サステナビリティは耳慣れない用語ですが、すべての人に関わることです。これからは会話の中で当たり前に使われるシーンが増えてくると予想されます。サステナビリティの意味や考え方、実際にどのような取り組みが行われているのかなどを知って、知識をアップデートしましょう。
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サステナビリティ(Sustainability)は直訳すると「持続可能性」という意味です。あらゆる活動において一時的な利益や快適さだけに終わるのではなく、将来の利益を損なわずに持続できるあり方か?という視点で物事を考えることを指します。サステナビリティという言葉が使われる場面では、現在のニーズを満たしながら、次世代に渡って持続可能な地球のあり方を実現しようという共通の理念があることをまず頭に入れておきましょう。
近現代の先進国を中心に、人々は短期的な利益や一時的な快適さを過剰に追い求めてきました。その根底にある「もっと豊かに」という欲求が文明の発展を加速させたことは揺るぎない事実です。しかし地球上で営まれる様々な活動の反動で、自然環境や経済のしくみ、社会生活などあらゆる面で今の構造を維持していくことが困難になってきました。この状況はもはや一部の国や大企業だけの努力で対応できるものではなく、世界中の人が一人ひとり、それぞれの立場で、できることを考え行動しなければなりません。
ここ数年でサステナビリティが注目されるようになったきっかけに、2015年9月の国連サミットで「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択されたことが挙げられます。SDGsはより良い未来の実現に向けて2030年までに解決すべき課題を織り込んだアジェンダで、国連全加盟国193か国の全会一致で採択されました。世界中の国がSDGsに賛成したことで、持続可能な社会を目指す取り組みが一気に加速したのです。
サステナビリティやSDGsを語る場面でよく耳にする用語について説明します。「CSR(=Corporate Social Responsibility)」は企業の社会的責任という意味で、企業が自らの利益だけを追求するのではなく、社会の一員として責任ある経営を行うことを指します。
「CSV(=Creating Shared Value)」は経済学者のマイケル・ポーター氏が提唱した概念で、日本語では「共有価値の創造」と表現されます。ビジネスの視点から社会課題の解決を図ることで企業価値と社会価値の双方の向上を目指すこの概念は、多くの経営者やCSRセクションから注目されています。CSVの概念は、守りのCSRから、新たな価値を生み出す攻めのCSVへと、企業の意識転換を促すきっかけとなりました。
「ESG投資」は従来からの投資評価軸である企業の財務情報に加え、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)面の活動や実績を考慮して投資することです。多大な資産を運用する機関投資家のあいだでは、企業の長期的成長とリスクを判断するためにESG視点で評価する動きが広がっています。ESG投資以前から存在した「SRI(社会的責任投資)」という投資手法では、持続可能な社会の構築に適さない企業を投資先から排除するネガティブスクリーニングが実施され、具体的には軍需産業、たばこ産業、アルコール産業、原子力産業、アダルト産業などの業種が適格ではないとされてきました。
日本最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2015年に「PRI(国連責任投資原則)」に署名したことで、日本でもESG投資に注目が集まり始めました。企業は当期利益だけ達成しても評価を得辛くなり、社会や環境に配慮した経営をしていなければ持続可能性が低いと見なされ、投資家や顧客、消費者から選ばれなくなります。
概念的で難しく感じるサステナビリティですが、企業であれば新たなビジネスチャンスと前向きに捉えたり、個人であれば将来をより良い方向に導くヒントとして認識したりすることで、自分事として捉えやすくなります。サステナビリティは、未来の自分や子供たちの将来にメリットがあるか?という問いかけでもあります。今は良くても、長い目で見たときにデメリットが大きいことはサステナブルではありません。サステナビリティから目を逸らすことはリスクであるとも言えるでしょう。
