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河野大臣の文春砲の裏側を解説 脱炭素政策も見えてくる!?

河野大臣の文春砲の裏側を解説 脱炭素政策も見えてくる!?

2021年09月07日

河野行革担当大臣が総裁選に出馬すると報じられており、仮に河野大臣が総理になるようなことがあれば、脱炭素が一層進展する流れになると前回紹介した。しかし、河野大臣に対しては週刊文春が経済産業省資源エネルギー庁幹部との会議で、河野大臣が繰り返しダメ出しする様子が伝えられたばかりだ。

筆者個人としてもかなり衝撃な内容だった。ここまで落ちたか、官僚も、と思ったほどだ。

しかし、実はこの文春砲、土俵は完全に脱炭素であった。つまり、脱炭素をめぐる政治的な背景がこの文春砲にはあると、指摘する声もある。真偽のほどはともかくとして、今回は文春が報じた背景を読み解くことで、なぜ河野総理が誕生すると脱炭素が進展するのか、より鮮明に解説していきたい。

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なぜ、河野大臣は怒ったのか

今回は①文春砲の簡単なあらましを紹介し、②文春の報道ではカットされていたであろうところを補足し、③文春砲の何が大きな問題なのかを解説した上で、④文春砲の原因となった河野大臣のやりとりがなぜ生じたのか、AERAの論調の紹介とそこについて、筆者なりの評価をお伝えしたいと思う。

まずは①文春砲の簡単なあらましから紹介しよう。

簡単に言うと、官僚が河野大臣に説明をした、その説明に納得がいかなった河野大臣がイライラを募らせた、最後に厳しめな言葉を言った、そのやりとりが録音されており、文春が入手。「河野大臣によるパワハラ」という形で世に送り出したというものだ。

その説明していたテーマというのが、脱炭素の方向性を決める「エネルギー基本計画」だった。エネルギー基本計画は、8月に素案が発表され、いま、パブリックコメントという国民からの意見募集プロセスにふされており、その調整などを行った後、最終省庁間調整があり、与党プロセスがあり、根回しありで10月に閣議決定という最終決定になる予定だ。

文春によれば、会議には河野氏のほか、内閣府の山田正人参事官と、エネ庁の山下隆一次長、小澤典明統括調整官の3名が参加していたとのこと。そして、文春が入手した音声には河野氏が山下氏と小澤氏を大声で怒鳴りつける様子が収録されていたとのことだが、なぜ河野氏は怒ったのか。

河野氏は脱炭素推進派。再エネ比率を上げるべきとの考えを持っている。

それに対して、経産省は、基本的にできない目標を掲げることには慎重。かつ、それとは別に、再エネには後ろ向き、石炭火力・原子力を推進したいという傾向があったというところはこれまでにも解説してきた。

今回、この再エネ目標をめぐってやり取りがあった。原案では、再エネ比率は36~38%程度という形で「程度」となっている。

文春では、この36~38%について、河野大臣が「程度」ではなくて「以上」にするべき、と言っている、ここについ経産官僚側が「積み上げだと程度でして」と述べた、という形で報じられている。そして、河野大臣が「程度」と「以上」の言葉の定義として「以上という日本語は36~38%を含む言葉だろ」と述べ、最後に「誰か日本語の分かるやつを連れて来いよ」と言った、と報じられている。

これがパワハラじゃないかと報じたわけだ。

ただ、これだけを切り取ると、内容がよく分からない人もいるだろう。

そこで、②文春報道ではカットされていたであろうところを補足して解説したい。というのも、筆者自身、相当何回も河野大臣に説明をした経験があり、その思考様式と仰っていることが非常によく分かるからだ。


参照:U.S. Department of State from United States, Public domain, via Wikimedia Commons

