「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」と呼ばれる組織をご存知でしょうか?
IPCCは、人間によって引き起こされる気候変動に対して、科学的・技術的・社会経済学的な観点から評価する組織です。ここではIPCCの目的や活動内容、組織構成などを分かりやすくまとめているので、IPCCの概要を知りたい方はぜひご参照ください。
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IPCCは、世界気象機関(WMO)と国連環境計画 (UNEP)によって設立された組織です。人間によって引き起こされる気候変動に対して、科学的・技術的・社会経済学的な観点から評価することを目的としています。総会といくつかの作業部会、温室効果ガス目録に関するタスクフォースから構成されています。
IPCCは、議長団の下部に第一作業部会・第二作業部会・第三作業部会、および温室効果ガス目録に関するタスクフォースが設けられ、各国にいる多数の科学者の協力のもと活動が行われています。
それぞれ、以下のような役割を担っています。
組織構成 | 主な役割 |
第一作業部会 (ワーキンググループ1) | 気候変動に関する科学的な評価を下す |
第二作業部会 (ワーキンググループ2) | 気候変動による自然、および社会経済への影響や適応策について評価する |
第三作業部会 (ワーキンググループ3) | 気候変動への対策(緩和策)について評価する |
温室効果ガス目録に関するタスクフォース | 温室効果ガス排出量・吸収量を把握するための検討を行う |
環境省が作成する日本国内向けの資料の一部は、IPCCにより作成された報告書をもとに作成されています。そのため、私たちが地球環境にまつわる情報収集を行う際、IPCCによってまとめられたデータを間接的に閲覧している機会は多いといえるでしょう。
地球温暖化とそれに伴う気候変動について、最新の知見を評価して報告書にまとめ、地球温暖化対策に科学的な根拠を与えることがIPCCの目的・役割です。
IPCCによって作成された報告書は、国際的な合意に基づいた意見として認識されています。そのため、政治・国際交渉にも利用されており、気候変動枠組条約や京都議定書の採択もIPCCの報告書が重要な材料となりました。
IPCC設立は、1979年に開催された第一回世界気候会議と、それ以前から行われていた地球全体の継続的な観測が関係しています。
第一回世界気候会議は、1957年から1958年にかけて行われた国際地球観測年以降に観測された、地球全体における二酸化炭素濃度の高まりが一因となって開催された会議です。その後、1985年にオーストリアのフィラハにて開催されたフィラハ会議を機に、二酸化炭素の増加による地球温暖化が本格的に問題視され始めます。
のちに、気候変動に関する評価を実施し、地球温暖化対策に科学的な根拠を与えるため、世界気象機関(WMO)と国連環境計画 (UNEP)によって1988年にIPCCが設立されました。
IPCC第5次評価報告書をもとに、環境省が作成した以下の画像から読み取れる通り、陸域と海上をあわせた世界平均地上気温は1880年から2012年のあいだに0.85℃上昇しました。
*COOL CHOICE「地球温暖化の現状」
二酸化炭素の濃度も年々高まっており、その濃度は産業革命前に比べて40%増と高い数値を示しています。つぎの画像は、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」が観測した、世界のCO2濃度分布観測結果です。
*COOL CHOICE「地球温暖化の現状」
2009年には世界の大部分が深い青色となっていますが、2013年には世界全体の二酸化炭素濃度が高まって水色に代わり、2018年のデータでは大部分が黄色やオレンジ色に染まっています。
次章では、このような二酸化炭素濃度の高まりが、気温・海面水位にどのような影響をもたらしていくのかご説明します。
気候変動影響評価等小委員会が公表した「日本における気候変動による将来影響の報告と今後の課題について(中間報告)」によれば、1986 年から 2005 年の気温変化を基準とした場合、温暖化対策の程度によって2081 年から2100 年のあいだに以下のような差が生じるようです。
気温上昇の抑制に努めた場合 | 多量の温室効果ガス排出が続く場合 | |
世界平均地上気温 | 0.3~1.7℃の上昇 | 2.6~4.8℃の上昇 |
世界平均海面水位 | 0.25~0.55mの上昇 | 0.45~0.82mの上昇 |
*気候変動影響評価等小委員会「日本における気候変動による将来影響の報告と今後の課題について(中間報告)」
気温上昇の抑制に努めた場合、2081 年から2100 年にかけて気温は0.3~1.7℃上昇し、海面水位は0.25~0.55m高くなる見込みです。
これでも大きな変化に思えますが、今後も多量の温室効果ガスを排出し続ける場合は、2081 年から2100 年にかけて気温は2.6~4.8℃にまで上昇し、海面水位は0.45~0.82m高くなると予想されています。
気候変動が起きる主な要因は、二酸化炭素を始めとする温室効果ガスの増加です。本来、温室効果ガスは熱が宇宙に逃げないよう大気にとどめ、地球の温度を適正に保つ役割を持っています。
