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パンデミックによってラッシュアワーは公共交通機関の「究極の問題」へと変わる

パンデミックによってラッシュアワーは公共交通機関の「究極の問題」へと変わる

2020年09月10日

新型コロナウイルスと気候変動問題を考えたとき、交通分野はエネルギー供給とはまた異なる側面を持つ。公共交通機関の利用の減少と自家用車の利用拡大が進めば、CO2排出量は増えるからだ。Clean Energy Wireのソーレン・アメラング(Sören Amelang)記者は、ドイツ航空宇宙センターのバーバラ・レンツ(Barbara Lenz)氏に公共交通機関とパンデミックについてインタビューを行った。環境エネルギー政策研究所(ISEP)研究員の古屋将太氏の翻訳でお届けする。

公共交通とクリーンなモビリティの危機?

ドイツ航空宇宙センター(DLR)・交通研究所の所長バーバラ・レンツ氏は、トラム(路面電車/軽電車)やバス、地下鉄のピークタイム(ラッシュアワー)にソーシャルディスタンスをとることが、都市の公共交通機関に巨大な問題を生み出すことになると述べています。しかし、同時に彼女は、恒常的に人々がコロナウイルスへの感染拡大を恐れて公共交通機関の利用を思いとどまるようなことにはならないだろうという希望をもっています。

また、DLRの調査によって明らかになった自家用車利用の急激な上昇は、クリーンなモビリティへの転換に対する長期的な停滞というよりは、一時的な後退だろうとレンツ氏は見ています。

全体として、今回の危機は、私たちがどのように都市を移動するか、また、どのように自転車の利用を活性化するかについて再考する機会を提供しています。ただし、そうしたイニシアティブはまだまだ断片的なままであるということも、レンツ氏は述べています。

写真:S-Bahn Berlin GmbH / D.Ulrich

閑静な時間の中で、暮らしやすい都市を考える

―コロナ危機は持続可能な都市モビリティへの転換に対する後退だと思いますか、それとも、新しい機会を示しているのでしょうか?

バーバラ・レンツ氏:全般的には、遅延をもたらしていると思います。コロナ危機以前は、私たちは公共交通機関が、特に大都市において、モビリティ転換の背骨になっていくであろうと考えていました。しかし、残念なことに、公共交通機関はコロナ危機によってもっとも大きな打撃を受けてしまいました。

ありがたいことに、コロナ危機の間でも、気候変動対策やモビリティ転換の問題は忘れられていないという印象をもっています。あなたのようなジャーナリストがこのトピックについて話したいという事実そのものを通じて、パンデミックは転換を少し遅らせているだけで、大幅な停滞をもたらしているわけではないという希望をもつことができることを感じます。

一方、いくつかのポジティブな側面もあります。コロナ危機は、交通量の減少によって生じた新たな都市の空間を、私たちが発見する機会を与えてくれます。私は、この閑静な時間のなかで、将来の暮らしやすい都市とはどういったものなのかについて、なにか学ぶことができればと期待しています。

コロナ危機は、平常時では決して短時間にできなかったことを可能にしています。ひとつ例をあげるとすれば、通りでの Car-Free Sundays(日曜日に自動車利用を控えるイベント)の増加です。このコンセプトは新しいものではなく、数年前からパリで実施されていて、ミュンヘンでも昨年から実施しています。

もうひとつの例は、多くの都市の主要道路でのポップアップ式の自転車レーン(一般車道に取り外し可能な標識などを設置することによって指定する自転車レーン)です。コロナ危機以前のかたつむりのようなペースに比べれば、これらの取り組みの延長線上に真のモビリティ転換に向けた大きなステップが形成されていると言えます。

ただし、これらはポジティブな展開ですが、あまりにも断片的であるとも言えます。しっかりとしたマスタープランがないのです。

私たちに必要なのは、都市全体もしくは、少なくとも街区全体で新しいモビリティを発展させる、よりシステマティックな動きです。そういったプランの代わりに、私たちはあちこちで幼い子供の遊びを見ているような状況です。それらはかわいく見えますが、私たちはもっと大きなスケールの取り組みを必要としているのです。

バーバラ・レンツ氏

必要なのはネットワーク化された自転車レーン

-では、この状況に対し、どのように進歩していくべきだと考えますか?