河野発言の本当の意図とは

実は、この程度や以上問題というのは、昔からよくある話だ。

例えば、2018年の段階で発表された長期成長戦略には、カーボンニュートラル目標について「今世紀後半のなるべく早く」といった表現になっているが、これは「2050年も含みうる」というニュアンスが含まれている。この手の「ニュアンスを排除していない」というようなところが官僚のよりどころになったりする。つまらない話だが、ここに相当な労力を割いて調整をしている。

今回、河野大臣がなぜ「以上」と言ったのか。経産省のエネルギー基本計画の素案では再エネは増やしていくという方向性、これが総論としてそもそも書かれている。

経産省側は、前述の河野大臣セッションのとおり、現実的に積み上げでどこまで行けるのかを計算しました。それが36~38%という数字です。そもそも、この数字自体、経産省としては相当背伸びをしており、「本当に積み上げなのか」というところはあるのだが、これが限界値です、というわけだ。

経産省側としては、「maxで36~38%」という思いが強いわけだ。そのため、そこを上限にしたい。

ただ、河野大臣は、そもそも、総論として、再エネ主力電源化などと謳って、今後も再エネを増やしていくという方針ならば、積み上げで「36~38」まで行けるのであれば、何も上限にする必要はなく、2030年時点でそれ以上いける状況ならばいけるようにすればいいじゃないか、わざわざストッパーをかける必要はないだろ、という主張をしている。

確かに、これは、正論だ。36~38%以上と書いておいて、結果、36~38に落ち着いたとしても「以上」は36~38を含むので、別に何も責任を負わなくて済む、経産省は何も責めを負うことはない、そうだろ? と言っているわけだ。

もし、本当に経産省の言っているように積み上げで「36~38」に行くならば、以上という言葉の定義上、36~38を含むのだから、以上という言葉で問題はない、さらに言えば、再エネは今後さらに増やしていくという方向を打ち出しているのだから、上限を設ける必要はない、したがって、そこに整合するのは「以上」という単語である、という理屈である。

ここだけを聞くと、読者の皆さんも、確かにそれが正しい、と思うはずだ。

しかし、この点に関しては、文春は報じておらず、絶対に切り取られた以上のやりとりがあると推測している。

まず経産省の心の中、これは推察だが、代弁すると、次のとおりではないか。

河野さんや小泉さんがいる手前、低い数字を出せないし、46%削減は発表してしまっている、36~38%という数字にしたいが、本当は36~38には届かないのではないか、限界を超える数字を出してしまっている、実際は34くらいになるかもしれない、でも、数字を出してしまった以上、この数字に根拠があるとしか大臣の手前、言えないよ、36~38程度にしておけば、下ぶれも2~3%くらい許容されるから、36~38という数字を出す代わりに、「程度」という言葉は、後の説明責任のために死守!

つまり、そもそも36~38という数字だけで相当大変だったわけで、そこに「以上」なんてつけた日には、という話だ。河野大臣の「以上」という言葉の定義が分からないわけではないのだ。

さて、この心理を踏まえた上で、どういうやりとりだっただろうか、筆者が補足をしよう。

河野大臣 「36~38という数字、これ、もうちょっとどうにかできんのか」

経産省 「こちら、積み上げてきたものでございまして、36~38が精一杯でございます」

河野大臣 「本当にそれだけか。この数字じゃ恥ずかしいぞ。どうにかならんのか」

経産省 「こちら積み上げでございまして、上限目いっぱいで出させていただきました」

河野大臣 「でも、再エネは主力電源化するんだろ。2030年以降も、再エネ比率は増大する考えなんだよな」

経産省 「はい、そのとおりでございます」

河野大臣 「じゃあ、仮に日本の脱炭素が順調に進展して、36~38を結果的に超えたとしても、それはいいんだよな」

経産省 「はい、喜ばしいところでございます」

河野大臣 「だとしたら、程度ではなくて、以上という言葉がいいだろう。36~38以上にしよう」

経産省 「いえ、大臣、36~38が積み上げギリギリでございますので、程度でお願いします」

河野大臣 「いや、ギリギリということは、36~38までは行くということだろ。俺は「36~38より大きい」とは言ってない。36~38を含む「以上」という言葉なら、君らの説明にも合致するはずだ」

