最近、不足が深刻視されている「半導体」についてご存知でしょうか?実のところ、いつも私たちは半導体を利用した道具・サービスに囲まれています。当メディアをご覧になっているパソコンやスマートフォン、タブレットにも半導体は使われていますし、部屋を照らす照明器具にも半導体が使用されているのです。
ここでは半導体の仕組みや、2021年における半導体不足の理由を中心にご説明します。
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半導体とは、導体(電気を通す物質)と絶縁体(電気を通さない物質)の中間の性質を持った物質です。
半導体は温度によって電気抵抗率が変動し、温度が上昇するほど電気を通しやすい特性を持っています。また不純物を含まない状態では電気を通さず、不純物が加わった状態では電気を通すといった特性もあるため、これらを利用して電流を制御したり、エネルギーを別のエネルギーに変換したりすることが可能です。
前述した通り、半導体は電化製品に利用されています。パソコンやスマートフォン、照明器具や洗濯機など、あらゆる電化製品には半導体が組み込まれていると考えて良いでしょう。
また個人の所有物以外では、鉄道や医療機器、ATMやインターネットも半導体が利用されており、実は「半導体がなければ社会インフラは成り立たない」といえるほどに活用されているのです。
先進分野の市場調査を行う、富士キメラ総研が手がけた「2020 先端/注目半導体関連市場の現状と将来展望」には、今後活用が進むと見られる半導体デバイスに16品目が挙げられています。以下が調査対象となった16品目です。
日常で耳にする機会のないデバイスも含まれますが、上記はおおむね「コンピューターの頭脳」や「複数のシステムのまとめ役」、「インターネット環境を構築するデバイス」に該当します。半導体と一口にいっても分類は数多く存在し、とくに上記の16品目が今後必要とされる可能性が高いと見込まれているようです。そして、早急な実現が求められている脱炭素社会にとっても、半導体は必要不可欠な存在です。
半導体は、実現が急がれている「脱炭素社会」の実現においても重要な役割を担います。
たとえば、二酸化炭素の排出量を抑えた移動手段として期待されるEV(電気自動車)は、車体に搭載されるモーターや電池の制御するために半導体が不可欠です。二酸化炭素を多く排出するガソリン車を廃止する声が強まるなか、EVが既存の自動車に取って代わるには、大量の半導体が必要となるでしょう。
また、再生可能エネルギーとして注目される太陽光発電は、光エネルギーを電気に変換する太陽光電池を備えています。この「太陽電池」にも、太陽光発電設備と併設されることも多い蓄電池にも半導体が使われており、半導体は脱炭素化と切っても切れない関係にあるのです。
2021年3月時点における、日本の半導体シェアは6%です。地域別ではアメリカがもっとも多くのシェアを占めており、世界のうち55%の市場を担っています。以下は、世界における半導体を販売する企業を上位から15番目まで並べた資料です。
*Gartner 「Gartner Says Worldwide Semiconductor Revenue Grew 10.4% in 2020」
上からIntel(アメリカ)、Samsung Electronics(韓国)、SK hynix(韓国)と並び、15位までに含まれる日本企業は10位のキオクシアのみです。
そのほかに関しては、1992年以降から世界トップの半導体メーカーとして君臨するIntelを始め、Micron TechnologyやQualcommなどアメリカ企業が多くランクインしています。
なお、上記のランキングに含まれないものの、半導体事業に注力している国内企業にはルネサスエレクトロニクスやソニーが挙げられます。それぞれ、ルネサスエレクトロニクスは自動車向け半導体、ソニーはイメージセンサーの製造に意欲的です。
半導体の需要が増している背景としては、人々の生活の高度化に関係する部分が大きいといえるでしょう。
前述したように、電気により稼働する大部分の機器・設備に半導体が使用されています。そして半導体を用いるパソコンやスマートフォン、家電製品、クラウドサービスは私たちの身の回りに増えつつあります。
また、デジタル機器やITサービスは先進国だけのものではなくなり、いまや発展途上国でも当然のように使われる状況となりました。今後、さらなる需要増加が予想されるEVや自動運転技術、その他のデジタルデバイス全般に半導体が使われることを考慮すると、需要は増加の一途をたどるものと予想されます。
昨今、半導体が不足しているという報道が目立ちますが、根本的な原因としては「急激な需要増加に供給が追い付かない」ことです。もともと半導体の需要が増している背景があるなか、新型コロナウイルス感染症に起因して需要増加に加速がかかったのです。具体的には、下記のような要因が挙げられます。
緊急事態宣言により企業は在宅勤務を取り入れ、学校は遠隔授業を採用しています。在宅勤務にも遠隔授業にもパソコンやタブレットなどが必要になるため、幅広い層にデジタル機器の需要が生まれたのです。
またビジネス業界に関しては、以前からデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める流れが強くなっていました。簡単にいうと、デジタルトランスフォーメーションは「会社のデジタル化」を指しており、これまで手作業で行っていた業務にAIを使ったり紙書類の電子化を進めたりする、事業の効率を高めるための施策です。
