自然災害により停電した際、蓄電池は非常用電源として機能します。また、蓄電池は再生可能エネルギーの普及にも密接に関係しており、太陽光発電や風力発電との併用に期待が寄せられる設備です。ここでは、蓄電池の役割や種類、蓄電池を選ぶ際のポイントについてご説明します。
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蓄電池は、充電して繰り返し利用できる電池(二次電池)です。蓄電池は家庭用蓄電池と産業用蓄電池に大別され、それぞれ以下のような特徴を持っています。
項目 | 家庭用蓄電池 | 産業用蓄電池 |
設置場所 | 住宅 | ビル・店舗・工場・発電所 |
電池の種類 | 主にリチウムイオン電池 | リチウムイオン電池やNAS電池 |
用途の一例 | 非常時の利用、光熱費の削減 | 事業継続、発電所の出力安定化 |
それぞれ規模によって価格帯は異なるものの、家庭用蓄電池は50~250万円程度、産業用蓄電池は数百万~1,000万円程度の導入費用がかかります。
住宅に設置される蓄電池は家庭用蓄電池と呼ばれ、台風や地震といった災害により停電した際、家電や携帯電話に給電するための非常電源として利用できます。また、電気料金の安い夜間に蓄電池へ電気を溜めておき、日中の光熱費削減を目的として導入されるケースもあります。
ビルや店舗、工場や発電所などに設置される産業用蓄電池は、停電時の事業継続や発電所の出力を安定させるために利用することが可能です。特に停電によるシステム停止によって人命、多額の金銭や信用に傷がつく場合、産業用蓄電池は非常用電源として重要な役割を担います。
詳細は後述しますが、産業用蓄電池は太陽光発電や風力発電の出力安定化にも利用できます。
蓄電池の種類は複数あり、それぞれに異なる特性があります。上から4種類はすでに広く利用されており、一番下のレドックスフロー電池は発電所との併用にふさわしい蓄電池として期待されています。それぞれ、どのような用途に使われており、メリット・デメリットは何かを解説します。
鉛蓄電池は、電極に鉛を利用した蓄電池。蓄電池のなかではもっとも歴史が長く、1859年に発明されてから現在まで使われ続けています。充放電のエネルギー効率が他の蓄電池より低いものの、コストが安く蓄電池としての寿命も長い点が特徴です。鉛蓄電池は、主に自動車のバッテリーとして利用されています。
ニッケル水素電池は、正極にオキシ水酸化ニッケル、負極に水素吸蔵合金、電解液にカリウムのアルカリ水溶液を利用した蓄電池。小さな容量であっても大きなエネルギーを生み出すことに長けており、モバイル機器やハイブリッド自動車のバッテリーとして使われています。
リチウムイオン電池は、正極にリチウム含有金属酸化物、負極に炭素材料、電解液に有機電解液を利用した蓄電池。大容量化と小型化を両立できるため、モバイル機器に使われています。家庭用蓄電池は、リチウムイオン電池を用いたものが多い傾向です。
NAS電池(ナトリウムイオン電池)は、正極に硫黄、負極にナトリウム、電解質にファインセラミックスを利用した蓄電池。日本ガイシ株式会社によって生産されており、メガワット級の電力貯蔵システムとして世界で初めて実用化に成功しました。
エネルギー密度が高いため蓄電容量に対して体積が小さく、鉛蓄電池の約3分の1とコンパクト。常温では動作せず、作動温度が300℃であるため加温が必要であるものの、基本性能が高いため注目を集めています。NAS電池は、主に産業用蓄電池として使われます。
レドックスフロー電池は、バナジウムなどのイオンの酸化還元反応を利用した蓄電池。不燃・難燃材料を使用しており、常温での運転が可能であるため安全性に優れています。また、電極や電解液の劣化が少ないため寿命は長く、他の蓄電池とは異なり充放電の回数に制限がありません。
昨今、国内外で化石燃料の利用を減らすため、再生可能エネルギーの導入が進められています。しかし、出力が不安定になりやすい太陽光発電や風力発電を大量に導入すると、電気の品質(周波数)の乱れを招く懸念があります。
上記の理由から、電力系統を安定させる方法として、再生可能エネルギーと大型蓄電池の併用が注目されてきました。具体的には、太陽光発電や風力発電によって作られた電力を一度蓄電池に充電してから、より安定した出力で放電するのです。
大容量の蓄電部を有しているNAS電池やレドックスフロー電池は、再生可能エネルギーの電力貯蔵設備としてふさわしいため、電力系統の安定を目的とした活用に期待が集まっています。
蓄電池戦略プロジェクトチームが公表する資料によると、蓄電池の寿命はおおむね5~15年前後です。
*経済産業省 蓄電池戦略プロジェクトチーム「蓄電池戦略」
