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オーストリアから日本のバイオマスを見てみると 欧州バイオマスレポート2

オーストリアから日本のバイオマスを見てみると 欧州バイオマスレポート2

2020年01月16日

欧州バイオマスレポートの第2弾、オーストリア編をお送りする。比較的日本と似た、山の多い国であるオーストリアでは、熱エネルギーの供給、活用をどのようにしているのか、また、日本での展開のヒントは何か。前回に引き続き、sonraku代表の井筒耕平氏が現地からレポートする。

日本の地形に似ているオーストリア

フィンランドに引き続き、オーストリアのバイオマスエネルギー事業をご報告します。 オーストリアは、フィンランドと異なり、地形は日本に似て山間部も多くあります。よって、日本へのバイオマス実装において、非常に参考になるとも言われています。 オーストリアでバイオマスは、どのように普及が進んでいるのでしょうか。また、そこから見えてくる日本への学びとはなんでしょうか。

熱政策の重要性

今回の視察では、ウィーンの熱供給公社であるウィーンエナジー(Wein Energie社)、バイオマスボイラーのメーカーであるフローリン(Froling社)、シンクラフト(SynCraft社)によるバイオマスガス化熱電併給+エビ養殖施設の3箇所を巡りました。3箇所の位置関係ですが、ウィーンエナジーはウィーン市、残る2箇所はオーストリア中部の中山間地域のようなエリアにあります。

オーストリア全体を通して、「熱」利用に対する政策的な後押しを感じました。グレタ・トゥーンベリさんの影響を受けて、すでにオーストリア国内では、過去最大の家庭用バイオマスボイラーへの補助(ガスからの転用)が出ているとのことです。ボイラーの平均導入費用12,000ユーロ(費用幅は、10,000―15,000ユーロとのこと)かかるところ、半額の6,000ユーロが補助されているようです。かなり政策的な追い風が吹いているといえ、実際にボイラーの導入も進んでいます。

Froling社でボイラーの説明を受ける筆者

欧州は、国家間での政策を比較できる社会環境が日常にあって、「そちら(欧州の別の国)ではなぜ再エネ政策を進めていないの?」などと言いあえる、ある意味内政干渉的な指摘合戦があるとも感じました。

政策がバイオマスに及ぼす影響は、経済的かつ精神的な意味で甚大です。しかし、日本国内を見れば、特に熱利用に関してはほぼそうした政策はありません。あるのはFITだけ。

熱については、行政の「率先導入」が今も続いていますので、そうしたハードをいかに死なせずに残しておくか。そしてそれがローカル政策につながる動きが必要ですが、いまは途切れてしまっており、「ハード導入はするが、運用には課題が多い」という結論づけで終わってしまっています。日本には、大局観ある政治や政策が、まずは必要です。

政策インセンティブによる民間への影響

日本では制度としてFITしかありませんので、発電事業者が熱を使う意識が出にくいのですが、オーストリアでは熱需要があって、そこに合わせた運用をしています。つまり、売電単価がそれほど高くないため、発電設備の稼働率100%運用は、経済的な観点からベスト運用ではなく、熱に合わせた運用が経済的に適するのです。

とはいえ、電気は全量売電で、使う電気はグリッドから購入した方が安いとのことでしたので、そこは日本と同様です。

一方、熱需要が100%あれば、できる限り長時間運転を行うのが合理的であり、安い熱を使って新たなビジネスを起こそうとしている事例なのが、エビ養殖事業者でした。ちなみに、日本向けのクルマエビを養殖するようです。

エビ養殖ビジネス自体も立地条件の重要性を抱えており、オーストリアは物流、気温、ミネラル分等で不利だとのこと。イタリアやギリシャで実施する方がメリットはある、と視察先担当者はコメントしており、水産資源養殖ビジネスの観点も含めた立地の検討は重要です。

ウィーンエナジーも政策からの影響を受けていました。今回視察に行った際、これまではでていたバイオマス事業への運営補助金(年間3,500億円)が出ていないそうで、天然ガスでの熱供給を行なっていました。つまり、補助金がないと運営できないということのようです。やはりオーストリアでもバイオマスでの熱供給は経営的に非常に難しいという側面を見ることもできました。

日本でのバイオマス「熱」利用を考える

では、日本でのバイオマス「熱」利用はどのように考えたらよいのでしょうか。

まず、FITへの優遇措置が非常に大きな現状では、発電事業を主眼に置きながら、熱販売をセットで考えて事業展開を行うこと。ポストFIT時代においては、熱販売事業を主眼に置くことが大切かと考えられます。

現状、都市圏では熱利用として、都市ガスが普及しています。一方で、郊外や農村地域、中山間地域ではLPガスや灯油を利用しています。オーストリアやフィンランドでは都市ガスエリアはほぼなくて、「発電事業+地域熱供給」が都市圏にあり、郊外より外のエリアでは、個別ボイラーでの熱供給を行なっていました。

日本でも、都市圏での中心駅周辺においては、電気やガスを主熱源とした地域熱供給は非常に多く見られます。一方で、郊外以遠ではほとんど導入されていません。その代わりに、LPガス事業者や灯油販売事業者が、非常に多く存在しており、ガスボンベや灯油をトラックで運搬するエコシステムができあがっています。

オーストリアでは、チッパー(チップ製造装置)をシェアする仕組みがあると聞きました。バイオマス燃料を配達する事業者、煙突掃除を行う事業者もそれぞれ存在し、彼らの研修制度もメーカー(今回はFroling社)が準備しています。

設備業者が販売とメンテナンスをしっかりと行い、消費者は燃料調達を苦労することなく行うことができるというエコシステム。このエコシステムを地域内でつくることが、重要ではないかと感じました。

井筒耕平
井筒耕平

1975年生。愛知県出身、神戸市在住。環境エネルギー政策研究所、備前グリーンエネルギー株式会社、美作市地域おこし協力隊を経て、2012年株式会社sonraku代表取締役就任。博士(環境学)。神戸大学非常勤講師。 岡山県西粟倉村で「あわくら温泉元湯」とバイオマス事業、香川県豊島で「mamma」を運営しながら、再エネ、地方創生、人材育成などの分野で企画やコンサルティングを行う。共著に「エネルギーの世界を変える。22人の仕事(学芸出版社)」「持続可能な生き方をデザインしよう(明石書店)」などがある

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