ブロックチェーンはEVのCO2排出を削減できるか? 広がりを見せるMOBIの規格が狙うもの | EnergyShift

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ブロックチェーンはEVのCO2排出を削減できるか? 広がりを見せるMOBIの規格が狙うもの

ブロックチェーンはEVのCO2排出を削減できるか? 広がりを見せるMOBIの規格が狙うもの

2021年06月22日

車、そしてEVにブロックチェーン技術を導入して、トレーサビリティを確保しようという取組みが進められている。車両情報はもとより、EVのレアメタルの採掘情報からエネルギーマネジメント、リサイクルまでをブロックチェーンで管理できるのか。日本企業も参加している国際的なイニシアチブ、MOBIの狙いとは。

モビリティにブロックチェーンを導入すればどうなる?

ブロックチェーン、分散型台帳は改ざんが不可能なデータのやり取りができるため、特にトレーサビリティが重視される分野での導入が進んでいる。金融(ビットコイン)はもちろん、不動産、医療、物流から、産地保証の農業や再エネの電力供給にも使われている。

そうしたブロックチェーンの特性をクルマに導入しようとしているのが、モビリティ・オープン・ブロックチェーン・イニシアティブ、通称MOBIだ。

2018年に設立されたMOBIの目的は、モビリティ全般におけるブロックチェーンの活用にある。この非営利組織(NPO)はブロックチェーン技術とその利活用のための標準化・規格化をグローバルに推進する世界最大級の国際コンソーシアムになる。

参加している企業はホンダ、GM、フォード、BMW、ヒュンダイ、ルノー、豊田自動織機、デンソー等の自動車メーカーだけでなく、物流、金融、商社、そしてアマゾン、IBM、日立製作所、アクセンチュアなどのテック企業、欧州委員会や中国交通運輸部科学研究院、世界経済フォーラムなど、併せて100以上にのぼる。

ブロックチェーンで車両情報の改ざんが不可能に

たとえば2019年には車両の所有権、修理履歴、走行距離、保険金請求などの車両識別のためのブロックチェーン上での標準規格、「VID I」をリリース。これで、(この規格を使った車両は)修理履歴の改ざんやオドメーターの巻き戻しなどが意味を成さなくなった。

2021年1月には続いて「VID II」をリリース。車両登録とメンテナンスのトレーサビリティをさらに推し進めたもので、規制当局や保険会社に車両の本当の姿を提供する。

MOBIはこのように、今まではローカルな人の手によりごまかしが多少なりともできていた時代を終わらせようとしている。車両情報(VID)の他にはユーザーベースの保険商品、金融・資産情報などのセクションに別れてブロックチェーン規格と導入を進めている。

EVの充電環境をブロックチェーンで管理

そのMOBIが力を入れているのが、EVとサプライチェーンだ。

2020年10月にはEV関連では初のグリッド統合規格「EVGI」をリリースした。これは以下の3つのシステム設計を網羅している。

  • V2G(ビーグル・トゥ・グリッド、EV搭載のバッテリーと次世代電力網とのやりとり)
  • P2P(ピア・トゥ・ピア、1対1の通信モデル)
  • TCC(トークナイズド・カーボン・クレジット、トークン化されたカーボンクレジット)

これにより、EVと充電機器との間のやりとりがブロックチェーンで利用できるようになる。どのEVが、どこでどれだけ充電したか、またどの充電器を使ったのか、どの電力会社を使ったのか、バッテリーの交換はしているのか、すべてが改ざん不可能で、記録可能になる。

このEVGI規格の作成ワーキンググループは、ホンダとGMが議長を務め、アクセンチュア、IBM、PG&Eなどがサポートに入っている。

このEVのためのブロックチェーン規格が目論むのは、EVのバッテリーを使った分散型エネルギー、VPPのトレーサビリティだ。EVを使ったエネルギーマネジメントを見据えていると言うことになる。


MOBI YouTubeより MOBIのビジョン

サプライチェーンの規格づくりも進む 伊藤忠も参加し、リチウムイオン電池の原料もトレース

また、現在規格の検討を進めているものにはサプライチェーンのデータがある。部品の調達はもちろん、ここで注目したいのはリチウムイオン電池とレアメタル(コバルト、リチウム等)だ。

EVには走行時のCO2削減だけでなく、その製造から破棄までのライフ・サイクル・アセスメント(LCA)が重視されてきている。つまり、そのリチウムイオン電池に使われるレアメタルの採掘から調達までをどうしているかと言う情報だ。レアメタルの採掘や製造時のCO2排出量が多ければ、走行時のCO2削減も台無しになってしまう。

6月14日、伊藤忠商事がMOBIへの参加を発表したのも、この電池調達が目的だ。伊藤忠は事業投資先やサプライチェーンの資源の安定的な調達・供給、流通の透明性確保にMOBIのブロックチェーンを利用し、そのための規格づくりにも参画するとしている。また、タイヤ原料の天然ゴムのトレーサビリティ確保にも力を入れる。

不法な労働による鉱物資源の採掘をブロックチェーンのトレーサビリティで追い出そうというのが狙いになる。また、将来的には近年注目が集まるリチウムイオン電池のリサイクルにも活用されるようになるだろう。


BMW X5のヘッドライトコンポーネント MOBI 「サプライチェーン ユーズケース パーツの透明性」より

日本のメーカーが規格づくりに参加する重要性

MOBIには他にもCMDM、コネクテッド・モビリティ・データ・マーケットプレイスというワーキンググループもあり、こちらは自律・自動運転や運転アルゴリズム、機械学習のデータの規格づくりを進めている。このワーキンググループはデンソーとGMが議長を務める。

MOBIの設立は2018年。当時と比べると、クルマを取り巻くカーボンニュートラルの動きは激流のように大きくなっている。最初は車両情報の透明性確保からはじまったMOBIだが、急いでEV、バッテリー、サプライチェーンにも対応しなくてはいけない。

脱炭素、カーボンニュートラルには改ざん、ごまかしは禁物だ。そのEVバッテリーはどこに由来し、労働環境はどうだったか。そして、どれだけのCO2を使いつくられているのか。正しい情報と透明性の確保なくしてはそもそも成り立たない。ブロックチェーン技術はまさにうってつけであり、これからますます重要度をましていく。

MOBIのつくられたグロックチェーン規格は、将来すべてのクルマに組み込まれるかもしれない。そのためには規格の広がりがカギとなろう。

世界はEVへと大きくかじを切っている。世界的なEVの覇権争いに食い込むために、日本勢がこうした規格の検討・作成から参加していることは非常に重要になってくる。


MOBI YouTubeより ブロックチェーン・アプリケーションによるモビリティ・サプライチェーンの可視性の向上

EnergyShift編集部
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