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洋上風力

世界が洋上風力に注目する理由

2021年03月02日

近年、海や湖などに建設される「洋上風力発電」が注目されていることをご存知でしょうか?従来はコストやメンテナンス性の観点から、地上に設置するタイプの風力発電が主流でしたが、洋上風力発電には陸上タイプにはない利点があります。
ここでは、洋上風力発電の仕組みや種類、世界が洋上風力発電に注目する理由についてご説明します。

洋上風力発電とは

風力発電のうち、海や湖などに建設されるものを洋上風力発電と呼びます。洋上風力発電は、以下の2種類に大別されます。

  • 着床式洋上風力発電
  • 浮体式洋上風力発電

着床式洋上風力発電は水深が浅い海岸、浮体式洋上風力発電は水深が深い海岸の設置に適しており、それぞれ下図のように支持構造物や浮体構造物の真上に建設されます。

浮体式洋上風力発電技術ガイドブック

*国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「浮体式洋上風力発電技術ガイドブック

着床式洋上風力発電と浮体式洋上風力発電にどのような違いがあるのか、さらに掘り下げて解説していきます。

着床式洋上風力発電の仕組み

着床式洋上風力発電は、海底に支持構造物を埋め込んで固定するタイプの風力発電です。一般的に、水深50m未満の比較的浅い海岸では、着床式洋上風力発電が適していると考えられています。昨今、欧州を中心として洋上風力発電の導入が盛んに行われていますが、その多くが着床式洋上風力発電です。

浮体式洋上風力発電の仕組み

浮体式洋上風力発電は、海中に浮体構造物を建設し、その上に設置するタイプの風力発電です。水深50mよりも深い場合、着床式よりも浮体式洋上風力発電の方が採算性で有利になります。日本の近海は水深が深い傾向にあるため、浮体式洋上風力発電の導入に適していると考えられており、現在進行形で実用化に向けた研究開発が進められています。

促進区域について

洋上風力発電の導入は、自然的条件が適切であり、漁業や海運業などに支障を及ぼさない範囲で行われるべきです。そのため、再エネ海域利用法と呼ばれる法律にのっとり、洋上風力による発電事業に適切な場所を「促進区域」として指定することになっています。下記の基準に基づいて、経済産業大臣と国土交通大臣より促進区域が指定されます。

  • 自然的条件が適当であり、出力量が相当程度になる見込みがある
  • 航路・港湾の利用、保全や管理に支障がなく、発電設備を適切に配置できる
  • 必要な人員・物資の輸送に関して、当該区域と区域外の湾港を一体的に利用できる
  • 維持・運用する電線路との電気的な接続が適切に確保される
  • 発電事業により、漁業に支障を及ぼさないと見込まれる
  • 他の法律により指定された漁港・湾港区域・海岸保全区域等と重複しない

世界が洋上風力に注目する理由

洋上風力発電の大量導入に積極的な国・地域は多く、洋上風力先進国は今後さらなる導入拡大を目指しています。以下資料は、各国資料をもとに自然エネルギー財団が作成した、2020年時点における洋上風力先進国・地域の導入目標です。

2020年時点における洋上風力先進国・地域の導入目標

*自然エネルギー財団「洋上風力が日本のエネルギーを支える

導入目標に使われている単位であるGW(ギガワット)は、kW(キロワット)の100万倍にあたります。家屋の屋根に取り付けられる太陽光パネルは、その多くが10kW未満であることを考慮すると、洋上風力先進国が導入目標とする10GW、20GWといった導入量は大規模であることが分かります。陸上風力発電よりも建設や運用維持にかかるコストが大きく、長年主流ではなかった洋上風力発電に対し、なぜこれほどの注目が集まっているのでしょうか?