レンツ氏:例えば、あちこちで少しずつ自転車レーンを設置するのではなく、適切な自転車レーンのネットワークが必要です。単独のポップアップレーンではなく、適切なポップアップネットワークが現実を前に進めます。私たちは、歩行者や自転車を増やすカギは本物のネットワークであるということを随分前から知っています。そして残念なことに、現在にいたるまで、それは実現していません。

ベルリンのポップアップ自転車レーン/写真:ADFC

調査では、コロナ危機の間に自転車の人気が高まっていたことが明らかになっています。こうした進展は恒常的なものになるのでしょうか?

レンツ氏:私は、都市内の短距離移動はこのままの形で続いていくと想像しています。自転車は個人の輸送モードなので、公共交通機関よりも「高い自由度」があります。

このトレンドはコロナ危機以前からはじまっていて、いまも拡大しています。私たちの調査では、回答者の9%が新しい自転車の購入を検討していると答えています。

彼らの半数は、電動自転車の購入を検討していますが、それには2つの目的があります。電動自転車は、これまでサイクリングは大変だと考えていた人たちにも自転車の利用を可能にします。また、電動自転車であれば、長距離通勤・通学の選択肢にもなります。

減少する公共交通機関の需要は長期的なものか

―人々が感染を恐れることから、公共交通機関に対する需要は長期的に減っていくことになるのでしょうか?

レンツ氏:その問いに答えるには、水晶玉をのぞき込まなければなりませんね。

現在、私たちにわかっていることは、人々が自家用車や自転車の利用とは対照的に、公共交通機関を利用することにあまり快適さを感じていないということです。私たちは、これは恒常的な変化なのか、それとも一時的なものなのかを明らかにしようとしています。

このトピックについて、数週間前に調査をおこないました。この調査から自家用車の復活が明らかになりましたが、6~8週間後に事態がある程度正常化した段階で2回目の調査をおこなう必要があります。

その結果次第で、公共交通機関の快適さに対する感覚がこのまま続くのか、もしくは大幅に減っていくのか、もっと自信をもって答えることができるはずです。

興味深い点としては、公共交通機関を快適に感じていないことが、すべての公共交通機関のモードに同じレベルで影響を与えているわけではないということです。トラム、地下鉄、その他の都市鉄道システムは、非常に強く影響を受ける一方、人々は急速にバスに回帰しているようなのです。

―バスやトラム、地下鉄でソーシャルディスタンスを実施する場合、公共交通機関は大幅に乗車人数を減らさなければなりません。また、感染が終息するには長い時間がかかります。

レンツ氏:まさにその通りです。これは公共交通機関にとって究極の問題です。乗車人数は少なくともコロナ危機以前のレベルまで早く戻ってほしいところですが、人々はより物理的な距離をとらなければならないので、戻るのは明らかに不可能です。

この問題は、特にピークタイムで先鋭化します。ラッシュアワーは、本当は私たちの問題であって、公共交通機関の問題ではないのです。みんなが同じ時間に職場や学校に行くときにだけ、深刻な問題になるのです。

―この問題を解決するアイディアは何かあるのでしょうか?

レンツ氏:いいえ、私はそのアイディアをもちあわせていません。いまのところ、この問題を克服する方法を知っている人は、どこにもいないのが現実です。

もちろん、車両や運転手を増やし、あるいは既存のインフラを延長して、新しいラインをつくることはできます。しかし、これらのアプローチは迅速に問題を解決するものではありません。新しいバスや新しい鉄道ラインを短期間で発注することはできないのです。

これらの方法は多大なコストもかかり、公共交通機関は現時点ですでに莫大な赤字を抱えています。短期的な選択肢としては、頻度を高めることしかありません。需要が集中する場所で、より短いインターバルで、より多くの車体を動かすということです。それによってピークタイムを引き伸ばすことができればいいのですが。

在宅勤務は定着するか

―コロナ危機によってホームオフィスが増えたことが、長期的には混雑の緩和につながるのでしょうか? 危機が過ぎ去っても人々は自宅で仕事をすることを支持し続けるでしょうか?

