太陽光発電設備の発電量は、ちょっとした設計の工夫などでも大きく変わってくる。すでに運転している発電所の場合、つくりなおすことは簡単ではないが、リパワリングによって1%でも2%でも発電量を増やせる可能性はある。20年間という買取期間を考えると、決して小さな値ではない。前回のパワコンのリパワリングに引き続き、今回は発電モジュールのリパワリングについて、afterFITの橋口辰也氏が解説する。
事業用の太陽光発電設備に限っても、実はその多くが発電モジュールの部分でもリパワリングが可能だと思われます。どういうことかというと、太陽光発電設備の設計にあたって、その多くは発電量よりも電気工事のしやすさに重点が置かれているからです。
太陽光発電設備の構造の単位は、次のようになっています。基本的な単位は、モジュールですが、これは太陽光発電のセルが何枚も組み合わされてできています。そして、数枚のモジュールを一組として架台に取り付けてあるものが、アレイという単位です。
一方、数枚のモジュールを直列に接続し、パワーコンディショナー(パワコン)に接続してある単位を、ストリングといいます。
多くの場合、1つのアレイが1つのストリングを構成しています。例えば、8枚のモジュールが1つの架台に取り付けられ、それがすべて直列で接続されている、というイメージでしょうか。
確かにアレイとモジュールが一致していると、施工はしやすくなります。しかし、こうした施工は、発電量を犠牲にしているともいえます。
afterFIT 工事チーム兼リパワリングチーム 橋口辰也氏
なぜ、アレイをそのままストリングスにしてしまうと、発電量が下がるのでしょうか。それは、アレイにかかる影が関係しています。
一般的に太陽光発電はモジュールの面が南に向くような角度で取り付けられています。これは、太陽の動きに合わせたものです。それでも、夏はともかく、太陽の高度が低い冬になると、前列にあるアレイの影が、後列のアレイの下段の部分にかかりやすくなります。太陽光発電モジュールは、設計上、だいたい3分の1以上が影になると、発電しなくなります。発電しないだけならまだいいのですが、むしろ電気抵抗によって電気が流れにくくなってしまいます。
したがって、アレイとモジュールが同じだと、アレイの下段にあるモジュールが発電していないときには、アレイ全体が発電しない、ということにもなってしまいます。
ではどうすればいいのか。それは、アレイの上段と下段を別のストリングにするということです。複数のアレイを横断して、上段のモジュールだけのストリングと下段のモジュールだけのストリングを構成します。そうすると、下段に影がかかった場合でも、上段のストリングが安定して発電してくれるので、発電量が増えるということです。
もちろん、アレイを横断してストリングを構成する場合、施工しにくくなります。それでも、長い目で見れば、発電量が増えることのメリットが大きいと考えられます。また、ストリングを構成し直すことは、すでに運転している太陽光発電設備でも実施しやすい工事です。
施工のしやすさではなく、発電量の最大化を重視する
発電量を下げる影の原因となるのは、前列のアレイの影だけではありません。山間部に近い場所にある太陽光発電であれば、東西の山や木の影も問題となります。また、電柱などの影にも注意が必要です。例えば東側に山があると、明け方はどうしても影ができます。そうであれば、東側の影ができるモジュールだけでストリングにする、といった構成にすることになります。
では、実際にどのくらい発電量を増やすことができるのか。正確な予測のためには、同じ条件の太陽光発電で比較する必要があります。たくさんあるアレイ/モジュールから、同じ日射条件にある2ヶ所(仮にAとBとよびます)を選び出し、一方だけストリングの組み換えを行います。そして、1年間の発電量を調査・比較することで、ストリングの組み換えの効果を測定することができます。十分な発電量の増加がみられ、ストリング組み換えという投資に対する効果が十分であれば、発電所全体で組み換えを実施することになります。
afterFITでは、こうした実験を繰り返してきましたし、現在も行っています。いずれは、日射量計のデータから、正確な発電量予測が可能となり、過去の発電量のデータとの比較から、リパワリングの方針を決めることが可能になるようにしたいと考えています。
また、日陰対策として、ストリングの構成だけではなく、オプティマイザという機器を利用する方法もあります。オプティマイザとは、太陽電池モジュールごとに最大電力点を制御できる機器です。
パワコンの持つ最大電力追従装置(MPPT)の機能を、モジュールごとに適用できるメリットがあります。もちろん、設置のコストはかかります。しかし、日本の場合、サウジアラビアやモンゴルの砂漠のような平らで広い土地は少なく、メガソーラーともなれば、どうしても凹凸のある土地に太陽光発電を設置することになります。案件によっては、すべてのモジュールにオプティマイザを取り付ける予定です。
我々も、発電量を増やすためとはいえ、施工のしやすさを考えないわけではありません。例えば、架台に太陽電池モジュールを取り付けるとき、上段のモジュールと下段のモジュールが突合せになるように置くことがあります。モジュールから電気を取り出す部分となるジャンクションボックスは、モジュールの上方向についているのですが、上段のモジュールを上下逆にすることで、上段と下段それぞれのジャンクションボックスでの接続を同時に行うことができます。
また、この方法で配線していくと、配線全体の長さを短くすることができます。これは電線を節約するだけではなく、誘雷の確率を下げることにもなります。
発電量にこだわったストリング構成が重要
配線についても、実はリパワリングの余地があります。
電線の電気抵抗は、長くて細いほど大きくなります。そして、直流よりも交流の方が電気の損失が大きくなります。一方、初期の事業用太陽光発電設備の場合、アレイごとにパワコンが取り付けられ、そこから交流の電線が集電箱につながっている、という構成となっていることが少なくありません。
こうしたケースでは、電線の交換だけで、発電量を増やすことができます。というのも、初期の太陽光発電設備は2sq(sqは断面積を表し、2sqだと2mm2)の電線が普通でした。しかし現在は3.5sqが用いられることが多く、100mを超えるようなときは5.5sqを使うこともあります。そこで、太い電線に交換することで、発電量を増やすことができるというわけです。
もちろん、パワコンを移設し、集電箱近くに置くことで、交流の電線を短くすることができるので、この方法でも発電量を増やすことができますが、電線の交換よりは手間がかかります。
ここまでは、比較的取り組みやすいリパワリングを紹介してきました。
しかし、2012年以降、早い時期に建設された太陽光発電設備の、それも50kW未満の低圧の場合、施工不良が目立ち、大規模な改修が必要と見られるケースは少なくありません。例えば、整地が適切に行われておらず、地盤ががたがただということがあります。また、配線も埋設されず、ころがしのままというケースもあります。コネクタがきちんとつながっていないため、太陽光発電モジュールが発熱し、丸こげになった、というようなケースもあります。
一方、最近の太陽光発電設備の場合は、過積載によって多少の発電量の減少が目立たなくなっている一方、売電価格も低く、コストに見合うリパワリングの条件が変わってきているということも指摘できます。
2回にわたって、リパワリングについて紹介してきましたが、効果的なリパワリングは現場を見なければわからないという面もあります。我々としても、少しでも発電量を増やすためのさまざまな実験を続けていきたいと考えています。取り組むべき課題はまだまだたくさんあるのです。
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