今回から電力市場のレポートを開始する。本シリーズでは、電力市場から見える業界の変化、制度の影響などを追っていく予定である。
初回である今回は、2018年度の電力市場からエリアの特徴を紐解き、同年度の電力市場の価格を総括する。
卸電力市場の基本
まず、簡単に電力市場について説明したい。
電力市場の正式名称は「卸電力市場」と呼ばれ、そのほぼ全てを一般社団法人 日本卸電力取引所(JEPX)が運営している。JEPXは2003年開設、2005年から電力取引を開始した。
取引には誰でもが参加できる訳ではなく、主に登録された発電事業者(発電所による発電を行う側)と同じく登録小売電気事業者(電気を顧客に売る側)のみが参加できる電力取引所である。
一言で電力市場と言っても、用途によって市場は複数に分かれる。先物市場以外は現物となる電気の取引が前提となる。その中でも中心的な存在となるのが「スポット市場」と呼ばれる一日前市場である。
スポット市場は、国内電力市場で場における約定量の95~98%程度を占め、最も取引量が多い。国内電力消費量をみると、全体の30%を占める(※)までに取引量が拡大している。国内の電力価格を語る上で重要な位置付けとなるのがお分かり頂けると思う。
本シリーズでは、基本的にこのスポット市場にフォーカスして、お話をしていきたいと思う。
*第35回 制度設計専門会合 ~今後の中期的な卸電力市場政策について~ 電力・ガス取引監視等委員会 PDFスポット市場からみえてくるエリアごとの違い
さて、このスポット市場では「システムプライス」と呼ばれる全国の売買から算出した指標価格と、「エリアプライス」と呼ばれる9エリアの価格がある。
エリアプライスの9エリア
- ・北海道
- ・東北
- ・東京(関東)
- ・中部
- ・北陸
- ・関西
- ・中国
- ・四国
- ・九州(※)
(※ 沖縄は系統が他エリアと繋がっていないため、卸電力取引所が存在しない)
これらの価格の成り立ちについての詳細は他に譲るが、シングルプライスオークションという約定方法で、30分1コマ、1日48コマの価格が全国+9エリアで日々生まれている。
前述の通り、システムプライスは指標価格であるため、実際の取引価格ではない。エリアプライスこそが、実際の市場参加者が支払う、または受取る価格となる。
つまり、エリアプライスが各エリアにおける小売電気事業者の調達単価となる。当然、市場から電気を買う事業者にとっては、収支を左右する重要な数字だ。
エリアプライスはエリアの傾向として以下の大きく3つの価格帯に分けられる
- 1. 中部以西の西日本エリアである関西~九州
- 2. 東北・東京エリア
- 3. 北海道エリア
下のグラフは、2018年度の各エリアの代表として関西、東京、北海道をピックアップし、1年間における各時間帯の平均価格を比較したものである。
縦軸:円/kWh 横軸:時間帯(全48コマ 年度ごとの平均)
エリアごとの価格差要因は設備容量の制限
傾向として、2018年度では北海道>東京>関西エリアの順に価格が高いことが分かる。この価格差を生み出す原因は、50Hzと60Hzの周波数を変換するための設備(FC:周波数変換所)、北海道-本州間で送電する設備(連系線)の容量による影響が大きい。
なぜならば、これらの設備容量に制約がなければエリアを跨ぐ電力量に上限がなくなり、全国で偏りのない売買が成立するためである。その結果として、システムプライスと概ね同一になる。価格差を小さくするには、設備増強をすれば良いのだが、何千億円単位の費用と10年前後の期間を要する大事業となるため、簡単に解決できる訳ではない。
しかし、エリアを跨ぐ設備容量の制約があったとしても、各エリアの市場参加者が同じような振る舞いであれば価格差は殆ど生じないはずである。
つまり、電気を売る量や買う量のバランス=需要と供給のバランス、それらの値付け(売買時の指値)が同様であれば、エリア価格差は小さくなるはずだ。
次に、エリア毎の価格の特徴を見るため、2016~2018年度の平均価格を示した。
2018年7月に最高値をつけるも、落ち着いてきた西日本エリア
関西エリアでは、2017年度の昼間の一部時間帯で価格が最大14円/kWh程度となっていたが、18年度は最大12円/kWh程度、東京や北海道エリアに比べて価格が低い水準である。
九州を除く西日本エリアでは、2018年7月下旬に16~18時頃の価格が100円/kWhと日本の電力市場において最高値となったことで注目を浴びたが、年間を通すと比較的落ち着いたエリアと言えそうだ。
縦軸:円/kWh 横軸:時間帯(全48コマ 年度ごとの平均)
東京エリアは関西エリアに比べ夕方の価格が高い傾向にある。この時間帯は一般的に太陽光発電が殆ど期待できないことに加え、家庭を中心に需要が伸長する。そのため、需給がタイトになることで価格が上昇しやすい。
特に東京エリアではこうした傾向が強くなることが窺える。2016年度に比べると2017年度以降は夜間の価格が上昇しているが、夕方の価格については上昇傾向に大きな変化は見られない。
縦軸:円/kWh 横軸:時間帯(全48コマ 年度ごとの平均)
価格が高く、変動も大きな北海道エリア
北海道エリアは、全エリアで最も価格が高い傾向にあり、その価格の変動も大きい。価格の高い夕方の時間帯は2016年度平均では15円/kWhであったが、2018年度には20円/kWhを越えている。北海道エリアでは、特に2018年度では価格の上昇が著しい。
縦軸:円/kWh 横軸:時間帯(全48コマ 年度ごとの平均)
今回のまとめ
以上のように、各エリアで大まかに見ても価格傾向の違いが見て取れたと思う。この価格の違いは、エリア毎の発電所の構成、市場参加者の特徴など種々の事情があるためだと思われる。
本シリーズでは、これらの地域エリアに分けた上で、電力市場の制度や再生可能エネルギー導入の影響、各プレーヤー(市場参加者)等から見える動向や特徴などを、可能な限り平易に分析・解説していきたいと考えている。お付き合いを頂けたら幸いである。