DXとEV、ユーザーに立ち返ったサービスでCO2削減を 短期集中連載:秋元圭吾氏に聞く脱炭素への道 5 | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

DXとEV、ユーザーに立ち返ったサービスでCO2削減を 短期集中連載:秋元圭吾氏に聞く脱炭素への道 5

DXとEV、ユーザーに立ち返ったサービスでCO2削減を 短期集中連載:秋元圭吾氏に聞く脱炭素への道 5

2021年03月19日

経済産業省の総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会の委員である、公益財団法人地球環境産業技術研究機構システム研究グループ(RITE)主任研究員の秋元圭吾氏インタビュー。最終回の今回は、将来のエネルギーの鍵となるDXについてお話を伺った。

シリーズ:エネルギー基本計画を考える

デジタル化による需要側のエネルギー政策にも注力せよ

―デジタル化は、再エネの拡大に伴って必要とされる技術だと思います。しかし、政府はその点をあまり強く打ち出していません。エネルギーのデジタル化についてどう思われますか?

秋元氏:政府はもちろん、電力会社もエネルギーのデジタル化に対してもっと注力すべきだと思います。デジタル化とは、エネルギーに付随する情報をどううまく活用していくかということですが、今は、エネルギーとデジタルがそれぞれ独立して別個のものと考えられています。

本来は、脱炭素化を実現するために、エネルギーとデジタルを掛け合わせて活用すべきです。また、エネルギー供給に伴うビッグデータの中から何をピックアップし、何と掛け合わせていくかによって、需要削減といった新しい付加価値が生まれるものだと考えます。

しかし、今はこの視点が明らかに欠けています。グリーン成長戦略にしても、供給サイドに偏った考え方をしています。デジタルのコネクティッドな技術によって、需要をいかに削減していくかという観点が足りていません。デジタルを使ってグリーン化していくという視点が必要です。

地球環境産業技術研究機構システム研究グループ(RITE) 秋元圭吾 主席研究員地球環境産業技術研究機構システム研究グループ(RITE) 秋元圭吾 主席研究員

例えば、スマートメーターのデータを、プライバシーに配慮しながらどう公開するかという課題があります。このデータを活用することは、新しい価値を生みながらCO2を削減する手段の1つです。データ活用によって、政府が示している例のように宅配便の再配達を減らせるかもしれません。

電力による直接のCO2削減効果ではありませんが、電力がもつ情報を提供することで別のセクターのCO2が減るという効果が期待できます。また、企業の出店計画をより効率的なものにする可能性もあります。

電力に付随する情報を公開することで、新しいビジネスが生まれたりCO2排出が減ったりするのであれば、ビッグデータの活用可能性をさらに探ってく必要があるのではないでしょうか。

My Utilita
イギリスの電力会社、Utilitaはモバイルアプリが優秀なことで有名

あらゆるセクターにデジタルの可能性があり、そこに成長とグリーンの姿がある

秋元氏:それから、VPPといった電力セクターにおけるデジタルの活用も伸ばしていかなければなりません。あらゆるセクターにおけるデジタルの可能性、データの掛け合わせによる社会の変化を促していくことは重要だと考えます。

情報は価値です。それを埋もれたままにしておくことはもったいないと思います。そこに、成長とグリーンの両方の姿があるのではないでしょうか。

日本のものづくりは素晴らしいものです。しかし、ものづくりにこだわりすぎているのではないでしょうか。アップルなどが提供するスマートフォンがいい例ですが、ものに加えてソフトウェアがあり、全体の仕組みとしての価値が重視されています。こうした発想の転換をしなければ、日本経済の成長は難しいと思います。

供給サイド、電力セクターなど単一の分野に偏った議論では、国際社会から取り残される危険性を感じています。そうならないためには、エネルギーとほかのサービスとが融合しなくてはなりません。

デジタルや情報をいかに活用するかはきわめて重要で、サービスという意味では需要サイドの重要性は大変大きなものです。

消費者のニーズに立ち返って新サービスとCO2削減を

―今、EVが注目されていますが、日本の自動車産業についてどうお考えでしょうか?

秋元氏:今後、自動車は単なる移動手段ではなく、移動時間でどのようなサービスをできるかに懸かっていると思います。ソニーが自動車を発表したことからも、これは明らかです。消費者に対して、移動時間をどれだけ有効に使えるかを示すことが価値になります。

ソニーのコンセプトEV、VISION-S

これまでと同じ概念で、車は移動手段であり、エネルギーはエネルギー部門の問題だと考えるべきではありません。今までなかったサービスがありうるのだということをもう一度考えるべきでしょう。

我々は本来、エネルギーを使いたいと考えている訳ではありません。使いたいサービスや製品にエネルギーが欠かせないから使っているだけなのです。

本当に消費者が欲しているものが何かという問いに立ち返って考えることによって、新しいサービスが生まれたり、CO2削減につながったりするのではないかと思います。日本企業にはこういった発想が必要なのではないでしょうか。

(了)

(Interview:本橋恵一、Text:山下幸恵)

シリーズ:エネルギー基本計画を考える バックナンバーはこちら

秋元圭吾
秋元圭吾

公益財団法人 地球環境産業技術研究機構 システム研究グループリーダー・主席研究員 1970年生まれ。1999年横浜国立大学 大学院工学研究科電子情報工学専攻博士課程後期 修了。同年(財)地球環境産業技術研究機構(RITE)入所 システム研究グループ 研究員、主任研究員を経て、2007年4月 同グループリーダー・副主席研究員、2012年11月より 同グループリーダー・主席研究員。博士(工学) 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会委員、その他多くの審議会の委員をつとめる。 専門はエネルギー・地球環境を中心としたシステム、政策の分析・評価 著書に、「温暖化とエネルギー」、エネルギーフォーラム(共著)2014、「CO2削減はどこまで可能か―温暖化ガス-25%の検証―」、エネルギーフォーラム(共著)2009、「低炭素エコノミー―温暖化対策目標と国民負担―」、日本経済新聞出版社(共著)2008などがある。地球温暖化対策、エネルギーに関する学術論文多数あり。

エネルギーの最新記事