し中途半端な姿勢をみせるから、日本のエネルギー政策がよくわからないものになってしまいました。対外的には再生可能エネルギーが重要だとして補助金を出したりしていますが、一方で、石炭火力の存続も容認するなどつじつまが合っていません。
こうした問題の根幹を決めるのがエネルギーミックスです。これをこの1年で決めるということですが、きちんとできるのかどうか。議論はもしかすると5年、10年というスパンになるかもしれませんが、きちんと決めていくことが必要です。
― 世界の環境意識が目まぐるしく変化する中で、日本企業が生き残っていくために政治にできることは何でしょうか? 例えば、日本の自動車産業は電気自動車へのシフトが遅れているのではないかという気がしています。
片山氏:例えば、政府は、2030年代にはガソリンのみの車は廃止するという発表をしましたが、これも欧州勢など海外の動きに迫られて発表してしまったような印象があります。経済界に配慮し、世界の自動車産業の中で日本が取り残される危機感から表明せざるをえなかったのではないでしょうか。
その一方で、ハイブリッド車は残しました。国際的なトレンドの動きが非常に早い現在、国内企業が取り残されずに生き残っていくには、日本の強みを残しながらも世界の潮流にキャッチアップしていく必要があります。どこにソフトランディングしていくかということは政治が決めるべきことですが、経済界ともコンセンサスを形成していく必要があります。特に、今世界のリーディングカンパニーである日本企業のポジションを維持するために、政治の役割は非常に大きいと思います。
― むしろ、これまでの政府のとってきた政策とその結果を考えると、民間企業は政策に依存しない方がいいのではないかと思うこともあります。
片山氏:今まで、日本はエネルギーに対してきちんと向き合ってきませんでした。しかし、今やエネルギーには正負の両面があり、何によってエネルギーを得ていくかは非常に重要な問題です。政治がそこを掘り下げて検討を深めていくことは、差し迫った課題でもあります。
国民に対しても情報を開示し、きちんと説明する必要があります。なぜなら、エネルギーは国力であり、専門家だけで決めるべき課題ではないからです。時間がかかってもいいから国民的議論をしなければならないし、その最たるものが原発です。
特に、来年は2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故から10年となる節目の年です。その間の原発の議論が、結局きちんと行われていません。原発に対する基本的なスタンスが中途半端になっています。国論を二分するような議論は避けられがちですが、もはや時代がそれを許していません。
今やグリーンリカバリーの時代と叫ばれ、欧州の環境政策の地位は非常に高いものです。日本ではまだ、環境政策に対する重要性が政権の命運を懸けるところにまでは至っていませんが、近い将来そうなる可能性は十分あると思います。ですから、今こそきちんとエネルギー問題を議論すべきだと思います。
― パリ協定の温室効果ガス削減目標については、上積みすべきでしょうか?
片山氏:パリ協定の目標値の上積みは必須です。2050年カーボンニュートラルのためには、2030年目標の26%削減は難しい目標ではありません。むしろ、2030年には45%削減くらいにしないといけないと思います。
これまでは、経済成長の中での26%削減という目標でしたが、デフレで経済成長していない現在、難しい数字ではないと思います。少なくとも40%近い削減は必須でしょう。エネルギー基本計画で、エネルギーミックスを固め、それが地球温暖化対策計画に反映されていくことになると思います。
― 政府は再生可能エネルギーの拡大を推進する方針を打ち出しています。しかし、世界が重視しているのは、再生可能エネルギーの発電そのものだけではなく、それを大量に導入し、安定して利用していくため、送配電網を効率的に使用できるようにするデジタル技術だと思います。しかし、日本政府はこの分野への関心が弱く、十分な支援が打ち出せていないのではないかと思います。
片山氏:デジタル技術に関しては、デジタル庁が2021年秋に立ち上がり、いろいろな政策を進めていくことになっています。しかし、これはあくまで、社会のデジタル化をどのように進めていくかということだけで、明らかにグランドデザインが不足しています。必要なのはデジタル化という手段ではなく、社会がどういう恩恵を受けどのように変化していくかというグランドデザインです。これはエネルギー政策にも大きく寄与すると思います。
残念ながら、そういった視点による政府の検討が大きく欠けています。手段ではなく、それを達成したその後の世界を描くというビジョンは、常に日本政府に足りない観点です。
デジタル化という政策で社会の何を変えていくのか、それは各省庁に考えていただきたいと思います。
(Interview:本橋恵一、Text:山下幸恵、Photo:岩田勇介)
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