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小水力発電はFIP時代でも市場競争可能だ 全国小水力利用推進協議会 中島大事務局長

小水力発電はFIP時代でも市場競争可能だ 全国小水力利用推進協議会 中島大事務局長

EnergyShift編集部
2020年10月22日

急峻な山地が多い日本においては、小水力発電(川など水のエネルギーを利用して1MW以下の小規模な発電方法)のポテンシャルは小さくない。これまで十分な開発は進んでこなかったが、再エネの中でも変動が少なく、より環境配慮型でもある電源として脱炭素社会を目指す中、改めて注目されている。小水力発電の現在とこれからについて、全国小水力利用推進協議会の理事で事務局長の中島大氏にお話しをおうかがいした。

小水力発電とは:河川など水の流れを利用した発電方式(流れ込み方式)。比較的小規模なことが特徴。

今は踊り場にある小水力開発

―最初に、日本における小水力発電の開発の現況を教えてください。

中島大氏:小水力発電の定義は、実は国や地域によって異なりますが、我々が取り組んでいるのは、1MW以下の、配電連系の設備を視野に入れています。開発はそれなりに進んでいるという状況ですが、一部では系統連系(電力会社の電力網につなげること)できずに、止まっている案件もあります。

直近では、水害の影響で、ポテンシャルがあるにもかかわらず南九州で開発が止まっています。例えば、水圧管を埋設する予定だった林道そのものが水害の被害にあったというケースがあります。また、九州地方に限らず、災害が多いことで投資意欲が遠のいているようですし、水害の原因になるのではないかという不安からストップしている案件もあります。

全国小水力利用推進協議会 中島大 理事・事務局長

―今後の見通しという点では、なかなか進まないという理解でしょうか。

中島氏:おそらく、送電線へのノンファーム接続(一定の条件を付けた上で電源の接続を認めること)がしやすくなるまでは、新たな開発は現状のレベルで推移するのではないでしょうか。

また、FITからFIPとなったときに、地銀(地方銀行)が対応できるのかどうか、すなわちファイナンスがつくのかどうかという課題もあります。

過去のデータを使って、FITとFIPでの売電収入のシミュレーションを行ったことがありますが、それによると、FIPでも遜色ない収入があることがわかりました。現在、環境省が全国の河川のデータをもとに、市場売電のシミュレーションを行っています。

―卸電力市場ではなく、企業に相対で販売するPPA(電力販売契約)に対応した発電所の開発ということも検討されているのでしょうか。

中島氏:PPAについては、取り組む必要性はあると思っています。とはいえ、FIPがスタートしないと価格的な問題は解消できませんし、同時に、まだ買い手の姿が見えていないので、もう少し先になると思います。

例えば、消費電力量が多い製造業などは、PPAの対象として洋上風力のような大規模な案件が対象となってくると思います。イオンモールのような大きなショッピングセンターも同様です。規模としては、小規模のスーパーやコンビニエンスストアなどのチェーン店が適しているかもしれません。

事務局にあった小水力発電機

ため池利用で調整力を持つ水力発電も可能

―小水力発電の開発は、現状で推移ということでしたが、ポテンシャルとしてはどのくらいあるのでしょうか。

中島氏:系統接続できるものとしては、(日本全体で)100万kWくらいはあると思います。また、東北地方の日本海側と北海道地方には適地が多いだけではなく、系統も空いてくるでしょうから、期待しています。日本海側の出水量は地域によって平均的地点の2倍ほどあり、とてもいい条件です。

また、この地域(東北日本海側)には洋上風力発電の適地も多く、送電インフラの整備が期待されます。そうした点でも適地なのではないでしょうか。

もっとも、小水力発電の容量は洋上風力と比較すると圧倒的に小さいため、遠くに送電するというよりはローカルで消費する電源ということもいえます。

開発案件として注目されるものとしては、現在、山形県でいくつかの案件が進行しており、秋田県でも案件が進んでいるという状況です。

―電力市場は卸取引市場だけではなく、容量市場や需給調整市場、先物市場、非化石価値取引市場などの整備が進んでいます。こうした市場に対して、小水力発電はどのように対応していくことになるのでしょうか。

中島氏:まず、小水力発電の性質を考えます。水力発電の電気は基本的に出なりで販売しています。決して設備利用率が高いわけではないですが、太陽光発電などと比較すると変動はゆるやかです。

ΔkWで問題となるのは、大雨が降った時に、設備に土砂を入れないために発電を停止するときです。もっとも、こうしたことは、年に何回もあるわけではなく、天候は予想できるので早めに停止する計画を組み込むことができます。このように、運用しやすい電源なので、その価値を評価していただきたい。

また、需給調整市場に対応する電源として開発する可能性もあります。

例えば、山間地における耕作放棄地の田んぼをため池として利用するのはどうでしょうか。1haの田んぼで30㎝の有効水深があり、落差100mとすれば、30分間で200kWの発電ができる水をためておくことができます。バッテリーが安くなってきているので、それが競合となりますが、農家にとっては、淡水魚の養殖池のように比較的簡単にため池を整備できるものなので、取り組んでみたいと思っています。

より本格的なものとして、全国に万単位であるため池を活用することも可能です。実際にモデルとなりそうな地点があり、これも実現したい。

栃木県百村第一・第二発電所 全国小水力利用推進協議会ウェブサイトより

FITよりもFIPで収益を出せるビジネスモデルに

―小水力発電の普及にあたって、政策的課題にはどのようなものがあるでしょうか。

中島氏:世の中の原理原則は市場化に向かっています。市場を適切なものにすれば、価格メッセージによって最適化していくというロジックです。こうした中で、FITからFIPへ移行するという意見には、誰も抵抗できません。