レンツ氏:ホームオフィスの利用を増やすことでターゲットを絞り、ピークタイムを減衰させることは、まさに密度を下げることに貢献するでしょう。

私たちの調査では、労働者の3分の1から4分の1は自宅で仕事をすることが可能であり、また、ホームオフィスに対して圧倒的にポジティブな意見が出されています。多くの人々が自宅で仕事をすることが可能であると、今回はじめて気づき、また、それが快適であるとわかり、ずっとではないにしても、より定期的な実践に向けて備えています。

もしこれが大規模かつシステマティックに実行されるのであれば、それは非常に大きな進展となるでしょう。しかし、このアプローチは、企業や行政、その他の主体の間で調整が必要であり、それは決して簡単ではありません。

―コロナウイルスの時代は、カーシェアリングやライドシェアリングのような新しいモビリティのフォーマットに終焉を告げると思いますか?

レンツ氏:現時点では、シェアされるあらゆるモノゴトは、個別に利用するよりも「気持ちのよさ」が格段に低いのは事実です。しかし、2~3ヶ月後も私たちがシェアリングのコンセプトに疑問をもっているのかどうか、明言することは不可能です。

―モビリティに対するパンデミックの影響をやわらげる方法について、ドイツでの政治的討論の大部分が新車購入のインセンティブに集中しています。どういった代替案や追加案を推薦しますか?

レンツ氏:間違いなく公共交通機関への大規模な財政支援が必要であり、これに疑問の余地はありません。問題は、使える資金は限られているということです。

現在、公共交通機関に対する2つの選択肢が議論されています。

ひとつは、年間の利用料金を支払えば、すべての公共交通機関を使えるようにするというもので、ここにはいくつかのシェアリングサービスも含まれます。
もうひとつは、シンプルに公共交通機関を無料で使えるようにすることです。これは、国が公共交通機関の総コストを公的資金で支払うことを意味します。現時点で、ドイツの公共交通機関に対する補助金は、総コストの3分の1以下に過ぎません。

しかし、それらの選択肢のいずれかが、どの程度モビリティ転換を前に進めるのか、はっきりしません。

コロナ危機の1年前に、人々が公共交通機関へ支払う必要がなくなった場合、どういったことがおこるのか、私たちはモデルをつくって研究しました。

自動車を使っている人の約10%が公共交通機関に切り替え、歩行者と自転車利用者も一定数が公共交通機関に切り替えるという結果でした。10%はあまり多くないと思えますが、実際はこれによってピークタイムの問題を悪化させてしまうでしょう。

公共交通機関はピークタイムの問題に対応することができないため、1年前の時点でも大きな問題が投げかけられていました。ソーシャルディスタンスのために乗車人数を減らさなければならない現在ではなおさらです。

繰り返しになりますが、本当の問題はピークタイムであり、公共交通機関は他のすべての課題に対応できます。本当の課題はピークタイムの需要をフラットにすることなのです。

(インタビュー:ソーレン・アメラング(Sören Amelang)Clean Energy Wire記者、Translated:古屋将太)

古屋将太
古屋将太

認定NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)研究員。デンマーク・オールボー大学大学院博士課程開発・計画プログラム修了、PhD(Community Energy Planning)。地域参加型自然エネルギーにおける政策形成・事業開発・合意形成支援に取り組む。著書に『コミュニティ発電所』(ポプラ新書)。共著に『コミュニティパワー エネルギーで地域を豊かにする』(学芸出版社)。

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