世界風力会議(GWEC)の報告書によると、2019年末と比較して2030年には洋上風力発電設備の市場が8倍ほどに増加するとのこと。欧州やアジアが市場をけん引する形となる見込みです。日本でも風力発電の導入拡大が期待されており、洋上風力発電を中心として国内の産業競争力を強化する戦略が立てられています。
ここでは、風力発電の仕組みやメリット・デメリット、他の発電方式との違いについてご説明します。なぜ、風力発電に期待が寄せられているのか、一緒に確認していきましょう。
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風力発電は、ブレードが回転することで発電する、風の力を利用した発電方式です。地上に建設される「陸上風力発電」と、海や湖などに建設される「洋上風力発電」の2種類に大別され、洋上風力発電はさらに以下の2種類に分類できます。
洋上風力発電の種類 | 概要 |
着床式洋上風力発電 | 海底に支持構造物を埋め込み、固定される洋上風力発電 |
浮体式洋上風力発電 | 海中に浮体構造物を建設し、水深が深い洋上でも建設を可能とする洋上風力発電 |
着床式洋上風力発電の場合、水深50mを超えた付近から採算性が悪化するため、水深が50mよりも深い場合には浮体式洋上風力発電が適しています。日本は遠浅の海岸が少なく、着床式洋上風力発電が適したエリアが狭いことから、浮体式洋上風力発電の導入拡大に期待が寄せられています。ただし、福島県沖に建設され、実証実験が行われていた浮体式洋上風力発電は、採算がとれず2021年度中に撤去されることとなりました。
洋上風力発電は、水上に設置するため陸上風力発電より丈夫さが求められ、波風にさらされるためメンテナンス費用もより多くかかります。そのポテンシャルに注目が集まる一方、まだ複数の課題を抱えている発電方式ともいえるでしょう。
風力発電所の構造は、以下の画像のような構成となっています。
*NEDO「風車の構造」
風力発電が占める割合
日本国内の電源構成における風力発電の割合は、2019年時点で0.8%です。再生可能エネルギーの分野では太陽光発電や水力発電の割合が大きく、いまだ石炭や石油などの化石燃料を利用した火力発電にエネルギー供給を頼っています。
*環境エネルギー政策研究所「2019年(暦年)の自然エネルギー電力の割合(速報)」
一方、再生可能エネルギーの普及が進んでいる欧州では、2019年時点で電源構成の40%超を自然由来のエネルギーによってカバーしています。再生可能エネルギーのうち、発電量の18%程度を風力発電が担っており、水力発電に次いで大きな存在感があります。
*自然エネルギー財団「世界全体と主要国の発電電力量と電源構成(最新四半期)」
その他、主要国における風力発電の割合は以下の通りです。
*自然エネルギー財団「統計|国際エネルギー」
グラフの右から二番目に位置する日本は、そもそもエネルギー供給における再生可能エネルギーの割合が小さく、特に風力発電の割合は他の主要国より低いことが分かります。エネルギー政策の指針となる「エネルギー計画」では、2030年度を目途に再生可能エネルギーの割合を22~24%に向上させ、風力発電は全体のうち1.7%を担うよう導入量を拡大する予定となっています。ただし、2020年10月には菅首相が「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」といった表明をしており、前倒しで再生可能エネルギーの割合が増大する可能性もあります。
風力発電には、他の再生可能エネルギーが備えているメリットを含め、多くの優れた点を有しています。ここでは4つの観点から風力発電のメリットをご説明します。
風力発電は他の再生可能エネルギーと同様、CO2の排出量が少ないため、地球温暖化防止の観点では優れた発電方式です。
日本はエネルギー自給率が乏しく、主要電源である火力発電の燃料は大部分を輸入に頼っています。
一方、風を利用して発電する風力発電は、エネルギー源が無尽蔵であり枯渇の心配はありません。風を含むあらゆる再生可能エネルギーは、日本が自国内で調達できるエネルギー資源であるため、風力発電の導入量拡大は国内におけるエネルギー自給率の改善にも効果を発揮します。