これまで推し進めていたデジタル化を止めることも難しく、むしろ在宅勤務の最適化にデジタルトランスフォーメーションが重要であることも相まって、企業はデジタル機器の導入を止められない状況にあるのです。
休日もできる限り自宅で過ごすことを強いられているいま、娯楽に用いるテレビやゲーム機も半導体を利用しているため、パンデミックが半導体の需要過多を担っていることは明らかでしょう。
外出自粛によりデジタル機器が一層必要となっている状況は、インターネットによるデータ通信量の増大を招きます。在宅勤務や遠隔授業の実施にともない、より盛んに利用され始めたクラウドサービスのインフラは半導体によって支えられています。
結果として、外出自粛によるデジタル機器の利用活発化が、データ通信量増大という二次的な半導体需要の増加を生じさせているのです。
また2021年以降は、5Gと呼ばれる次世代通信技術の普及が進められるため、データ通信にまつわるインフラ設備への投資は必要性が増す一方だと考えられます。ここまでに触れた外出自粛によるデジタル機器の需要増加と、それにともなうデータ通信を強化するための設備投資が、半導体需要の高まりを招いています。
新型コロナウイルス感染症の影響により、自動車販売台数はパンデミック前より減少傾向にあるものの、自動車に使用する半導体需要は一部で回復しつつあります。
後述するように、海外では工場を停止する大手自動車メーカーもありますが、2021年5月におけるトヨタ自動車の世界生産は前年同月比80%超となりました。前年度の業績不振による反動とはいえ、9か月続けてプラスが続いており、現状はV字回復の傾向にあるといえます。
トヨタ自動車の例を始め、一度落ち込んだ自動車の半導体需要は徐々に増加しつつあり、これも現在の半導体不足に影響していると考えられるでしょう。
なお、一連の要因により、世界の半導体市場は2020年に過去2番目の市場規模になったとのこと。WSTS(世界半導体統計)の「2021年春季半導体市場予測」によると、2021年における半導体市場は2020年比で19.7%拡大し、2022年には2021年比で8.8%拡大することが予測されています。
まず、半導体が不足すれば企業は自社製品を生産できなくなり、市場に需要があるにもかかわらず商品を流通させられなくなります。そのため、生産者は得られたはずの売上を獲得できなくなり、業績が悪化することが懸念されるのです。
CNET Japanにより翻訳・公開された「終わりが見えない世界的な半導体不足、アナリストの見解は」によると、半導体不足はほかの市場にもネガティブに作用するとのこと。
アメリカの大手自動車メーカーであるGeneral Motorsは工場すべてを一時停止し、イギリスのBMWもMini製造工場も生産を数日間停止。日本でもトヨタ自動車が工場の稼働を最大8日間停止しており、これらの自動車産業における停滞は、二次的影響として鋼鉄業界の停滞を誘発すると懸念されています。
また、同記事では一例として「搾乳機不足により牛乳の価格が上がる」と言及しており、半導体不足は実質的に経済全体にリスクをもたらすものと深刻視されています。
半導体不足の影響は消費者側にも悪影響を及ぼします。半導体の不足にともない、流通する製品も数が限定されれば価格が高騰する可能性があるのです。
結果として、半導体不足による影響を消費者が「製品の値上がり」という形で負担するシナリオもあり得ます。車載半導体を例にすると、HIS Markitが「2021年車載半導体不足への対処」のなかで、需給不均衡による作用として「10~15%幅の値上げは妥当」と言及しました。
なお、半導体不足による消費者側への影響は、新品の製品に限ったことではありません。製品の流通量が減少することで消費者の主な選択肢は3つに絞られ、結果として近接する市場や中古市場でも需給不均衡が起こる可能性があるのです。
すぐに新品が届く状況に戻らない以上、上記のような代替案を選ぶことになります。しかし、多くの消費者が同じ行動を取り、別製品を購入したり中古製品を調達したりし始めると、それらの市場でも同様に供給不足が起こります。
スマートフォンで例えるなら、最新型iPhoneの供給が追い付かず、消費者が型落ちのiPhoneや高機能なAndroidスマートフォンを購入するようなものです。結果として型落ちのiPhoneも高機能なAndroidスマートフォンも品薄となり、「必要なものが必要な人のもとに届かない」という状況を招くのです。
半導体メーカーは、製造工程や製造ラインを変更することで対処を試みているものの、半導体不足が短期のうちに解消されるかどうかは不透明です。ネットメディアには「半導体不足は続く」や「半導体不足は解消目前」といったニュースが混在していることからも、正確な予想が難しい状況であることがうかがえます。
2021年5月には、経済産業省が自動車の調達・供給への影響に備えるため会合を開催しました。
万が一の際に半導体の代替生産を可能とするため、半導体の製造工程を可能な限り標準化するよう、自動車メーカーに検討を呼びかけています。また、自動車メーカーに長期の生産計画を求めるような検討もしているようです。
パンデミックにより半導体不足は加速し、生産者側にも消費者側にも悪影響を及ぼすことが懸念されます。実際、すでに各業界は今後の見通しに不安を示しており、半導体不足の対処を議題とする会合が行われていることからも、事態の深刻さが見て取れます。
私たちの生活は半導体に支えられているといっても過言ではないため、今後の動向に注目が集まるところです。
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