経産省(内心、いやぁ、36~38はいかないんだよと思いながら)「ですから、積み上げが36~38でございますので、程度でお願いします」

河野大臣 「以上の言葉の定義も分からんのか。日本語分かるやつ連れてこい」

これで分かっていただけたのではないか。最後の河野大臣の言い方は置いておいて、極めて自然な流れだ。経産省の思いの内側も補足すると、やりとりそのものはかみ合っていないものの、心理上はかなりかみ合っていることが分かる。

しかし、そもそも、この報道には、このやり取りの是非以前に大きな問題がある。そこで、③文春砲の何が大きな問題なのかを解説したい。


参照:U.S. Department of State from United States, Public domain, via Wikimedia Commons

文春砲の何が問題なのか

もはや脱炭素以前の問題として、大臣と官僚のやり取りが録音され、それが流出していることが問題だ。公文書管理法があるので、このリモートでの大臣とのやりとりが記録されたこと自体はそれが「公文書」であるとの位置づけで、保管されたことについては、説明がつく。何より、そのルールに則ると、全てのリモート会議は、官庁は意思決定過程のものとして1年未満の廃棄としない限りは保管義務が生じるとさえ、思っていた。

それを流出させていいのか、これはまったく別の問題だ。

これは、国家公務員法違反事案じゃないかと個人的には思うところだ。

国家公務員法第100 条には次のように書かれている。

「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない」

具体的な事実自体をもらさずに、経験則などを語る分には問題ないし、公開されている情報から、それを経験に基づいて分析する、紹介するなどは可能だが、情報そのものを外部に漏洩をする、しかも、それが大臣とのやりとりとなると、これはこの法律の適用範囲内だと考えられる。

人事院にもこの条項について「外部に漏れると国や個人の利益を著しく侵害する事項や、事前に内容を漏らすことが行政の遂行を阻害すること等は、秘密にしなければならない」と規定している。

脱炭素の政策の意思決定で、閣僚レベルとのやりとりを、こともあろうか文春に流出する、これ自体、そもそも国家公務員法違反ではないか。

もちろん、それではパワハラがあった場合、どうしようもないではないかという指摘はあると思うが、パワハラはパワハラで相談窓口もあるし、警察や弁護士に相談することは、本当にパワハラ事案であれば可能だ。

ただ、文春に売る、というのは漏洩、そして、それによる世論誘導のためでしかない。

このリモート会議に参加できたのは、メモ取り要員で若手もいたのだろうが、いずれにしても、それを漏洩させた人間のした行為は、そもそも官僚制度の根幹を揺るがす問題だと思っている。

脱炭素以前に、大問題だ。

さて、その上で、この漏洩事案について経産省OBの古賀氏がAERAにて経産省側の考えを述べているので、④文春砲の原因となった河野大臣のやりとりがなぜ生じたのか、AERAの論調の紹介とそこについての筆者なりの評価をお伝えしたいと思う。

文春砲の原因となったやりとりはなぜ生じたのか

古賀氏は経産省と河野大臣、そして、河野大臣直轄の有識者会議「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(TF)」の間では、1年近く議論が行われてきたことに言及。そして、TFとの議論はネット配信されたが、古賀氏が見たところ経産官僚は論戦で完敗、ネット生配信で毎回恥をさらした、と評価している。

具体例として、容量市場に言及。古賀氏は「大手電力会社の石炭火力に多大な補助金を与え、逆に再エネ電力供給業者に事実上の死刑宣告になるような多額の資金拠出を強制する制度」と評し、河野氏は、即時廃止または抜本的改革を主張したものの、経産省はこれを無視、エネ基最終案にも即時抜本改革さえ盛り込まなかったとして、それでは、河野氏が怒るはずだ、とした。