私たちは一人の人間でありながら、企業の顔、労働者、一般消費者、地域社会の一員など、状況が変われば様々な立場に置かれることは言うまでもありません。あらゆる目線で柔軟にサステナビリティについて考える習慣は、先行き不透明な未来を切り開く能力のベースになります。
「経済的な発展(エコノミ―)」と「地球環境や社会に配慮すること(エコロジー)」は相容れないことのように思われますが、「経済的な発展」を続けながら「地球環境や社会をより良くする」方法を探求することがサステナビリティの考え方です。
サステナビリティを実現するためのポイントは、一人ひとりが様々な視点から物事を「サステナブルであるかどうか」考えてみることです。当たり前の活動を見直す姿勢が、サステナビリティと向き合う第一歩。サステナビリティを実現するために個人として日常生活でできること、企業の立場でできることを、例を挙げてご紹介します。
個人の力は小さなことのように感じますが、一人ひとりが過去から積み重ねてきた選択の結果が大きな影響になることは昨今の状況を見れば明らかです。日常生活で取り組めることには以下のようなものがあります。
食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」の量は日本全体で年間643万トン、日本人一人当たり年間51キロと推計されます。日本は食料の多くを輸入に頼っている現状ですが、海外で作られた貴重な食料だということに無関心なまま廃棄していませんか?食材を使い切ること、食べきる量だけ料理を作る、注文することなどは、今日からできることです。
海の生物が大量のプラスチックを食べてしまい死に至るケースが増えています。海に漂流するプラスチックの多くは陸で廃棄されたものが雨風によって海へ流れ着いたものです。きちんと分別してゴミを捨てていても、突発的な悪天候で身の回りのプラスチック製品が飛ばされてしまうケースが考えられます。まずはマイボトル・マイバッグを持ち歩き、ペットボトルや買い物袋などすぐに捨てられてしまうプラスチック製品の消費を控えることからはじめましょう。
安い商品が作られる裏側で、だれかの労働力が不当に搾取されていたり、森林破壊が進んでいたりするとしたら。自分がその安い商品を求め続ける限り、歪んだ社会構造は変わらないかもしれません。最近は公正に取引されていることを認証する「フェアトレード商品」が増えています。国際フェアトレード認証ラベルの商品は、農家の生計を守るための適正価格支払いや児童労働をさせていないこと、過度な農薬不使用などを約束しています。消費者として商品選び方を変えることで、社会をより良くする力を贈ることができるのです。
電気、ガス、水といった生活に欠かせない資源は有限である上、日本はエネルギー資源のほとんどを輸入に依存しています。一方、世界では人口増加や途上国の経済発展などを背景にエネルギー需要は高まり続けています。限りあるエネルギーを効率よく使用するために家庭でできることから取り組みましょう。長時間使わない機器のプラグはコンセントから抜く、自動OFF機能を活用することなどが待機時消費電力削減に有効です。また、古い冷蔵庫やエアコンの買い替えも効果的です。
企業には金銭的資本、人的資本があります。その原資をもとにサステナビリティニーズをうまく取り込むことができれば、社会に大きなインパクトを与えることができます。企業としてできるサステナブルな取り組みには以下のようなものがあります。
環境保護や社会課題解決につながる自社商品・サービスの開発は、事業そのものを通じてサステナビリティに貢献できる方法です。従来型の環境負荷が高い製品はユーザーから敬遠される可能性も高まっています。環境・社会貢献製品は企業の強み。売れるほどに企業も成長し、社会にもメリットがある、理想的な姿です。
オフィスの照明設備を見直す、空調設備の運用を見直す、工場の水使用量を減らす、社用車を電気自動車に入れ替えるなどは、ビジネス上で発生する環境負荷を減らせる方法です。最近は二酸化炭素出量削減の目標値はどれくらいなのか、1年間でどれだけ二酸化炭素排出量を減らすことができたかなど、定量的な数値を求められるケースが増えています。
