中華EV、遂に世界進出。その背景に見える中国自動車産業の脱炭素化 | EnergyShift

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中華EV、遂に世界進出。その背景に見える中国自動車産業の脱炭素化

中華EV、遂に世界進出。その背景に見える中国自動車産業の脱炭素化

2019年10月08日

フランクフルトモーターショーでついに発表されたBYTON「M-Byte」の生産モデル。中国・南京をベースとするEVベンチャーの第一号モデルだ。これは単に、一台のEVが欧州デビューしたということではない。中国自動車産業の世界進出の第一歩と捉えるべきである。

グローバルブランドを目指すBYTON

BYTON M-Byte フランクフルト・モーターショー
(著者撮影)

BYTONはそのデビューから、国際的なイメージづくりを強く意識していた。同社初のコンセプトカー「M-Byte」のワールドプレミアは、中国国内のモーターショーではなく、アメリカ・ラスベガスで開催された2018年のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)が選ばれたこともそれを裏付けている。

ブランドイメージやデザインコンセプトも、特定の文化的な土着性をあえて排し、無国籍でありながらエッジーなカッコよさを訴求することに徹している。中国っぽさは微塵も感じさせないのと同時に、どこか特定の地域を感じさせる要素もない。

BYTON M-Byte インフォテイメントシステム
フランクフルト・モーターショー(著者撮影)

戦略的な値付け

そのM-Byteの生産モデルは、今年中に中国と欧州、そして北米で事前注文の受付を開始し、中国では2020年半ば、北米と欧州には2021年までにデリバリーされる予定がアナウンスされた。価格は72kWhバッテリー搭載車で45,000ユーロと、ライバル車種に比べてかなり戦略的な値付けだ。車格の近い競合車種と比べると、メルセデス・ベンツ「EQC」、アウディ「e-tron」、ジャガー「I-PACE」などは8万〜8.5万ユーロである。

車種バッテリー価格
メルセデス・ベンツ EQC80kWh€80,995
アウディ e-tron83.6kWh€84,100
ジャガー I-PACE84.7kWh€81,810
BYTON M-Byte72-95kWh€45,000
競合車種のバッテリー性能・価格 参照元 M-ByteはBYTON発表による

筆者の予想ではあるが、M-Byteは欧米市場、特にEV優遇政策を採るカリフォルニアや北欧においては、その安さと無国籍なカッコよさとが相まって、合理的な選択肢を好む市場でかなりの人気を呼ぶだろう。

量産へのハードルはクリア済み

自動車メーカーを立ち上げるうえで一番難しいのは、大量生産というハードルを越えることだろう。テスラが「モデル3」で足踏みを続けているのは、まさにそこである。

テスラ モデル3 Alexander Migl

その点中国には、EVベンチャーが垂直立ち上げをうまくやり遂げる方程式がある。既存の大手自動車メーカーと資本関係を結びながら、大量生産のリソースやノウハウを得てハードルを越えたEVベンチャーがいくつもあるのだ。

そしてBYTONにおいては、中国最古の大手自動車メーカー、第一汽車(FAW)の出資を受け入れ、量産に関するサポートを受けながら、中国・南京に自社工場を立ち上げた。

そしてEVで最も重要なパーツであるリチウムイオンバッテリーは、いまや世界トップのバッテリーメーカー、寧徳時代(CATL)が協力するという。

エンジンで負けた中国がEVで逆転するシナリオ

中国の自動車産業は結局のところ、エンジン車では日米欧韓に勝てず、これまで世界では存在感を示すことはなかった。しかし中国は、EVによって要素技術が大きく入れ替わるタイミングを狙って、これまで国内でEV産業を粛々と育成してきた。

BYTON M-Byteの性能や完成度が示しているのは、年間販売台数70万台という圧倒的に世界最大のEV市場で蓄積された商品企画や、リチウムイオンバッテリーを含めた自動車産業ピラミッドを積み上げてきた成果なのだ。それはBYTONだけではなく、上海蔚来汽車(NIO)や威馬汽車(WM Motor)、愛馳(AIWAYS)といったEVベンチャーの力量を見ても明らかだろう。

BYTONの欧米デビューは、EV時代に移行する自動車産業において、世界に橋頭堡を築くという中国の悲願への第一歩であり、そして、スケールメリットが強く働くリチウムイオンバッテリーの世界の工場として、中国がその地位をますます強固にすることを意味する。

中国の逆転ホームランをいちばん警戒しているのは、日米欧の自動車産業であろう。そして、そのような未来を変えるためのポストLiB開発競争なのだ。

BYTON M-Byteフランクフルト・モーターショー
(著者撮影)
佐藤耕一
佐藤耕一

自動車ニュース媒体で取材・編集業務に従事したあと、IT企業に転職し、自動車メーカー・部品メーカーに対するビジネス開発を担当。その後独立し、自動車とITをつなぐ領域を取材・レポートする活動に従事する。

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