一方、再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会において市場統合とは別枠で再エネを応援していくため、地域活用型再エネという枠組みを検討しています。我々の協会としても、この枠組みで1,000kW以下の小水力発電の普及をさらに進めるのが望ましいと考えています。

しかし、30年以上にわたって、再エネ導入に向けた電力システム改革を提唱した側としては、特別な保護にのっかるのは面白くありません。少しでも電気が高く売れる水力発電所をつくりたいというのが個人的な思いです。制度よりもビジネスモデルをどのようにつくるのかが、これからの課題です。
先ほど述べたため池利用の小水力発電は、FITより利益が出るFIPをねらうことができます

―政府には縦割り行政という課題もあります。

中島氏:農林水産省の所管である農地整備の実態は、補助金をたくさん使って成り立っている世界です。これに対して財務省は補助金に対する目的外利用には厳しい対応をしています。しかし、耕作放棄地がたくさん出てしまっている現状では、目的外使用を禁じている場合ではありません。

ため池を活用して発電事業を行うことで、農業が持続し、投入する税金が減るのであれば、政府の財政にとってもいいことですし、そうであれば目的外使用でもいいというのが財務省の本音でしょう。そこで、農水省と財務省がすり合わせをしていただきたい。

ため池による調整力を持った電気であれば、高く売ることができます。国の役に立つのであれば高く販売するのは良いこと、結果として国民のためになる、ということが価格メッセージとして示されれば、全国展開しやすいと考えてもらいたいと思います。農水省にもこうした意識をもっていただきたいと思います。

自治体は地元での参画企業の調整という役割を担って欲しい

―自治体への期待、あるいは民間への期待はいかがでしょうか。

中島氏:自治体について感じるのは、継続性を持ったエネルギーによる地域振興のしくみづくりができるところが少ないということです。ここでも市場統合のロジックで考えると、税金を集めて使っていくのが自治体の役割なので、行政は収益を目的としませんし、事業そのものの実施主体になることは自治体に向きません。

また、自治体の能力の問題もあります。たとえ首長が前向きであっても、計画づくりにかかわっていく職員が育たないと、実現は難しくなります。その点では、自治体のキャパシティビルディングは農水省も経産省も環境省も考えていることですから、そのことが鍵となります。

先ほど、山形県のことをお話ししましたが、我々が相談を受けた案件でもあります。

県から、砂防ダムで水力発電を行いたいという相談を受けました。実現にあたって、ポイントは2つありました。ひとつは、どのようにして実現可能性が高いところを選ぶか、ということです。これは大きな問題はありませんでした。

もうひとつのポイントは、砂防ダムに関する情報公開です。できれば地元企業に関わってもらいたいのですが、地元にだけ情報公開するというわけにはいきません。そこでとった方法が、情報公開後に、地元企業を対象とした勉強会の開催です。その結果、山形県内数ヶ所で、地元の土建会社などが開発に参画しています。

このように、自治体は事業の実施主体というよりも、地元の調整の役割がふさわしいと思います。

京都・嵐山保勝会水力発電所 全国小水力利用推進協議会ウェブサイトより

―実際に、地元で参画できる企業というのはどのようなものなのでしょうか。

中島氏:水力発電のことを理解し、億単位の投資ができる企業は限られます。土建業や電設業でしょうか。事業化調査と流量調査だけで1,000万円近くかかります。

建設業の場合、お金をかけて調査し、設計しないと、事業が動かないということを理解しているので、比較的対応しやすいといえるでしょう。

これに地銀がどのように対応するかが課題です。最近では地域によってはJAバンクも再エネへの融資に熱心になってきましたが、事業化調査やキャッシュフローの試算が終わったときに、融資の判断ができるかどうか、さらに、FIP案件となった場合、金融機関が融資の判断ができるかどうかが問われます。こうした課題をクリアするために、金融関係者とも常に情報交換を行っています。

ローカルアグリゲーターの育成が重要

―ノンファーム接続に関連して、接続にあたって、先着優先ではなくメリットオーダーにしようという考えが出ています。また、配電事業についても、分離可能になりました。

中島氏電力卸取引所の価格はゼロ円やマイナスになってもいいということにすべきです。 事業リスクを評価する場合、出力抑制と価格リスクの2つを考えることは複雑です。市場価格がゼロ円に近づけば、燃料代がかかる電源が停止しますし、マイナスになれば再エネでも止めるところが出てくるでしょう。こうしたしくみであれば、金融機関にとっても評価しやすくなります。

それから、(分散型の再エネを運用していくためには)DSO(配電系統運用者)の役割も考えるべきです。現在の送配電事業を、TSO(送電系統運用者)とDSOに分離した方が合理的な資源配分ができるのではないでしょうか。発電事業にとどまらず、ローカルアグリゲーターを育てて、これがDSOの役割を担っていくことができるといいのではないかと思います。

プロフィール


中島 大(なかじま まさる)

全国小水力利用推進協議会事務局長
一般社団法人小水力開発支援協会代表理事。1961年生まれ。1985年、東京大学理学部物理学科卒業。株式会社ヴァイアブルテクノロジー取締役などを経て現職。その間、分散型エネルギー研究会事務局長、気候ネットワーク運営委員などを歴任し、小水力利用推進協議会、小水力開発支援協会の設立にも参画する。現在、全国各地の小水力発電事業のサポート、コンサルティングなどを行っている。

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