従業員が働きやすい環境を整備することも企業にとって重要なサステナビリティ施策です。ワークライフバランスを見直して、男女問わず育休の取得率が上がるようサポート体制を整える、介護や育児と仕事の両立がしやすいよう在宅勤務環境を用意する、作業現場の安全を確保するなど、従業員の健康や職場の衛生環境への配慮もサステナブルな企業には必要です。
コンプライアンス違反や脆弱な情報管理などは企業の信頼にかかわるリスクです。持続可能な事業は盤石なガバナンス体制に支えられます。社員へのコンプライアンス教育や緊急時の対応体制構築などは、何事も起きていない平常時こそ取り組むべきことです。
経営者がコミットメントしても、CSR担当者が張り切ってCSR計画を策定しても、それだけでは企業のサステナビリティは実現しません。肝心なのは社員が各自の立場や役割の中でサステナビリティを実行することです。役員、中間管理職、現場社員など、あらゆる層の社員にサステナビリティの意識が浸透している状態を目指し、社員のサステナビリティ理解を促し自分事として納得して実行できる社内風土を作ることが、サステナビリティ実現のポイントです。
世界のサステナビリティを牽引しているのはヨーロッパです。これはEU法が関係していて、EU法は大企業に対してサステナビリティ報告書の発行などで非財務情報を開示するよう定めています。さらに欧州委員会ではSDGsの推進を強化しているため、EU加盟国やEUに拠点がある企業はSDGs達成に向けたサステナブルな取り組みに注力しています。
SDGsの達成状況を示すレポート「Sustainable Development Report 2019」で発表された上位上位10か国はすべて欧州勢で、日本は15位に位置しています。
またヨーロッパの機関投資家の影響も大きいと考えられています。PRI(国連責任投資原則)に署名している機関の世界分布地図を参照すると、全署名機関の半数以上がヨーロッパ地域であることが分かります。PRI署名機関は企業のサステナビリティ戦略を重要な投資判断材料にするため、投資家から長期的に選ばれるためにも企業はサステナビリティを無視することができないのです。
欧州委員会や投資家、大企業らが積極的にサステナビリティと向き合うのと同時に、ヨーロッパはサステナビリティを個人のライフスタイルに取り入れて自然体に取り組む傾向が見られます。海外の若者は日本の若者に比べ「ボランティア活動に興味がある」と回答した割合が多いという調査結果からも、社会課題への関心の高さが伺われます。
このようにヨーロッパの企業が社会課題対応に敏感になったり、一般市民が早い時期からサステナビリティに関心を持ったりする理由の一つに、環境や人権などのNGO団体の声が強いことも挙げられます。NGO団体は倫理的に問題がある活動をしている企業に強い抗議を行います。その様子はメディアに取り上げられてニュースになるため、市民は社会問題について議論を交わすことが日常的です。その結果、企業はネガティブな側面を改善し、個人は自分の意見を持ちポリシーに合った行動を追求するようになるのです。
日本には昔から「売り手よし、買い手よし、世間よし」を意味する「三方よし」という近江商人の思想があります。これは売り手の利益や都合だけを押し売りするのではなく、買い手が心から満足し、社会発展や地域活性化にも貢献する商習慣を説くものです。日本企業は「お客様第一」、「社会全体を幸せにする」など三方よしの精神に沿った経営理念を掲げることが多く、真摯に働き多くの人に喜んでいただくことが商いの基本であると、自然に教育されていることが特徴です。このように日本はサステナビリティの精神を育む土壌が整っているのです。
しかし近年の日本社会を振り返ると、高度経済成長期には大量生産・大量消費の商品を提供することこそお客様、しいては社会全体を幸せにすると多くの人が信じていました。その一方で急速な経済成長は公害問題や環境破壊、働き過ぎによる健康被害など、過去なかった問題を引き起こす要因にもなったのです。そしてバブル崩壊後の1990年代以降になると安い商品を生産し続けるしくみに無理があることに気づき始めました。
