Solar Mapper:Googleとトタルが開発した、太陽光発電の可能性を診断する最新AI | EnergyShift

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Solar Mapper:Googleとトタルが開発した、太陽光発電の可能性を診断する最新AI

Solar Mapper:Googleとトタルが開発した、太陽光発電の可能性を診断する最新AI

2020年11月19日

AIのおかげで、これから脱炭素化に関わること、特に太陽光発電への投資熱が再燃することになるかもしれない。Google Cloudの新しいAIサービスは、太陽光発電事業の採算予測をより確実に教えてくれるようになるためだ。リスク査定の精度も一気に高まるだろう。Googleが発表した新しいサービス「Solar Mapper」について、日本サスティナブル・エナジー株式会社の大野嘉久氏が解説する。

Googleがトタルと太陽光発電サービス

太陽光発電は天然ガスや石炭、バイオマスあるいは原子力などと違って燃料費が一切かからず、さらに燃料を保管・投入・後処理する費用や手間も必要としない。そのため一般家庭や事業所でも気軽に設置でき、適切なメンテナンスを行えば“置いておくだけでカネを生む”資産として有力な投資対象の一つとなっている。

その反面、設置場所の自然環境や機種の選定によって事業性が大きく左右されてしまうため、購入前の事業性判断が非常に重要となる。これまでも的確でないシミュレーションにもとづく調査によって、想定と違う発電量しか得られなかった事例が少なからず発生している。中には再生可能エネルギーの固定価格買取り制度(FIT)を持ち出して事業性を水増しして伝え、システムを売り込む悪徳事業者に引っ掛かってしまうケースもある。

ところがこのたび、世界中の地理情報をデータ化したあのGoogleが、今度は太陽光発電の事業性判断を大きく改善させた「Solar Mapper」というサービスを発表した。クラウドコンピューティングによってAIサービスを提供するGoogle Cloudが仏石油大手トタルと共同で太陽光発電の事業性を判断してくれるAIアルゴリズムを開発し、これによって投資判断の飛躍的な向上が期待されている。

Googleとトタルの知見を総合

ただしGoogleによるこうしたサービスは初めてではなく、2015年にもクラウドによる太陽光発電の事業性を診断してくれる「Google Sunroof」を発表している。このサイトでは特定の屋根が受ける日射量を算出してくれるほか、設置可能なパネルの数も割り出してくれる当時としては画期的なサービスであったため、米国だけでなくドイツやイギリス、そしてフランスにも展開された。

Google Sunroof

2019年8月には日本でも東京電力ホールディングスの100%子会社である東京電力ベンチャーズがGoogle Sunroofの技術を使った戸建住宅用の太陽光シミュレーションサイト『Suncle(サンクル)』の運用を開始し、現在でも住所を入力すれば節約可能な電気代や20年間の発電収支(予測値)、設置費用の目安、設置費用の回収期間など多くの指標を即座に示してくれる。

サンクル

今回の「Solar Mapper」では次の4点が改善されたため、Google Sunroofよりさらに質の高い判断が見込まれている。

  • 1. 衛星写真の精度向上
  • 2. 太陽光発電のポテンシャル評価
  • 3. 設置する機種の選定
  • 4. カバー域が世界全体へと広がる

Solar Mapperで太陽光発電への投資加速を期待

Solar Mapperで使われるアルゴリズムをGoogle Cloudと共同で開発したトタルは、国際石油資本(いわゆる石油メジャー)の一角であるが、以前から石油や天然ガス以外の事業にも取り組んできた。

とりわけ太陽光発電については家庭用ソーラー事業大手である米Sunrunの大株主として太陽光発電の経験を積んでいるほか、インドでメガソーラーに投資している。

また、トタルは日本でも宮城大郷ソーラーパーク(宮城県大郷町、52MW、SBエナジーと共同出資)や宮古くざかいソーラーパーク(岩手県宮古市、18MW、中部電力と共同出資)、そしてイセ・トタル七尾発電所(石川県七尾市、27MW、鶏卵の大手イセ食品と共同出資)など積極的にソーラー事業へ投資しており、採算性を評価する知見は十分に積んでいると言えよう。

ただし、現時点でSolar Mapperはまだ日本で使えない。現状ではフランスの9割の面積をカバーしているものの、それ以外の国への展開についてはまだスケジュールが発表されておらず、日本だと当面は上述のサンクルを使い続けることになるだろう。なお設置の対象は最初の段階だと家庭のみであるが、今後は事務所や事業所などの法人へと拡大される。

他の再生可能エネルギーへの展開は可能か

自宅や自社にソーラーパネルを設置した場合の長年にわたる正確な採算が分かれば、もっと多くの人が投資することは間違いない。その意味で、このSolar Mapperは新しい太陽光発電ブームを世界中に巻き起こす可能性がある。また、既に太陽光発電設備を設置しているオーナーなら、過去に事業者が提出した採算の妥当性をチェックしたいと考える人もいるだろう。

そして願わくば、Google Cloudには、このSolar Mapperで構築した技術を風力発電や小水力発電など他の再生可能エネルギー技術や、マイクログリッドの長期採算など他のエネルギー事業に展開してもらいたいものである。

大野嘉久
大野嘉久

経済産業省、NEDO、総合電機メーカー、石油化学品メーカーなどを経て国連・世界銀行のエネルギー組織GVEPの日本代表となったのち、日本サスティナブル・エナジー株式会社 代表取締役、認定NPO法人 ファーストアクセス( http://www.hydro-net.org/ )理事長、一般財団法人 日本エネルギー経済研究所元客員研究員。東大院卒。

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