近年、住宅メーカーのトレンドとなっているのが、政府が推進する「ゼロエネルギー住宅(ZEH)」である。断熱やそのほかの省エネによってエネルギー効率を改善する一方、太陽光発電や蓄電池などを設置することで光熱費をゼロに近づけていくというものだ。また、メーカーにとってもZEHを販売することは、CO2排出削減に貢献することになる。そういったメーカーの1つ、アイダ設計営業本部・部長の塩野谷好美氏に、ZEHについておうかがいした。
ZEH販売で杉11万7,000本分のCO2削減
―ゼロエネルギー住宅(ZEH)の特長や販売状況について教えてください。
塩野谷好美氏:販売戦略ですが、分譲住宅については、Nearly ZEH(ZEHに近づいた省エネ住宅)を中心に販売しています。一方、注文住宅については、「BRAVO ZNEXT(ブラーボ・ゼネクト)」というZEH住宅を主力商品として打ち出しています。 年間でおよそ2,500戸を販売しており、うち6%がZEHないしNearly ZEHとなっています(2019年度建築実績)。
性能ですが、ゼネクトの場合、断熱・気密性能はUA値0.46以下が指標となっています。このUA値というのは、外皮平均熱貫流率のことで、値が小さいほど熱が逃げにくいというもので 、快適性のひとつの指標と考えています。
BRAVO ZNEXT(ブラーボ・ゼネクト) 柏市大井モデルハウス アイダ設計プレスリリースより―2016年の東京における省エネ基準がUA値0.87ですから、かなり低いですね。しかし、そうすると建設コストもかかるのではないでしょうか。
塩野谷氏:建設コストでいうとゼネクトの場合、当然コストアップになります。それでも、太陽光発電による電気代削減や売電収入、省エネ設備による光熱費の削減などを合わせると、初期投資がまかなえるレベルであることは、シミュレーションしています。
また、補助金の対応も可能ですが、期間などに制約があるため、お客様に補助金前提でのお話しはしていませんが、補助金に代わるキャッシュバックなどのキャンペーンで対応させて頂いていました。 シミュレーションですが、住宅ローンの一般的な期間となる35年間で考えています。その結果、一般的な住宅と生涯住居費があまり変わらないうえに、ゼネクトではより健康に、快適に暮らせるというメリットがあります。
―より健康に暮らせる点について、詳しく教えてください。
塩野谷氏:まず、「人の健康」ということですね。実は家の中の温度差による「ヒートショック」や暑い日の「室内熱中症」による突然死のリスクは交通事故よりも多いのです。気密性が低いと部屋ごとに温度差があり、特に寒い時期の入浴中の死亡事故が多くなっています。また、熱中症対策としてはエアコンの使用も大切ですが、外気の影響を受けにくいという点では断熱性、気密性が重要です。
健康で暮らすことができれば、健康寿命が伸びますし、その結果医療費も少なくなります。こうした点もポイントとなってきます。
それだけではなく、住宅の躯体を痛める結露を予防する「家の健康」、気候変動対策となる「環境の健康化」、そして光熱費を抑制する「お金の健康」の4つの健康をかなえることが、ゼネクトの特長です。
2016年の発売開始以来、建築にかかるイニシャルコストだけではなく、生涯ローコストというテーマで販売してきました。生涯かかるお金のことにはお客様も興味を持ってくださいます。
CO2の削減については、ZEH住宅は2019年10月までの累計ですが、750戸以上販売しており、これによるCO2排出削減量は杉の木11万7,000本に相当します。
災害に備える住まいづくりを
―ZEHでは蓄電池などを設置するケースも増えています。
塩野谷氏:蓄電池の設置については、販売価格のアップとなり、ランニングコストによる削減を踏まえても負担が大きいため、オプションにて対応していますが、現在は災害時の備えとしても必要性があるため、キャンペーン期間として蓄電池4kWをサービスさせて頂いています。
EV(電気自動車)を所有されているお客様も増えて来ましたから、弊社のゼネクトモデルハウスでも充電用コンセントを設置してご紹介しています。V2H(Vehicle to Home)のような設備も今後増えてくると思います。
―近年は、住宅に災害対応も求められています。
塩野谷氏:ZEHでご契約いただいたお客様の中には、昨年の台風などの自然災害で被災されたご家族もいらっしゃいました。重要視されていたのはやはり住宅の頑強さと停電などの非常時に対応できるかということでした。
台風・地震・豪雨という自然災害に加え、コロナの様な未曾有の災害まで起きているこれからの時代は、省エネも創エネも一時的に耐える様なものではなく、非常時にも自立できる様な住宅が求められてくるのではないかと思います。
ミッションは持続可能なまちづくり
―企業には、SDGsに対する取り組みが求められるようになってきました。
塩野谷氏:持続可能ということでは、私たちのミッションは子育てできる環境づくりを提供していくこと、さらにその先にある、安心して住み続けることができるまちづくりだと考えています。その他具体的な取り組みについては、今後会社としても打ち出していくと思います。
また、事業活動においては、ISO14000シリーズにそって環境に対する取り組みを行っています。ごみの減量やリサイクル、社用車のガソリン消費の削減を、目標を設定して取り組んでいます。
―住み続けるという意味では、すでに販売した住宅に対しても責任があると思います。例えば断熱リフォームなどの需要もあるのではないでしょうか。また、コロナ危機は影響があったでしょうか。
塩野谷氏:今まで販売した住宅のアフターサービスとともに、住宅のリフォームということも提案させて頂いています。
コロナ危機はありましたが、社内体制や営業活動の工夫を行うことで出来る限りカバーして参りました。お客様とのお打ち合わせはZoomなどを活用しましたし、オンラインでのセミナーなども行っています。直接住宅を見たいというお客様のために、展示場そのものの見せ方も工夫しています。
資料請求については、コロナ危機の前よりも増えています。新生活様式の始まりと言われはじめ、さらに在宅ワークが拡大したことで、今の住まいよりも広さを求め地方の戸建て住宅で暮らすなど住まいを見直すということが検討されるようになってきたのかもしれません。