この頃から日本経団連は経常利益の1%を社会貢献活動に寄付することを大企業に推奨するようになりました。企業活動がもたらす負の側面を寄付やボランティアなど事業とは別の形でカバーする取り組みが主流の時代です。90年代には環境マネジメントシステム「ISO14001」制定、環境省による「環境報告書作成ガイドライン制定」など、企業活動の環境負荷を把握・低減するしくみも整備され始めました。
2000年代に入ると大企業による粉飾決算や不祥事隠蔽など企業体質を問われる事件が相次いで発覚し、世間の声が厳しくなりました。コンプライアンス問題を起こした企業の商品を消費者が購入しない「不買運動」が発生すると、企業の株価は下落します。2006年に国連がPRIを制定したことも後押しして投資家はガバナンスが不透明な企業への投資をリスクと考えるようになりました。
2010年代の社会的責任の国際ガイドライン「ISO26000」発表以降、グローバル企業を中心にCSR対応が加速。2015年のパリ協定締結とSDGs採択を契機に、世界中がサステナビリティの実現に本気になりました。日本政府もSDGs推進本部を組成しその元で行政、民間、NGO・NPO、有識者、国際機関、各種団体などと対話を実施。2015年12月に日本の取組指針となる「SDGs実施指針」を決定するに至ります。
2020年1月のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で評価された「世界で最も持続可能性の高い企業100社」にランクインした日本企業は6社でした(12位 積水化学工業株式会社、68位 武田薬品工業株式会社、72位 コニカミノルタ株式会社、86位 花王株式会社、89位 パナソニック株式会社、92位 トヨタ自動車株式会社)。日本のサステナブルを牽引する企業の事例をいくつか見てみましょう。
同社は環境貢献度の高い製品販売で得た利益、資源・廃棄物等の管理、イノベーション能力、安全、従業員の定着率などの項目で高い評価を受けました。具体的な取り組みとして、社会貢献による成長度合いがわかりやすくなるように、外部有識者による客観的な評価を得た「環境貢献製品」の売上目標などを開示しています。これにより環境貢献製品の比率が明確になり、誰が見てもサステナビリティの成果を判断しやすくなりました。おもな環境貢献製品には、エネルギー自給自足推進住宅や、車のエアコン効率を上げる機能性ガラスフィルム、高い断熱性を有する配管用の断熱材などがあります。
同社は環境負荷低低減がコスト削減にもつながるという考えのもと、自社の環境技術・ノウハウを取引先や顧客にも提供することで、2050年までに自社排出量以上の二酸化炭素削減を実現する「カーボンマイナス」を宣言し、取り組みを進めています。また、超高齢社会が直面する介護問題をイノベーションで解決するために、深刻な人不足に悩む介護施設に最新テクノロジーを取り入れ、サステナブルな施設運営への貢献を目指しています。
同社が高く評価された点は、環境に配慮した製品やサービスによる収益の高さに加え、技術開発への投資、従業員の定着率などでした。同社は消費者がエコ商品を選ぶ際の購入判断となるよう、環境負荷が少ない商品ラベルに「いっしょにecoマーク」というわかりやすい表示をつける取り組みを行っています。このマークの表示基準は、基準製品に対してライフサイクル二酸化炭素排出量が低減されることに加え、環境主張の認定基準を一つ以上クリアしていることという厳しいもの。消費者の購買行動をサステナブルな方向へ誘導する工夫で、環境配慮製品の売り上げを拡大しています。
誰しもが自分の幸せだけでなく、まわりの人や地球の裏側にいる人、さらには未来に生きる世代のことまで考えて行動する時代の合言葉となっているのが「サステナビリティ(=持続可能性)」です。いつまでも健康で、楽しく働き、豊かな自然と共生し続け、大切な人を大切にできる未来。ささやかな願い事のように聞こえますが、サステナビリティが社会から強く求められていることは確かです。現在を生きる私たちが同じ思いを共有して前に進めば、きっと実現できます。まずは自分の立場や役割の中でできることから取り組みはじめましょう。
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