地球温暖化の話題では、温暖化否定派、懐疑派の意見がネットに出てくることがある。温暖化は人的活動によるものではなく、自然現象の一部であり、心配はないというものだ。大規模な世論調査・意識調査などから、温暖化の理由を人は「本当は」どう思っているのかが見えてくる。ニューヨーク在住のジャーナリスト、南龍太氏のレポートをお届けする。
地球温暖化への世界的な意識は、変化しているか
地球温暖化の主要因は人間の活動に伴う二酸化炭素など温室効果ガスというのが通説となっている一方、一部には懐疑論もあり、時に論争を呼ぶ。特に、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんらが、「企業や政府をはじめ、大人たちは温暖化を食い止めるべくただちに行動すべきだ」、と主張するたび、ネットやツイッターで賛否が巻き起こる。反対派の間には「温暖化は自然現象の一環だ」との主張も根強い。そこに感情論も入り交じり、一部には匿名で誹謗中傷さえはたらく。「自分たちこそがサイレントマジョリティー(物言わぬ多数派)だ」と豪語する立場も散見される。
多数派、少数派、それぞれはどのような主張なのか。科学者や世論の趨勢はどうだったのか。議論には同じ前提が欠かせない。感情ではなく、冷静に議論すべく、気候変動をめぐる認識について今一度、日本を含む各国の調査をひも解いてみる。
各国・各機関が人為説を是認
「気候システムに対する人間の影響は明らかである」
そう強調するのは、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書、最新の2013年版だ。「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為に基づく温室効果ガス濃度の増加によってもたらされた可能性が非常に高い」とした2007年の第4次評価報告書から、さらに踏み込んだ内容となっている。2020年代前半に作られるであろう、第6次評価報告書が待たれる。
国連のこうした主張の背景には、数々の科学的裏付けや論拠がある。権威ある国際組織や各国の研究機関も同趣旨の主張を掲げる。
アメリカ航空宇宙局(NASA)は、「過去1世紀にわたる温暖化傾向は、人間活動に起因していることはほぼ間違いない」という見解でほとんど(97%以上)の科学者が一致していること、これは査読付きの科学ジャーナルに掲載された複数の研究成果が示していることを挙げ、「世界の主要な科学機関もほとんどこの立場を取っています」と、1880年以降の気温変動のグラフを交えて公式に発表している*1。
NASA「Scientific Consensus: Earth's Climate is Warming」また、米政府機関のアメリカ地球変動研究プログラム(USGCRP : U.S. Global Change Research Program)も「人間が引き起こしている温暖化の最大の根源」であるCO2濃度は産業革命以前(1750年頃)に比べ約40%増加したといい、「人間の諸活動に伴う温室効果ガスの排出は今後何十年、さらには何百年にわたって地球環境に影響を及ぼし続けるだろう」と見通している。
NASAや米エネルギー省を含む政府機関、大学、企業など50を超える研究者が共著者となってまとめた、アメリカ海洋大気局(NOAA)の科学報告書*2は、「20世紀半ば以降に観測されている温暖化の主因は、人間の活動、特に温室効果ガスの排出である可能性が極めて高い。他には説得力ある説明はない」と説いた。トランプ大統領も2017年にこの報告書を承認している。
イギリス気象庁もウェブサイトで「気候変動の要因」(Causes of climate change)*3と題し、「論拠は明らかだ。気候変動の主因は、石油やガス、石炭といった化石燃料を燃やすことである」と紹介。過去100万年以上にわたり、氷河期と温暖期の周期を繰り返してきたと説明しつつも、「産業革命以降、地球の温度はさらに早いペースで上昇してきた。人間の活動が気候変動の主因になってきた」とする。
こうした気候変動を人為的だと結論付ける言説は、枚挙にいとまがない。
*1 https://climate.nasa.gov/scientific-consensus/
*2 https://science2017.globalchange.gov
*3 https://www.metoffice.gov.uk/weather/climate-change/causes-of-climate-change
アメリカ人の約半数は温暖化の原因を人為的だと考えている
この「温暖化人為説」を是認する立場が大半である一方で、その考えは受け入れ難いとする人も一定数いることを、各種調査が示している。
アメリカの民間シンクタンク、ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)は、何十年にもわたって定期的に、温暖化に関する調査をしてきた。
2019年10月にアメリカの成人男女3,627人を対象に行った調査では、「人間活動が地球規模の気候変動に与える影響」について尋ね、49%が「とても大きい」と回答、30%が「ある程度」、20%が「それほど大きくない/全くない」と答えた。気候変動が人為的とみる人の割合が大きい一方、その影響を軽視する人も2割ほどいたという結果を示した。
回答を政治思想別に見ると、民主党支持者の方が人間の影響を認める傾向が強く、特にリベラル層は84%が「とても大きい」、12%が「ある程度」で計96%を占めた。共和党支持者は逆の結果を示し、保守層で「とても大きい」と答えたのは14%だった。ただ、保守層でも、「とても大きい」と「ある程度」を合わせると半数を超えた。
一方、「気候変動に対する地球環境の自然サイクルの影響」について尋ねたところ、全体の35%が「とても大きい」、44%が「ある程度」と答え、約8割は自然現象による影響もあると考えていると読み取れる。政治思想別では、自然現象によると答えたのは、民主リベラル層ほど少なく、共和保守層ほど多い結果となった。
