北欧の国、フィンランドは今年1月、世界で初めての国家バッテリー戦略を打ち出した。世界的に需要が高まるバッテリー供給で存在感が増している。
フィンランドは2035年までのカーボンニュートラルを目指しており、加盟しているEUの2050年カーボンニュートラルより15年早い目標設定だ。
現在はエネルギー消費量の約4割が再生可能エネルギーで、2020年代に50%以上となることを目指している。フィンランドは人口約530万人、国土は日本の9割ほどの大きさで、7割が森、1割が湖や川であり、その地の利を活かしてバイオマス発電が盛んだ。
ほかに水力発電、地中熱発電等が利用されている。太陽光発電も近年拡大しており、グリッドよりもオンサイト(屋根上など)の発電が多くなっている。フィンランドにFITはなく、売電価格は5-6円/kWhであり、安い。
バイオマスは発電のみならず、熱供給にも大きな役割を果たしており、太陽熱も暖房に有効活用されている。
そんなフィンランドだが、今年1月に世界に先駆けて国家バッテリー戦略を発表。グローバルなバッテリー産業にフィンランドが競争力あるプレーヤーとなることを宣言した。
フィンランドのバッテリー戦略の強みはいくつかある。順を追って紹介する。
フィンランドは鉱物資源が豊富だ。コバルトの生産量は、世界で見るとコンゴなどのアフリカ勢、ロシア、中国等に次いで14位だが、ヨーロッパでは唯一、20位以内に入っている。ニッケル生産量も同じで、ヨーロッパでは最大の生産量になる。ほかにリチウム、マンガン、グラファイトも生産しており、フィンランド一国でバッテリー製造に必要な鉱物は揃う。
また、鉱業・鉱物処理の規制も厳格で、採掘現場環境も管理されている。実はフィンランドは鉱山の採掘、精錬には長い伝統を持つ国なのだ。
EUは現在バッテリーに必要な鉱物資源を主に輸入に頼っているがその輸入依存度を下げることを決定している。その時に有力な鉱物資源採掘場となるのが、フィンランドだ。
ドイツの総合化学メーカー大手、BASFは、欧州初の電池材料生産施設の立地先として、フィンランドを選んだ。
BASFは、「電池材料の現地生産は、弾力性のある持続可能なサプライチェーンを確保するために重要であり、正極活物質工場をフィンランドに置くことを決めた理由の一つです」とコメントしている。
フィンランドの鉱山、精錬、製錬能力。(出典:フィンランド地質調査所、2020年)
National Battery Strategy 2025 - Executive Summaryより
フィンランドのエネルギー会社、Fortumは産業・EV用バッテリーのリサイクルに力を入れている。同社はリチウムイオン電池からの希少金属回収を今までの50%から80%以上に高めることに成功している。しかもこの技術は従来技術よりもCO2排出量が少なくてすむ。
Fortum社は2020年3月にはドイツのBASF、ロシアのNornickel(金属採掘大手)とバッテリーリサイクルに関する協定を締結している。今年5月には包括的なバッテリーリサイクルの取組みが評価され、欧州委員会が資金提供するイノベーションプログラムで190万ユーロ(約2億5千万円)の助成も受けた。これは、欧州委員会の「欧州バッテリーイノベーションプロジェクト」の一環だ。
「電池へのニーズの高まりは、膨大な量のレアメタルを消費します。もしこれらの希少金属を使い果たしてしまうと、さらなる電化や再生可能エネルギーの利用拡大ができなくなる」と、Fortum社のTero Holländer氏はフィンランドのビジネス支援機関の取材に答えている。
Fortum社の狙いは、リサイクルバッテリーのエネルギー貯蔵利用だ。システム開発大手のコムシス、Volvoと共同で開発したバッテリーソリューションの試験運用を、スウェーデンの水力発電所ではじめる。プラグインハイブリッドカーに搭載するには容量が足りなくなったバッテリーをエネルギー貯蔵庫として利用し、バッテリーと水力発電タービンの寿命を延ばすことを目的としている。バッテリー寿命のギリギリまで再利用し、それが終わるとリサイクルされる。
さらに、同社は世界で初めて、バッテリーのバリューチェーンで、トレーサビリティ(追跡可能な透明性)のしくみを構築しようとしている。
世界のバッテリーでリサイクルされているリチウムイオン電池の割合は約5%と推定されている。しかしこの割合は数年で急成長すると予測されていて、2030年にはヨーロッパだけで13万トンのリチウムイオン電池がリサイクルされる可能性がある。
この、特にEUのバッテリーリサイクルの本拠地をフィンランドは狙っているのだ。
しかし、人口530万人の小国に、そんなことができるのか? そう思う人は、一世を風靡した携帯電話、NOKIAを思い出してほしい。もしくは、リナックスのリーナス・トーバルス氏の出身地を。ともにフィンランドであることは有名であり、フィンランドは現在での産業の2割以上を電子産業が占める有数の電子立国なのだ。
そのフィンランドがバッテリーリサイクルの研究開発にかじを切り、EUのバッテリーステーション、リサイクルの本拠地に国を挙げてなろうとしている。
そして、フィンランドはサーキュラー・エコノミー(循環経済)への理解が深い国民性を持つ。
フィンランドのイノベーションファンド「Sitra」は、フィンランドの環境省、農林省、雇用経済省、企業などの主要な関係機関と協働し、フィンランドにおけるサーキュラー・エコノミーのロードマップ「循環型経済への国家ロードマップ(2016-2025)」を作成し、2016年に発表している。
それによると、2030年までにフィンランドではサーキュラー・エコノミーに関する新たな雇用が7万 5,000人を超えるとしている。
同ロードマップではフィンランドはサーキュラー・エコノミーのリーダーになるとしている。今回のバッテリーリサイクルへの取組みも、サーキュラーエコノミーの一環であり、国の姿勢として一貫したものになっている。
世界中でバッテリーのバリューチェーンが見直され、バッテリーのリサイクルにも注目が集まる。アメリカのバイデン政権もバッテリーのリサイクル産業には力を入れている。
近い将来、EUでのバッテリーリサイクル拠点がフィンランドになっても何もおかしくはない。それはEUの中での小国ながらも存在感を発揮できることにもつながっている。
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