しかし、温室効果ガスが増えすぎると、熱を逃がさない機能が適正水準を超えて働いてしまうのです。国立環境研究所地球環境研究センター副センター長の江守正多氏は、「気温が1℃上がると、水蒸気量が7%くらい増えると考えられます」と述べており、気温上昇が気候に多大な影響をもたらすことが分かります。気温上昇によって大気中の水分量が増加し、結果的に大型台風や豪雨といった異常気象を誘発します。
これまで、人間は経済活動に伴い多量の温室効果ガスを排出し、同時に二酸化炭素を吸収する森林を伐採してきました。先進国の二酸化炭素排出量は減少に傾き始めたものの、世界全体での二酸化炭素排出量は増加を続けています。
*IPCC第5次評価報告書 全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイトより
温室効果ガスの増加により誘発される気候変動は、異常気象の要因となるほか、複数の観点から地球全体に悪影響をもたらします。
気候変動が引き起こす影響としては、以下が挙げられます。
それぞれ、どのような問題が懸念されているのかご説明します。
気候変動により地球環境が変われば、生態系のバランスが崩れてしまいます。
たとえば、アオウミガメは孵化温度がわずか数℃異なるだけでも、オスが生まれるかメスが生まれるかの比率が大幅に変わります。もしも気候変動により気温上昇が続けば、アオウミガメはメスばかりが生まれてしまい、結果的に個体数の減少や絶滅にいたる可能性があるのです。
ほかにも、氷がない期間は主食のアザラシを獲れないホッキョクグマが、気温上昇により長いあいだ氷が解けるため絶食状態にさらされる問題。気候変動によって竹の生育・発芽が妨げられ、竹林へ住み竹を食べるパンダの生息地がなくなってしまう問題など、気候変動は多くの問題を招き動植物が絶滅に追いやられてしまうのです。
気候変動は、経済へも悪影響をもたらします。
たとえば、気温が上昇して感染症のリスクが高まれば、外出回数が減り商圏が縮小されます。2020年に大流行した新型コロナウイルス感染症によって、多くの商業施設・旅行会社が赤字経営となったことは記憶に新しいでしょう。
このほか農作物の生産量低下、漁獲量の減少による食料品の価格高騰など、連鎖的に多くの問題を招きます。また、地球温暖化が進行することで労働生産性は低下し、2030年には世界で推定2兆4,000億ドル(約260兆円)の経済損失を招く可能性があると、国際労働機関(ILO)が2019年に発表しました。
国際労働機関の試算では、今世紀末までに気温が1.5℃上昇し、2030年までに総労働時間の2.2%が失われることを想定しています。今世紀末までに1.5℃上昇するという試算は、先ほど解説した予測における「気温上昇の抑制に努めた場合」の範囲内に該当するため、気候変動への対策が不十分であれば失われる経済損失はさらに大きくなるものと予想されます。
熱中症や感染症患者の増加も、気候変動によって懸念される問題です。以下は、IPCCによる情報をもとに環境省が作成した、気温上昇により起こる環境変化と健康影響の資料です。
*環境省「地球温暖化と感染症」
気温上昇による直接的な影響としては、暑さによる熱中症や循環器系・呼吸器系疾患の死亡率上昇。異常気象の頻度・強度の変化による、障害や死亡率の増加が挙げられています。
一方、間接的な影響は広範囲に及ぶことが見込まれており、感染症や喘息、アレルギー疾患の増加が懸念されるようです。地域ごとに起こり得る、具体的な健康影響としては以下が挙げられ、世界中であらゆる感染症が拡大する可能性について言及されています。
*環境省「地球温暖化と感染症」
生物や経済への悪影響を差し引いても、気候変動への対策を怠ることで恐ろしい状況を招くことが分かります。
気候変動が招く悪影響を阻止するため、世界・日本では環境保全のために多くの取り組みが行われています。ここでは、世界・日本の主な取り組みについて、それぞれご説明します。
2020年以降は、パリ協定が世界的な地球温暖化対策の枠組みです。パリ協定では以下の目標が掲げられているほか、参加国がそれぞれに削減目標を提出することとなっています。
参加国の削減目標は一定期間ごとに提出・更新しなければならず、専門家のレビューを受けることとなっています。なお、2020年以前は、京都議定書が世界的な地球温暖化対策の枠組みでした。
日本では「地球温暖化対策計画」をもとに、産業部門や家庭部門など5つの部門に分けて対策が進められています。また、2020年10月末に開催された第42回地球温暖化対策推進本部において、菅首相は以下の取り組みに注力するよう呼びかけています。
菅首相は「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」といった主旨の表明もしており、日本での気候変動に対する取り組みはより積極的なものになると予想されます。
ここでは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の役割や、気候変動についてご説明しました。
日本では、環境問題に関心のある一部の人々にしか認知されていませんが、IPCCは地球温暖化対策の中枢に関わる世界的な組織です。私たちが閲覧する環境省のデータにも関わりが深い、身近な存在なのだと覚えていただければと思います。
なお、地球温暖化が及ぼす影響については、以下の記事で詳しく解説しています。私たちにできる取り組みもご紹介しているので、ぜひご参照ください。
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