主に発展途上国に散見される「搾取の対象となった貧困層」の救済、およびビジネスの新規開拓を両立する「BOPビジネス」をご存知でしょうか?
ここでは、低所得層を対象とした事業活動であるBOPビジネスについて、成功事例や成否を決める要因についてご説明します。
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低所得層・中間所得層・富裕層と3層ある経済ピラミッドのうち、低所得層を示す「BOP(base of the economic pyramid)」を対象としたビジネスをBOPビジネスと呼びます。
BOPの定義は発信元によって異なるものの、世界資源研究所・国際金融公社が公表した「The Next 4 Billion(次なる40億人)」を参照すると、低所得層・中間所得層・富裕層は以下のように定義づけられています。
「The Next4 Billion(次なる40億人)」によると、世界110カ国の家計調査対象となった約55億人のうち、72%がBOPに該当するとのこと。人口比率の高いBOPに対して製品・サービスを供給するBOPビジネスは、新市場の開拓と貧困問題の解消を両立できるビジネスのあり方として注目されています。
BOPに分類される人々は1人あたりの所得額こそ低いものの、BOP全体の購買力は非常に大きく、「The Next 4 Billion(次なる40億人)」のレポート内では消費者市場が5兆ドルにのぼると言及されています。
にもかかわらず、消費者市場の大きさに反して製品・サービスの供給は足りておらず、中間所得層を対象としたビジネスと比較して競争率は低い傾向にあるのです。つまり、潜在的なポテンシャルが高い一方、いまだ競争は激化していないためブルーオーシャン(競合のいない未開拓な市場)を発見できる可能性が高いといえるでしょう。このような理由から、BOPビジネスの関心度は世界的に高まっています。
ここでは、BOPに価値提供をしつつ企業としても成功を収めた、BOPビジネスの成功事例をご紹介します。着想も秀逸ではあるものの、BOPビジネスの成功の要ともいえる「現地密着性」に注目して各事例をご参照ください。
Hindustan Unileverは、石鹸・洗剤・ヘルスケア用品を販売する多国籍企業Unileverの子会社。インドにおいて美容目的の製品として捉えられていた石鹸を、病気を予防するために健康を目的として利用できることを広め、低所得層に向けて安価な製品を開発・販売しました。
また、同社は農村の女性を抜擢し、事業者として育成。雇用を生み出すとともに、次世代のビジネスを切り開く新たなリーダーの創出に貢献しています。
Smart Communicationsは、フィリピンの低所得者をメインの顧客層とする通信事業者。同社は、SMS(ショートメッセージサービス)による電子通信時間の売買を可能としました。電子通信時間の販売単位は少額に設定されており、サービス利用のハードルを低くすることに成功しています。これにより、多くの低所得者が日常的に通信サービスを使えるようになりました。
さらに、Smart Communications は文字メッセージをもちいた送金の通知システムを構築し、銀行を利用したことのない人々に携帯電話を利用した銀行サービスを提供。自分の銀行口座から手元の携帯電話に対しての送金や、あらゆる商品・サービス・公共料金の支払いが携帯電話1つで行えるようになり、国内の金融インフラとして重要なポジションを確立しました。
Celtelは、政情不安にあるアフリカの国々で電気通信ビジネスを開始した企業です。
社会問題・政治情勢が難しい状況にあるエリアにおいて、Celtelは賄賂等の汚職に足を踏み入れないことを公言し、健全かつ低所得層のニーズにのみ応えるサービスを提供。同社のサービスがBOP層における携帯電話の普及率を劇的に伸ばし、事業スタートより7年のあいだに大手企業に成長しました。政情不安にある領域において、倫理観を全面に押し出したビジネスを成功させたことで、経済的にも社会的にも貧困国へ貢献したBOPビジネスだといえます。
BOPビジネスを成立させるにあたり、当該地域における消費者心理や文化をリサーチするなど、いかに現地密着性を重視できるかが成否を左右します。具体的には、以下の課題を解決しなければ、BOPビジネスを成功させることは困難でしょう。
BOPの貧困は、製品・サービスの流通経路が未整備であり、一部の権力者が不当にBOPを搾取していることも一因となっています。大前提として、これを無視してBOPビジネスを成立させることはできません。
また、BOPは中間所得層や富裕層とは異なる価値観を持っているケースが多く、中間所得層以上に提供している製品・サービスをそのまま廉価版に作り変えて販売すれば成功するといった、短絡的な計画ではBOPビジネスが成功しないことが確認されています。
BOPは世界各地に点在しており、それぞれの文化・コミュニティ・ルールに則った消費活動を行っているため、まずは上述したポイント4つの解決策を知るため現地調査が必要でしょう。ひいては、その行動が当該地域における持続可能なビジネス展開に繋がるものと考えられています。
BOPビジネスはBOPを救済することで、途上国における経済レベルを底上げし、さらにはビジネスチャンスの獲得を両立できるビジネスのあり方だと期待されています。しかし、BOPビジネスに参入する多くの企業が、BOPビジネスに失敗してきました。
これは、企業がBOPを対象としたビジネスで利益を得ることと、BOPの貧困を解消することの両目的において、すり合わせが不足していたからだと考えられます。実際、持続可能な経済開発の専門家であるフェルナンド・カサード・カニェーケ氏、スチュアート・L・ハート氏の著書「BoPビジネス3.0 ― 持続的成長のエコシステムをつくる」のなかでは、初期のBOPビジネス(同書が定義するBoP1.0)は「BOP層に商品を売る」ことにフォーカスしすぎていた点が指摘されています。
これを反省点として、BOPビジネスはつぎのフェーズ(同書が定義するBoP2.0)に移行。BOP層に商品を売るだけでなく、BOP層と企業が手を取り合って繋がりを形成し、利益の共創を目指しました。
同書ではさらにつぎのフェーズ(同書が定義するBoP3.0)を提唱し、より広範囲なエコシステムの構築を目指すべきだと主張しているものの、目下の課題は持続可能な成長のための基盤を盤石とすることが現実的でしょう。BOPビジネスに参入するすべての企業が「BOPとの協力による富の共創」に注視し、いわゆる「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」という長期志向のビジネスプランを打ち出すことが、BOPビジネスの活性化へ結び付くのだと判断できます。
貧困に悩まされる人々へ豊かさを提供することは、BOPの経済レベルを引き上げることに繋がります。これは、長期的に見ればBOPを中間所得層に引き上げることの助けとなり、彼らの経済力アップはまわりまわって自社のBOPビジネスの利益拡大に寄与します。
BOPが中間所得層に引き上げられるフェーズを迎えるころには、彼らとBOPビジネスを展開する企業のあいだには強固な信頼関係が築かれているため、これが参入障壁となりある程度の競争優位性を維持できるはずです。
成長率が高く、いまだ市場開拓の余地が多くあることから、BOPビジネスは将来性の大きなビジネスのあり方だといえるでしょう。
BOPビジネスは、途上国におけるBOPの生活レベル向上と、ビジネスの市場開拓を両立できる有意義な取り組みです。「The Next 4 Billion(次なる40億人)」にも明示されているように、BOPを対象とした価値提供には計り知れない大きさのポテンシャルが秘められています。 BOPが中間所得層となり、世界全体の経済水準が改善されることを目指して、今後ますますの発展が期待されます。
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