今回の問題は、岸田総理はおそらく筆者が指摘した点について詳細な説明を受けていないというところにある。なぜなら、今回のスピーチを見る限り「俺はさすがにCO2を出す方向には言及はしない。火力に言及するにしてもあくまでCO2排出ゼロの文脈にしてくれ」という指示が岸田総理からあったのが分かる内容となっているからだ。岸田氏にお仕えした筆者自身の経験から、発注がどのようであったかもだいたい想像がつくが、大枠、岸田氏は方向性を示して、あとは信頼するというスタイルが主だ。
そのため、文言上は、ゼロエミッションを基調に仕上がっている。先ほど述べたように具体的メニューも水素・アンモニアというゼロエミッションのものにのみ具体的言及がある格好になっている。
これを見て岸田総理もGOを出した、というところだろう。
しかし、そこにしれっと入ったのが、アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブの文言だ。岸田総理は、総理であるゆえに、その詳細までは分からない。しっかり説明を聞かれる方で、かつ、信じる方であるため、事務方が「これを通じてアジアの脱炭素をはかるんです」という説明を信じてしまったのだろう。
岸田氏の性格からして、仮にこのイニシアティブにCO2排出の要素がある、つまりゼロエミッションで統一できない余地があると分かったならば「COPでは言及はやめよう」と言ったはずだ。
今回は化石賞受賞でとどまっているが、こういう仕事の仕方は結果的に岸田総理の国際的信用を下げることになる。もちろん、国家であるため、様々な選択があるとは思う。ただ、「TPOがあるだろう」というのが、筆者が言いたかったことだ。わざわざCOPで言う必要はない。
なお、今回、このイニシアティブの言及も含めた箇所を国際NGOのCAN(気候行動ネットワーク)が問題視して、化石賞を授与したかは、現時点では不明だ。
ただ、CANがおそらく岸田総理の発言を表面だけを切り取って言った「岸田総理は火力を推進するといったのだ、それも日本だけではなく、アジアに対してもだ」のくだりは、このように深くまで分析すると結果的に間違っていない、とも言える。
脱炭素時代に、総理がCOPまでいってスピーチをするのだから、そこは純粋な脱炭素統一パッケージでスピーチを構成するべきだったと思う。このあたりは、企業の予見性にもつながってしまうし、石炭火力の支援停止の顛末で民間企業に損失を被らせたのと同じ轍を踏むことになる。
ただ、岸田総理も脱炭素についてこれからさらに知見を深めていくにつれて、こうしたところはだんだんと是正されていくと思われる。今回のスピーチも「ゼロエミッション」を基調にしたいとしたのは、岸田総理ないし、その周辺の指示だとすると、ゼロエミッションを基調にしていく考えは見えたようにも思える。この他、すでに脱炭素の方向を重視し始めている傾向は見えており、詳細については別途、解説していきたい。
そんな中、日本が目玉として打ち出したのが資金コミットメントだった。日本がなぜCOPで巨額の資金援助の表明をしたのか、最後に解説したい。
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