日本は石炭火力を延命したいのか 岸田総理のCOP演説、その落とし穴を徹底解説:COP26を振り返る | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

日本は石炭火力を延命したいのか 岸田総理のCOP演説、その落とし穴を徹底解説:COP26を振り返る

2021年11月17日

岸田総理自身も、落とし穴に気付いていないのではないか

今回の問題は、岸田総理はおそらく筆者が指摘した点について詳細な説明を受けていないというところにある。なぜなら、今回のスピーチを見る限り「俺はさすがにCO2を出す方向には言及はしない。火力に言及するにしてもあくまでCO2排出ゼロの文脈にしてくれ」という指示が岸田総理からあったのが分かる内容となっているからだ。岸田氏にお仕えした筆者自身の経験から、発注がどのようであったかもだいたい想像がつくが、大枠、岸田氏は方向性を示して、あとは信頼するというスタイルが主だ。

そのため、文言上は、ゼロエミッションを基調に仕上がっている。先ほど述べたように具体的メニューも水素・アンモニアというゼロエミッションのものにのみ具体的言及がある格好になっている。

これを見て岸田総理もGOを出した、というところだろう。

しかし、そこにしれっと入ったのが、アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブの文言だ。岸田総理は、総理であるゆえに、その詳細までは分からない。しっかり説明を聞かれる方で、かつ、信じる方であるため、事務方が「これを通じてアジアの脱炭素をはかるんです」という説明を信じてしまったのだろう。

岸田氏の性格からして、仮にこのイニシアティブにCO2排出の要素がある、つまりゼロエミッションで統一できない余地があると分かったならば「COPでは言及はやめよう」と言ったはずだ。

今回は化石賞受賞でとどまっているが、こういう仕事の仕方は結果的に岸田総理の国際的信用を下げることになる。もちろん、国家であるため、様々な選択があるとは思う。ただ、「TPOがあるだろう」というのが、筆者が言いたかったことだ。わざわざCOPで言う必要はない。

なお、今回、このイニシアティブの言及も含めた箇所を国際NGOのCAN(気候行動ネットワーク)が問題視して、化石賞を授与したかは、現時点では不明だ。

ただ、CANがおそらく岸田総理の発言を表面だけを切り取って言った「岸田総理は火力を推進するといったのだ、それも日本だけではなく、アジアに対してもだ」のくだりは、このように深くまで分析すると結果的に間違っていない、とも言える。

脱炭素時代に、総理がCOPまでいってスピーチをするのだから、そこは純粋な脱炭素統一パッケージでスピーチを構成するべきだったと思う。このあたりは、企業の予見性にもつながってしまうし、石炭火力の支援停止の顛末で民間企業に損失を被らせたのと同じ轍を踏むことになる。

ただ、岸田総理も脱炭素についてこれからさらに知見を深めていくにつれて、こうしたところはだんだんと是正されていくと思われる。今回のスピーチも「ゼロエミッション」を基調にしたいとしたのは、岸田総理ないし、その周辺の指示だとすると、ゼロエミッションを基調にしていく考えは見えたようにも思える。この他、すでに脱炭素の方向を重視し始めている傾向は見えており、詳細については別途、解説していきたい。

そんな中、日本が目玉として打ち出したのが資金コミットメントだった。日本がなぜCOPで巨額の資金援助の表明をしたのか、最後に解説したい。

日本はなぜ巨額の資金援助の表明をしたのか・・・次ページ

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

エナシフTVの最新記事