Pew Research Center “U.S. Public Views on Climate and Energy” 人間活動が地球規模の気候変動に与える影響
温暖化の原因を「人為か、自然現象か」をめぐり、ピュー・リサーチ・センターは二者択一でも尋ねてきた。2016年の調査では、48%が人為的と答え、自然現象は31%だった(「どちらも確かな根拠はない」とする回答は20%)。
およそ半分のアメリカ人が温暖化は人為的と答えた
ピュー・リサーチ・センターの2006年以降10回ほどの調査を振り返ると、人為的影響とした回答者はおおむね45%前後だった。なお、2019年のナショナルジオグラフィックの記事「人為的な気候変動「ある」が急増、米意識調査」に見られるような、気候変動問題への意識変化も一部にあるようだ。
2006年からの10年間、人為的影響と答えたアメリカ人は45%前後だった
世界規模でのアンケートで見る気候変動意識はどうなっているか
ピュー・リサーチ・センターは世界規模の調査も実施している。2015年11月に40カ国を対象に質問し、「気候変動はとても深刻な問題だ」と答えたのは全体の52%、22カ国に上った。
この調査で興味深かったのは、年代による意識の違いだ。「富める国が途上国よりも積極的に気候変動に取り組むべきだ」と答えた割合に差が見られ、特に差が大きかったのは米国で、18~29歳が51%だったのに対し、50歳以上は34%と17ポイントの開きがあった。日本の開きは14ポイント。10代のグレタさんの「先進国がもっと取り組むべき」という主張と、それに対する一部の大人たちの反感を思い起こさせる。
気候変動はとても深刻な問題だと答えた人の割合
気候変動にもっと取り組むべきと答えた人の年齢別調査
世論調査大手の米ギャラップも、気候変動に関する世界規模の大規模な調査を2007~08年に行った。10年余り前のデータだが、対象が127カ国・地域と多く、いまだ相応の価値はありそうだ。
各国のおよそ2,000人に「気候変動は人間活動の結果か」と尋ねたところ、「そう思う」と答えたのは韓国が最多の92%、次いで日本が91%、以下80%台でコスタリカ、ギリシャ、エクアドル、台湾が続いた。一方、そのような回答が最も少なかったのは、タジキスタンで15%、続いてウズベキスタンの18%、パキスタンの25%だった。
ギャラップは「アメリカは地球温暖化に関する教育が進んでいるにもかかわらず、49%だけが人為的影響だと答えた」と指摘している。
ヨーロッパの意識調査では8割が人為的と回答
欧州でも、パリ協定の採択を受けて各国の意識調査を実施した。2018年9月公表の「欧州社会調査:気候変動とエネルギーに対する欧州動向」によると、「気候変動は少なくとも一部は人間活動に起因する」と答えたのは、最多のスペインが95.7%、ドイツが94.8%など各国で軒並み90%を超えた。低かったのは(欧州と括るかどうかは別として)、リトアニア、ロシア、イスラエルで、それぞれ82.7%、83.8%、 85.4%だった。
European Social Survey: “European Attitudes to Climate Change and Energy”日本の意識も人為説が優勢
日本も、数年前まで同様の意識調査が行われていたと確認できる。
直近では、環境省所管の国立研究開発法人国立環境研究所(NIES)が、2016年度まで毎年行なっていたものだ。2016年の「環境意識に関する世論調査報告書 2016」(有効回収数1,640人)では、「気候が変わってきている原因を考えたとき、あなたの考えに最も近いのは以下のどれでしょうか」を尋ねたところ、最多は「一部は自然現象、また一部は人間の活動に原因がある」で41%、次は「おおかたは人間の活動に原因がある」で37%、「全て人間の活動に原因がある」が10%と続いた。
年によって多少異なるが、NIESが2013~15年度に行った同様の調査もおおむね同じ傾向を示している(下記グラフ)。17年度以降、同趣旨の調査はなされていないようだ。
「ライフスタイルに関する世論調査報告書2015」 「ライフスタイルに関する世論調査報告書2014」 「ライフスタイルに関する世論調査報告書2013」
気候変動の要因は、総論賛成、でも各論反対
以上のことから再確認できるのは、概して、気候変動は深刻な問題という総論には賛成だが、その解決に向けたアプローチ、「温暖化人為説」の各論に反対する声が一部にあることだ。日本でもアメリカでも、人為説を是認する人の中に、自然現象も温暖化要因のひとつと考える人が相当数いると、調査結果から分かる。
もし今後、同様の気候変動にまつわる世論調査などがある際には、「人間が再生可能エネルギーへのシフトなどをただちに果断に取り組めば、温暖化は食い止められると思うか」といった質問項目を設けてもらいたいものである。
もちろんその結果を待つまでもなく、今やるべきことは多い。現状、筆者の考えに近いと感じた、日本の大学共同利用機関法人・総合地球環境学研究所のとある調査の用紙の文言を掲載する。
「たとえば、いまから100年後のことを考えてみましょう。そのときも、現在の地球環境問題のうちのいくつかは未解決のままかもしれません。100年後の人たちは、「あのとき解決に向けて取り組んでくれればよかったのに」 と考えたり、「あのとき解決に向けて取り組んでくれてよかった」と考えることで、あなたたちの世代を責めたり感謝したりするでしょう。」*4
人為ではない、自然現象による温暖化、寒冷化の気候変動は過去に繰り返し起きていた。それは事実なのだろう。そして今、人類が目の当たりにしている、気候変動の予兆とも取れる異常気象の数々、その背景に自然現象、自然のサイクルによる影響がないとは言い切れない。
ただ、人間活動によって気温上昇がもたらされている「人為説」が否定できない限り、(例え人為だけが原因でないとしても)今やれることはやっておいた方が賢明ではないだろうか。人類が後々後悔しないためにも――。