洋上風力発電の優位性

洋上風力発電には、陸上風力発電にはないメリットが複数あります。

  • 近隣に住宅がないため騒音問題が起こらない
  • 陸上より風力を得やすく、安定的に発電できる
  • 土地や道路の制約がなく、大型設備を建設できる

風力発電所は、ブレード(羽根車)の回転や増速機と呼ばれる装置から、耳障りな音を発生させることがあります。しかし、洋上風力発電の設置場所は海上や湖上であり、近隣に住宅がないため騒音問題に発展することはありません。また、洋上は建物や地形に風を遮られないため発電量が安定しやすく、土地や道路による建設の制約がないため大型設備の建築が可能です。

以上の理由から、洋上風力発電はより効率の良い風力発電として注目されています。技術革新や大型化により、採算性の課題が改善されつつあることも、導入に拍車をかける要因の1つです。

洋上風力が盛んなイギリスの現状 

欧州は世界に先駆けて洋上風力発電に力を入れており、そのなかでもイギリスは特に市場が盛んな傾向にあります。2019年時点において、世界の洋上風力発電における累積導入量は29.1GW。イギリスの累積導入量は全体の33%に相当する、約9.9GWを占めています。

イギリスでは、1990年代後半から洋上風力発電の導入を進める動きがあり、2000年に策定された「Climate Change The UK Programme」には洋上風力の推進が明記されました。以降、イギリスでは海域利用の割り当てが行われています。2021年現在、イギリスが世界最大の導入量を誇っている状況は、洋上風力発電の導入を早期に進めたことが大きく関与しているといえるでしょう。イギリスが洋上風力発電に注力し、ここまで導入量を拡大してきた理由はいくつか挙げられます。

イギリスで洋上風力発電の導入が進む理由

イギリスが洋上風力発電を急拡大した背景には、以下のようなイギリスの特性が関係しています。

  • 国土面積が狭く、人口密度が高い
  • 海岸線が長く、排他的経済水域が広い
  • 遠浅の海岸が広がっている

イギリスの国土面積は狭く、人口密度が高いため、発電設備を設置できる土地は広くありません。一方、イギリスは海岸線(陸地と海水面の境界)が長く、排他的経済水域が広範囲です。また、遠浅の海岸が広がっており、すでに実用化されている着床式洋上風力発電の建設に適しています。これらの条件が重なっていることから、導入量に限界がある陸上風力発電ではなく、排他的経済水域を活用した洋上風力発電の導入が進んだのです。

課題と今後の展望

日本は「海岸線が長く、排他的経済水域が広い」という点でイギリスと似ており、洋上風力発電を導入する余地は多く残されています。日本風力発電協会が公開している「洋上風力の主力電源化を目指して」によれば、日本の洋上風力発電におけるポテンシャルは以下の通り。なお、ここで使われるポテンシャルとは、年平均風速・推進・離岸距離・公園指定海域等の一定条件から求められた、資源として利用できる可能性のある風力エネルギー量を指します。

項目各洋上風力発電のポテンシャル
着床式洋上風力発電(水深10~50m)約128GW
浮体式洋上風力発電(水深100~300m)約424GW

上記の表から読み取れるように、水深の深い海岸に囲まれている日本では、浮体式洋上風力発電の導入に大きなポテンシャルがあるようです。ただし、浮体式洋上風力発電は実用レベルにいたっておらず、本格的な導入を始められる時期はまだ先であると考えられます。

事実、福島第一原子力発電所の事故以降、福島復興の象徴として始まった浮体式洋上風力発電の実証実験は、採算がとれず2021年に撤去する運びとなりました。同事業には600億円以上の費用が投じられていたものの、陸上風力発電の実績が乏しい段階から始めたことも要因となり、商用化にいたらなかったようです。

実証実験に使われた同設備の引継ぎ先として立候補した企業も、長期的な事業継続が困難だと判断されたために破談となっており、日本に洋上風力発電を普及させるためにはコスト・技術の両面において課題が残されています。

おわりに

周囲が海岸に囲まれた日本は、洋上風力発電の導入が盛んなイギリスとの類似点があるため、今後の導入拡大に期待が寄せられています。福島県沖における実証実験の頓挫からも、採算性に優れた発電設備の開発難度の高さを読み取れますが、諸課題をクリアした浮体式洋上風力発電の実用化が待たれます。

EnergyShift編集部
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