岸田総理の演説を見ていくと、いま述べたとおり、基本的に、脱炭素の必要性を国際社会に訴えている。この基本基調は何も問題ない。
ただ、前回分析をしたように、このスピーチが化石賞につながった。何が化石賞受賞につながったのか。問題となった箇所がこれだ。
「アジアにおける再エネ導入は、太陽光が主体となることが多く、周波数の安定管理のため、既存の火力発電をゼロエミッション化し、活用することも必要です。日本は、『アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ」を通じ、化石火力を、アンモニア、水素などのゼロエミ火力に転換するため、1億ドル規模の先導的な事業を展開します」
ご覧のとおり、岸田総理はなにも、火力を推進するとは言っておらず、再エネが増えると、不安定になるので、そこにCO2排出をしない形の火力を組み合わせることも必要だ、と言っているに過ぎない。
CO2排出をしないことを前提にしているので、ここを批判され、化石賞受賞につなげるのは少し筋違いだ。
ただし、言及をしたアジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ、これが厄介だ。
アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブは、今年の5月24日から5月28日にかけて開催された「日ASEANビジネスウィーク」で発表されたイニシアティブになる。
5月といえば、まだG7で石炭火力の支援停止の外堀を埋められる前だ。経産省がまだ頑張って「アジアに対して火力を~!!」「脱炭素は一足飛びだから、低炭素化を~」と言っていた時期だ。
実はこのイニシアティブが発表をされたとき、筆者は頭を抱えた。「あぁ、脱炭素時代に、まだCO2を排出する技術を海外展開しようとしている」と。
なぜなら、このイニシアティブ、脱炭素ではなくて、炭素系の延命をしたい思いが非常に多く残っているからだ。文言からそれが見て取れる。
まず、日本政府がエネルギーについて化石燃料をスコープにいれたいときのうたい文句が「あらゆるエネルギー源」だ。脱炭素に絞りたくないため、この表現を使う。
これが、このイニシアティブのページにもしっかりと書かれている。
そもそも、今回のCOPの演説で述べたように水素やアンモニアなど、ゼロエミッションにするならば、イニシアティブのタイトルも「アジア・ゼロエミッション・イニシアティブ」などにすればいい話だ。だが、実際はそうはならずに、使われた単語はエネルギー・トランジション。
実は、この表現も政府が「脱炭素」としたくないときに用いる文言なのだ。すぐに脱炭素にするのではなく、段階的に向かっていくのだ、脱炭素に向かうときはあくまで「移行」、すなわちトランジションだと。そのため、CO2を減らすものであれば、問題ない。移行期は、CO2排出はやむを得ない。なにも再エネなどの脱炭素手法じゃなくてもいい。高効率の石炭火力も「CO2を減らす」方向なのだから、そこでも読み込める、となっている。もちろん、これは外堀が埋まる前に作ったイニシアティブなので、結果的にそうなってしまったわけなのだが。
さすがに、このイニシアティブには「石炭の活用を!」とは書かれていないのだが、LNG(液化天然ガス)については記述がある。もちろん、LNGの方がCO2排出は少ないので移行期には重要なのだが、LNGも含む内容をわざわざ総理にCOPの場で言わせるというのは違和感を感じる
さらに、このイニシアティブが言及され、共同声明が出たのが6月に開催された日ASEANエネルギー大臣特別会合。この特別会合で、このイニシアティブを念頭にした具体的メニューが書かれているのだが、これを見て欲しい。
CCUSはいいとして、クリーン・コール・テクノロジーの記載がある。
これは石炭火力から排出されるCO2を減らすものの、あくまで石炭火力の使用とそこからのCO2排出は前提とする、いわば延命措置のための技術であり、さすがに昨今の脱炭素の潮流の中では、受け入れられにくい。もちろん、民間ベースでやるなら分かるが、政府が国際会議の場でこれを含めてアピールすることはむしろ、脱炭素のアピールにはならず、逆効果になる。
COPには岸田総理が紆余曲折ありつつ、「出る!」と意思決定したもの。しっかり花をもたせないといけないのに、「こんな不純物を混ぜるなよ」と思うが、果たして、これについて岸田総理は知っていたのだろうか。岸田総理は部下を信じる方だ。筆者は、こうした詳細背景まで知らなかっただろうと分析をしている。それでは次に、場合によっては岸田総理ご自身も気付いていない可能性について言及していきたい。
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