再生可能エネルギーのうち、太陽光発電は時間帯や天候の良し悪しによって発電量が変動し、夜間や曇天・雨天時には満足に発電できません。
一方、風力発電も天候に発電量を左右される点では同じですが、昼夜問わず、一定以上の風速があれば発電します。風力発電は太陽光発電とは異なり、発電が日中だけに限定されないという点がメリットの一つであります。
再生可能エネルギーのうち、特に水力発電や地熱発電は発電設備を建設できる条件が厳しく、水力発電であれば河川の付近、地熱発電であればマグマにより生じた地熱貯留層の上でなければなりません。
対して、風力発電は採算性の課題があるものの、発電設備を陸上はもとより、海上にも設置可能です。特に洋上風力は導入促進に伴う各種コストの低下が予想されており、今後の主力電源として期待されております。
風力発電の発電効率は20~40%程度です。太陽光発電や地熱発電、バイオマス発電の発電効率は20%程度と風力発電に劣っており、再生可能エネルギーのなかでは水力発電に次いで効率面で優れています。
また、他の再生可能エネルギーに比べて、発電コスト(発電量あたりのコスト)が低く、大規模な発電が可能であればコストは火力発電と遜色ありません。
多くのメリットを持つ風力発電にも、いくつかのデメリットがあります。
日射量により発電量が変動する太陽光発電のように、風力発電も風速によって発電量が左右されます。
また、前述の通り洋上風力発電は採算性に課題があり、実証実験のために約600億円の国費が投じられた浮体式洋上風力発電は、コスト面の問題により2021年に撤去されることが決まっています。条件次第では採算をとることが困難であることもデメリットの1つでしょう。
陸上風力発電に関しては、回転するブレードや増速機から生じる音が騒音苦情に発展することを防ぎつつ、一定以上の風量がある建設場所を探さなければなりません。近隣住宅との位置関係に配慮しつつ、風況の優れたエリアでなければ発電が難しい点にも課題があります。
「洋上風力産業ビジョン(第1次)(案)概要」のなかで、洋上風力発電の導入拡大は「再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札」と記述されており、今後の日本にとって洋上風力発電が重要な役割を担うことが分かります。
海に囲まれた日本は洋上風力発電の大量導入が可能であり、洋上風力発電にはコスト低減の余地があります。アジア市場における風力発電の導入拡大が見込まれる昨今、日本にいるサプライヤー(部品の供給者)が市場参入を果たすことで生産活動が盛んになり、経済波及効果も期待できるようです。
この状況を踏まえて、政府は2021年から2030年までに年間100万kW(計1,000万kW)、2040年までに3,000~4,500万kWの洋上風力導入を目標に設定。産業界は2040年までに国内調達比率を60%に引き上げ、着床式洋上風力発電における発電コストの目標を「2030~2035年までに1kWhあたり8~9円」に設定しました。特に、これらの政府と産業界が掲げた目標設定が、どれほどの積極性をもって実施されるかによって、洋上風力発電の導入拡大を左右すると考えられます。
以下資料の通り、2019年時点の風力発電導入量が392万kWであることを考慮すると、2021年以降の導入拡大は非常に大規模であることが分かります。
*一般社団法人 日本風力発電協会「日本の風力発電導入量(2019 年末時点:速報)」
現状の導入量に対する今後の目標設定を考慮すると、日本政府が風力発電の導入拡大に注力しており、再生可能エネルギーの1つとして期待していることが推定できます。
風力発電のうち、特に洋上風力発電は島国の日本にとって相性が良いと考えられます。採算性の課題を解消し、浮体式洋上風力発電の技術発展が進めば、日本のエネルギー問題における大きな一歩となるでしょう。日本のエネルギー供給を支える再生可能エネルギーの1つとして、風力発電には引き続き期待が寄せられます。
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