ただし、実際の寿命はメーカーや製品によって異なるため、上記は目安として参考にする程度にとどめ、導入検討時にあらためて公称の寿命を確認することをおすすめします。蓄電池の故障の原因としては、初期不良や小さなショート、落雷や消費電力の大きな機器との接続などが挙げられます。事前の回避や原因特定は難しいため、故障が判明した場合は施工店に連絡してください。
蓄電池の導入を検討するとき、選定のポイントは4つ挙げられます。家庭用蓄電池、産業用蓄電池のいずれを導入する場合であっても、下記を確認しておくよう推奨します。
基本性能が優れていることも重要ですが、カタログスペックからは分からない情報もあります。ある環境下では公称通りの性能が発揮されなかったり、顧客対応や保証内容に不足を感じたりするケースが起こり得るからです。蓄電池の場合、数百万円の支出となるため、後悔のない選択をするために前もってメーカーの実績や評判を調べることをおすすめします。
使用可能サイクルは「何回、充放電を繰り返せるか」を示すものです。蓄電池の寿命ともいえるでしょう。100%蓄電し、0%まで使い切ったときを1サイクルとして数えます。基本性能が類似している蓄電池同士でも、メーカーによって使用可能サイクルに違いがあります。蓄電池は高額であり、長期的に利用する前提で購入するため、費用対効果の観点を持って使用可能サイクルにも注目すべきでしょう。
家庭用蓄電池における光熱費削減や、産業用蓄電池における発電所との併設など、蓄電池の常用を想定する場合は特に蓄電容量が重要視されます。蓄電池から電気を供給する際、蓄電容量と利用電力量によって蓄電池を利用できる時間が決まるからです。
たとえば、夜間に蓄電池へ「昼間に利用する電力の50%相当」を蓄電することが目的だと仮定します。この場合、昼間に利用する電力の50%相当を把握し、それだけの電力量を蓄えられる蓄電容量を備えた蓄電池を選ぶ必要があるのです。
くわえて、実際に蓄電ができる電力量は「実効容量」と呼ばれる容量であり、蓄電容量はあくまでカタログ上の数値である点に注意しなければなりません。蓄電池を選定する際は、実質的な蓄電容量である実効容量の数値を確認しましょう。
定格出力は、一度に出力可能な電力の大きさのことです。たとえば、非常時に電力供給を継続したい機器が3つあり、それらの消費電力が合計3,000Wであれば、同時利用には少なくとも3,000Wの定格出力が必要です。
ここでは、代表的な蓄電池メーカーを8社ご紹介します。
京セラは屋内外、家庭用・産業用を問わず複数の蓄電池を販売しています。家庭用に関しては小型タイプから大容量タイプまで用意されているため、用途に応じて多くの選択肢から蓄電池を選べます。
シャープは蓄電池やパワーコンディショナ、電力モニター等がセットになった「クラウド蓄電池システム」を販売しています。太陽光発電システムやエネルギーマネジメントシステム(HEMS)の販売も手掛けています。
パナソニックは、太陽光発電用・蓄電池用のパワーコンディショナを一体化し、効率良く電気を活用できる「創蓄連携システム」を提供しています。単体で利用できる蓄電池も販売しており、家庭用蓄電池と産業用蓄電池、いずれも充実したラインナップが用意されています。
東芝は、屋外・屋内用の蓄電池である「太陽光発電ハイブリッド蓄電システム」を販売しています。
以前はエネグーンと名のついた蓄電システムを販売していましたが、エネグーンシリーズはスタンダードタイプ・ハイブリッドタイプのいずれも販売終了となっており、蓄電池のラインナップは縮小しています。
テスラは、電気自動車や太陽光発電、蓄電池を販売するアメリカのメーカー。テスラが販売する蓄電池「Powerwall」は凹凸の少ないシンプルな外観となっており、国内メーカーの蓄電池にはないデザインが魅力です。
CATLは、車載電池を扱う中国のメーカー。2020年には「16年間稼働し、電気自動車を200万km走行させられるバッテリーの生産準備が整った」と公表しており、世界中の大手自動車メーカーとパートナーシップを結んでいます。
サムスンは、家電や電子部品等を生産販売する韓国のメーカー。スマートフォンやディスプレイなど、多くの分野で高いシェア率を誇っており、電気自動車や太陽光発電用の蓄電池生産も手掛けています。
LGは、韓国の総合家電・情報通信メーカー。2020年にはLGグループから、子会社のLGエネルギーソリューションが発足しており、蓄電池の分野により注力するようです。
蓄電池の用途は多岐にわたりますが、いずれの場合も導入時の重要な選定ポイントは4つです。導入検討時は、ぜひ本記事を参考にしてください。
また、蓄電池は非常用電源としての役割のほか、再生可能エネルギーによって発電した電気を溜め、電力系統へ安定的に送電する役割を担います。今後、再生可能エネルギーを主要電源化するにあたり、重要な存在となるため一層の期待が寄せられます。
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