また、原発についても、経産官僚は、電力利権と安倍晋三前総理や甘利明税調会長などの利権政治家の側に立ち、国民の利益を全く無視していると古賀氏は指摘。河野氏が、理不尽な内容のままなら閣議で反対すると言ったのは当然のことであって、それがどうして「脅し」になるのか、意味不明であるとした。

さて、ここまでの古賀氏の評価だが、おおむね、筆者も同様ないし近い見方をせざるを得ないと思う。こうしたこともあるから、日本の脱炭素が停滞したというところも付け加えたいし、そうしたところは、過去のなぜ日本の脱炭素転換は遅れたのかで解説している。

そして、古賀氏の分析は経産省の流出の意図に及ぶ。

経産省が、内部調整中のエネ基の文言を一部週刊誌だけに漏洩して、「個人攻撃」で河野氏を叩こうとしたのは、彼らの「政策論」が世の中で通用しないと悟ったからであり、負けを認めたということだ、と。

さらに、官僚と族議員の利権に容赦なく切り込む河野氏の敵は、利権擁護派の官僚と自民党族議員全体に及ぶとして、そうした連中は、週刊文春を味方につけた経産省とともに、かさにかかって河野叩きに出るはずである、したがってマスコミによる河野氏への人格攻撃は、その報道の意図とは関係なく、原発維持拡大などの利権擁護派に利用されていることを国民はよく理解しておかなければならないと忠告をしている。

ここについては、可能性は否定できないが、ただし、これが仮に真実だとすれば、先ほどの国家公務員法違反も含めて、真に官僚機構を腐らせる大・大・大事件である。

利権にまみれた人間、それを守るために、公務員としての倫理観はおろか、法治国家たる日本において法すら無視して、利益誘導に走ったということだ。

この点に関しては、さすがに筆者は違うと思っている。

仮にこれが事実なら、上層部が指示をして、録音を流出させたということだと思うが、経産省はさすがにそこまで腐っていないのではないか。上層部は、政治筋から指示されて、忖度をして、ということも考えられるが、さすがに、それはと断るレベルにあると信じたい。

事の真実は分からないが、経産省のモラルの低い一部の人間が、これは文春に売れるぞ、といってリークした、というところじゃないかと個人的には思っている。

しかも、そのリークも、タイトルこそ鮮明ではあったものの、そもそもの構図が正しい論理構成の河野大臣が、余りに説明がかみ合わない部下にイライラした、というよくある構図という受け止めを世間もしているように見受けられるので、功を奏していない。

いずれにせよ、明らかになったのは、経産省の再エネに関する姿勢と、そして河野氏の求める脱炭素増、これは明らかになったかと思う。

いまは、河野大臣は閣僚の一人として、閣議で反対するという権限行使にとどまるが、総理になるとなれば、まったく話は別。

経産省も、また別の政策、より脱炭素が推進されるような政策を立案し、プレゼンしていかないといけないだろう。それに、ただでさえ、忖度のある文化だ。かつ、河野氏の年齢を考えれば、今後がある官僚で、処世術がある人間は、態度を変えるということも出てくるだろう。上層部は、自民党重鎮との付き合いにしがみつくかもしれないが、中堅、若手はいま頭で計算しているだろう。

それらも政策に出てくるのではないかと思っている。

もちろん、そんな処世術などではなく、国益をまっすぐ考えてくれる官僚もいる。本当はそういう官僚が出世し、河野大臣ともかみ合う内容で喧々諤々議論をする、そういう風になるべきだと思う。少なくとも、筆者がお仕えした上司は、そういうことができる立派な上司だった。河野大臣ともしっかり政策議論をしていた。そういう上司がいたことを、そしていまでも国家を支えてくれていることを、筆者は誇りに思っている。

そこで願いを込めて今回はこの一言でまとめたい。
『日本よ、正しくあってくれ』

ヘッダ写真:Kuhlmann/ MSC, CC BY 3.0 DE, via Wikimedia Commons

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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